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東北大など、炭素12原子核の新しい励起状態を発見
炭素12原子核の新しい励起状態を発見
−生命誕生の謎にせまる−
1.発見の概要
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター、大阪大学核物理研究センター、京都大学大学院理学研究科、甲南大学、米国ノートルダム大学からなる研究チームは、宇宙における元素合成過程に重要な役割を果たす炭素12原子核の新しい励起状態を発見しました。今回の発見により、宇宙における元素合成過程の解明が進むと共に、生命誕生の謎に迫ることが期待できます。
2.発見の詳細
人体や地球など宇宙を構成するすべての元素はビックバン後に合成されました。ビッグバン直後に水素とヘリウムが合成され、その後、水素とヘリウムからなるガス雲が重力によって収縮して恒星が誕生しました。生命誕生には炭素や酸素は必要不可欠ですが、炭素や酸素は、恒星誕生後に、恒星内部の核融合反応(注1)で合成されたというのが通説です。しかし、現在もなお、恒星内部における核融合反応については謎が多く、その機構解明には原子核構造の研究が重要な役割を果たすと期待されています。
<図1:ホイル状態と炭素12原>
※添付の関連資料を参照
炭素12原子核には、「ホイル状態(注2)」と呼ばれる炭素より重い元素の合成過程で非常に重要な役割を果たす励起状態の存在が約50年前から知られています(図1)。このホイル状態がどのような構造をもつ状態なのかという問題は、長年の謎として残され、実験と理論の両面から精力的な研究が続けられています。
3つのヘリウム4原子核から成り立つとする理論模型(アルファ・クラスター模型:注3)によると、ホイル状態は通常の原子核に比べて1/5から1/6程度の密度しか持たない希薄な状態だと予想されています。通常の原子核はその種類によらずほぼ一定の密度を持つことが知られており、アルファ・クラスター模型が予言するホイル状態の性質は驚きを持って受け止められ、その実験的検証が求められていました。
さらに、アルファ・クラスター模型は、ホイル状態より高い励起エネルギーに別の回転励起状態があることを予言していました。もし、この励起状態が存在すれば、炭素より重い元素を合成する速度が著しく増大し、宇宙の歴史や生命誕生の歴史のシナリオに大きな影響を与えると考えられています(図2)。これまでこの未発見の新しい励起状態の存在を実験的に確認することはできませんでした。
<図2:新しい励起状態と炭素12原>
※添付の関連資料を参照
この新しい励起状態の存在を実験的に検証することは、元素合成過程を解明する上で必要不可欠とされるだけでなく、アルファ・クラスター模型の妥当性を検証することに繋がり、ホイル状態の特異な構造を理論的に解明する足掛かりを与えます。
今回、大阪大学核物理研究センターのリングサイクロトロン施設において、世界最高性能を誇る磁気スペクトロメータ「グランドライデン」(注4)を用いて原子核散乱の超精密測定を行い、世界で初めて炭素12原子核における新しい励起状態の存在を確認することに成功しました。この発見を通じて、宇宙における元素合成過程の解明が進むと共に、ホイル状態の構造について新しい知見を得られると期待されます。また、多量の炭素を利用した生命体進化の謎の解明にヒントを与えるでしょう。
なお、この成果は、2011年11月14日に米国物理学会刊行の学術雑誌「Physical Review C」において公開されるとともに、米国物理学会が刊行する学術雑誌に掲載された論文の中から、特に重要な論文をピックアップして紹介する「Physics Viewpoint」 http://physics.aps.org/articles/v4/94 において紹介されました。
3.発見により期待される成果
この新しい励起状態の存在を実験的に確認したことで、宇宙における元素合成過程の解明が進むと共に、長年にわたって研究されてきたホイル状態の特異な構造を解明する足掛かりを与えます。我々、人体の構成物は水、多量の炭素をもとにした有機体、骨などです。宇宙での炭素の作られる度合いによって生命体の進化は異なるので、生命誕生の謎に迫ることが期待できます。
4.キーワード
※添付の関連資料を参照