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東北大など、液体金属流から電気エネルギーを取り出せることを解明

2015-11-09

液体金属流から電気エネルギーを取り出せることを解明
〜電子の自転運動を利用した新しい発電へ〜

■ポイント
 >電子の自転運動と液体金属の渦運動が量子力学的に相互作用することを世界で初めて証明した。
 >電子の自転運動が液体金属流に応じて変化する性質を使った全く新しい発電方法を発見した。
 >発電装置を超小型化し、ナノサイズの電源技術や流体速度計への応用が期待される。


 JST戦略的創造研究推進事業において、ERATO齊藤スピン量子整流プロジェクトの東北大学 大学院理学研究科の高橋 遼(大学院生、兼 日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター 実習生)、日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センターの松尾 衛 副主任研究員、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構/金属材料研究所の齊藤 英治 教授らは、液体金属中の電子の自転運動を利用した新しい発電法を発見しました。
 原子や電子のようなミクロの世界を考える量子力学 注1)では、電子は自転運動をしていることが知られています。
 本研究グループでは、水銀やガリウム合金 注2)のような液体金属中で、金属の流れによって生じる渦運動と、その金属原子中の電子の自転運動が相互作用することを理論計算により発見しました。また、実際に直径数百ミクロン(1000分の1ミリ)の細管に液体金属を流すことで、100ナノボルト(1000万分の1ボルト)の電気信号が得られることを明らかにし、渦運動によって、電子が発電機のタービンのように回転して発電する方法を理論と実験の両面で確立しました。電子の自転運動と液体金属の渦運動を量子力学に基づいて相互作用させることに成功した世界で初めての例といえます。
 今回発見した新しい発電法は、従来の発電機のタービンのような構造物を一切必要としないので、発電装置の超小型化につながることが期待されます。将来は、わずかな電気で動作するナノサイズの超小型ロボットの電源技術や、流体速度計 注3)に応用できると期待されます。本研究成果は、2015年11月2日(英国時間)に英国科学誌「Nature Physics」のオンライン版で公開されます。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)
  研究プロジェクト:「齊藤スピン量子整流プロジェクト」
  研究総括:齊藤 英治(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構/金属材料研究所 教授)
  研究期間:平成26年11月〜平成32年3月
 上記研究課題では、電子スピンが持つ整流性に注目し、これを基礎とした物質中のゆらぎの利用原理の構築と、スピンを用いた新たなエネルギー変換方法の開拓を目指します。


<研究の背景と経緯>
 電子は、電気と磁気の2つの性質を持っており、磁気の起源は「スピン」と呼ばれる電子の自転運動であることが知られています。近年、ナノテクノロジーの目覚ましい進展に伴い、電気の流れだけでなく、ミクロの世界における電子の自転運動を制御することによって、「スピン流 注4)」と呼ばれる磁気の流れを生み出すことが可能になりました。スピン流を流す際に発生する熱量は、電流と比較して極めて小さいことが知られており、電子デバイスへのスピン流利用は、次世代省エネルギー電子技術として注目されています。
 スピン流の生成制御には、電子のスピンの相互作用 注5)を利用する必要があります。電子スピンは、電磁場、熱、音波などと相互作用することが知られており、これらの相互作用を通してさまざまな形態のエネルギーをスピン流に変換する技術が確立されてきました。しかし、スピン流の利用は固体物質中に限られており、液体金属のような流体でスピン流を生成できるかどうかは不明でした。
 一方、コンピューターで用いられる論理集積回路 注6)の微細化と高密度集積化に伴う消費電力の増大や発熱を解消する方法のひとつとして、液体金属の利用が検討されています。現在、論理集積回路への電気的なエネルギーの供給には固体の金属導線を使用していますが、これを液体金属に置き換えることで、流れる金属が電荷を効率的に運びながら熱を吸収でき、消費電力の低減と排熱能力の向上が期待されているためです。
 こうした背景から、本研究グループは、液体金属中でスピン流を生成させ、それを制御することができれば、スピンと液体金属と両者のメリットを兼ね備えた全く新しい省エネルギーデバイスやエネルギー変換・利用技術が実現できると考えました。


<研究の内容>
 本研究グループは、電子のスピンの相互作用に関する理論を世界に先駆けて開拓してきました。本研究では、周囲の物体の振動や回転運動に影響されて、物体中を流れるスピンの現象を理論と実験の両面から研究し、流れる液体金属中に電子のスピン流を生み出す方法を見いだしました。
 具体的には、水銀やガリウム合金のような液体金属を細管に流すと、管の内壁と液体金属の間の摩擦によって、液体金属中に渦運動が発生します(図1)。この渦の強さは、管の内壁で最大であり、内壁から管の中心に向かって弱まります(図2)。
 このような渦運動の分布によって、液体金属中の電子の自転運動が影響を受け、渦運動の強いところから弱いところに向かって、スピン流が流れることが理論計算によって明らかになりました。また、管の内壁から中心に向かって生成されたスピン流は、さらに液体金属中で散乱され、管に沿った方向に電圧を発生することも理論計算で明らかになりました(図3)。
 この理論予想に基づいた実証実験を行ったところ、直径数百ミクロンの細管に液体金属を流す際に生じる液体金属の渦運動を用いて、その液体金属中にスピン流を生み出し、その結果生じる100ナノボルト(1000万分の1ボルト)の電気信号を取り出すことに世界で初めて成功しました(図4)。


<今後の展開>
 実証実験によって、電子のスピンが、液体金属の渦運動と量子力学的に相互作用することが世界で初めて証明されました。従来の電子スピンの制御には固体物質を用いてきましたが、電子スピン研究に液体金属を利用できることが明らかになりました。
 また、従来の流体発電では、水流でタービンを回転させる水力発電や、磁石を使った磁気流体発電 注7)のように、タービンや磁石といった外部装置が不可欠です。ところが、今回発見した手法では、電子の自転運動と流体渦運動との相互作用を利用するので外部装置が不要となり、原理的には超小型化が可能です。本実験で得られた電気信号は100ナノボルトと微弱ですが、微弱な電力で駆動するナノロボットの電源装置への応用が期待されます。また、得られる電気信号の強度が流体の速度(分布)に応じて変化することを利用して、ミクロンスケールの微小な領域における流体の速度を電気で観測する流体速度計の実現も期待できます。


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・参考図(図1〜4)
  ・用語解説
  ・論文タイトル



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