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東大と京大、遺伝的多様性の新しい影響を発見

2014-10-25

遺伝的多様性の新しい影響を発見
わずかな性質の違いが生態系を変化させる可能性


1.発表者:
 吉田丈人(東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系 准教授)
 笠田 実(東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系 博士課程大学院生)
 山道真人(京都大学白眉センター/生態学研究センター 特定助教)


2.発表のポイント:
 ◆生物のもつ遺伝的性質のわずかな違いが進化や個体数変化のあり方を変えることで、生態系に大きな影響を与える可能性を、プランクトンを用いた実験生態系により初めて実証した。
 ◆生物多様性の要素のうち遺伝的多様性については、その重要性を裏付ける学術的知見が乏しいが、今回の研究により遺伝的多様性のもつ新しい影響が明らかとなった。
 ◆種の保全だけでなく、種内の遺伝的多様性を保全する意義の一つが新たに明らかとなり、今まで以上に遺伝的多様性の考慮が重要となる可能性を指摘した。


3.発表概要:
 生物は個体毎に異なる遺伝子を持っており、種内に遺伝的多様性があります。遺伝的多様性により、生物は素早く進化することが可能であり、生物多様性の重要な要素と考えられています。しかし、遺伝的多様性が生態系に与える影響の理解は進んでおらず、生物多様性保全の国際的な議論においても、遺伝的多様性の重要性を裏付ける学術的知見が乏しいことが課題となっています。また、感染症流行への対策や野生生物や水産資源の管理においても、遺伝的多様性のもつ影響の理解は重要ですが十分には進んでいません。
 東京大学大学院総合文化研究科の吉田丈人准教授と、京都大学白眉センターの山道真人特定助教らの研究グループは、遺伝的性質のわずかな違いが進化や個体数変化のあり方を大きく変えることで、生態系に大きな影響を与える可能性を新たに発見しました。この研究は、プランクトンを用いた実験生態系による室内実験と、数理モデルによる現象理解を組み合わせて実施されました。
 今回の研究成果は、遺伝的多様性の重要な一面を新たに発見したものであり、国内外の生物多様性保全を裏付ける学術的知見として利用されることが期待されます。また、社会の身近な問題である感染症や生物管理の現場において、遺伝的多様性の考慮を一層強く求めることにもつながることが期待されます。


4.発表内容:
 生物は個体毎に異なる遺伝子をもっており、種内に遺伝的多様性があります。遺伝的多様性により、生物は素早く進化することが可能であり、生物多様性の重要な要素と考えられています。しかし、遺伝的多様性が生態系に与える影響の理解は進んでおらず、生物多様性保全の国際的な議論においても、遺伝的多様性の重要性を裏付ける学術的知見が乏しいことが課題となっています。また、感染症流行への対策や、野生生物や水産資源の管理においても、遺伝的多様性のもつ影響は重要だと考えられていますが、その理解は十分には進んでいません。

 東京大学大学院総合文化研究科博士課程の笠田実大学院生と吉田丈人准教授らと京都大学白眉センターの山道真人特定助教の研究グループは、被食者である藻類(クロレラ:図1)とその捕食者である動物プランクトン(ワムシ:図1、2)からなる人工的な生態系(図3)を実験室内に構築し、遺伝的多様性が、生態系を構成する種の個体数と進化にどのような影響を与えるかを観測しました。従来の研究では、遺伝的多様性の有無が生態系へ影響を与えるということはわかっていましたが、具体的にどのような遺伝的多様性がどのようなメカニズムで生態系に影響を与えるのかは謎のままでした。そこで、増殖速度を大きく損なわなくても捕食者に対する防御形質を獲得することのできる遺伝子構成をもった藻類集団(防御コストの低い藻類)と、捕食者に対する防御形質を獲得するのに増殖速度を大きく下げなければならない遺伝子構成をもった藻類集団(防御コストの高い藻類)を使って、遺伝的性質のわずかな違いが進化と生態系にどのような影響を及ぼすのかを比較しました(図4)。遺伝的多様性の詳細な観察には、allele−specific quantitative PCRという、DNA量の比から遺伝子構成を推定する特殊な分子的手法を使いました。

 その結果、藻類は初期の遺伝子構成のわずかな違いによって、異なる進化のプロセスを辿り、その進化は、生物個体数の変化と深く関わっていることが明らかになりました(図4)。捕食者の個体数の増加は、被食者の防御形質の進化を促します。数世代の時間がたつと、被食者の防御が進化することで捕食者は餌をあまり食べることができなくなり、捕食者個体数が減少します。このとき、防御コストが低い藻類では防御形質がそのまま進化するのに対して防御コストの高い藻類では、防御形質の進化に伴う捕食者の減少によって防御形質よりも増殖力を高めるように進化しました。

 また、同じ遺伝子構成であっても被食者の防御形質が完全に進化しない場合があり、このときは捕食者の数が非常に少なく抑えられていました。つまり、捕食者の数が少ない場合、被食者は増殖形質よりも防御形質を優先させるように進化しないということです。これらの結果は少し複雑ですが、現象を数学で記述した数理モデルによってうまく説明することができます。

 このように、初期の遺伝的性質のわずかな違いは、捕食者個体数の変化と被食者の進化を通して、生態系へ異なる影響を与えるということが実験的に証明され、「遺伝的多様性が存在するか否か」だけでなく、「どのような遺伝的多様性をもっているか」という質的な要素が非常に重要であることが明らかになりました。

 これまで「遺伝的多様性の質」はあまり注目されてきませんでしたが、本研究によって、遺伝的多様性の質的な違いが生態系に大きな影響を与えることがあると示されました。つまり、生態系をより深く理解するには、構成する生物種という単位だけでなく、種内に見られる遺伝的多様性を含めて生物を捉える必要があります。生物多様性の保全は国内外において重要な社会目標となっていますが、種の保全だけでなく種内の遺伝的多様性を保全する意義の一つが新たに明らかとなりました。また、感染症の対策や野生生物の管理において、遺伝的多様性を考慮する重要性が今まで以上に示されたと言えます。


5.発表雑誌:
 雑誌名:米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)(オンライン版:2014年10月20日)
 論文タイトル:Form of an evolutionary tradeoff affects eco−evolutionary dynamics in a predator−prey system
 著者:Minoru Kasada,Masato Yamamichi and Takehito Yoshida


 ※図1〜4は添付の関連資料を参照



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