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東北大学、生細胞内のアクチン単量体の濃度変化を高解像度で測定する技術「s−FDAP法」を開発
生細胞内のアクチン単量体の濃度変化を高解像度で測定する新技術を開発
(概要)
東北大学大学院生命科学研究科の木内泰助教と水野健作教授らの研究グループは、生細胞内でのアクチン単量体の濃度変化を高解像度で測定する新技術(s−FDAP法)の開発に成功しました。また、この技術を用いて、細胞外からの刺激に応じて細胞内のアクチン単量体の濃度が大きく変動すること、アクチン単量体濃度は刺激によって生じる細胞内アクチンの重合度や仮足の大きさを決定する重要な因子であることを証明しました。今回開発されたs−FDAP法は細胞の運動・形態形成や癌細胞の浸潤・転移の分子機構を解明するための有効な手段となることが期待されます。今回の研究成果は、米国の細胞生物学雑誌Journal of Cell Biologyの4月18日号に掲載されました。
(研究内容の詳細)
細胞内ではアクチンというタンパク質が重合することによって繊維状や網目状の構造が形成され、これをアクチン細胞骨格とよびます。細胞内では常にアクチンが重合したり脱重合したりしており、これによって細胞骨格が新たに形成されたり破壊されたりしています。その結果、細胞は形態を変化させたり別の場所に移動したりすることができるようになります。つまり、アクチンの重合と脱重合を制御するしくみを理解することは、細胞の形態変化や運動の分子機構を理解するために非常に重要です。特に細胞内のアクチン単量体と繊維状アクチンの濃度変化を測定することは基本的なパラメーター測定として重要ですが、これまで生きた細胞内でのアクチン単量体の濃度変化を高分解能で測定することはできませんでした。
東北大学大学院生命科学研究科の木内泰助教と水野健作教授らの研究グループは、発光と消光を繰り返すことのできる蛍光タンパク質Dronpaを融合させたアクチンを用いて、生細胞内のアクチン単量体濃度を時間的・空間的に高い分解能で測定する新しい顕微鏡イメージング法(s−FDAP法)の開発に成功しました(図1)。また、s−FDAP法を用いて、細胞外刺激に応じて細胞内のアクチン単量体濃度は大きく変動すること、刺激に応じた仮足形成の大きさは広い濃度領域においてアクチン単量体の濃度に依存することを見出しました。s−FDAP法は、アクチン単量体のように細胞内で拡散性のタンパク質の濃度変化を高分解能で測定できる画期的な方法であり、高い時間分解能からアクチンとアクチン調節タンパク質の結合・解離の速度定数や濃度を見積もることも可能になりました。
アクチン細胞骨格の制御は細胞の運動や形態形成に必須の役割を果たしています。
s−FDAP法は生きた細胞でアクチンやアクチン調節タンパク質の動態を定量化し、モデル解析することができることから、癌細胞の浸潤・転移や白血球の遊走、神経回路形成の分子機構の解明や関係する疾患に対する薬剤の開発にも応用されることが期待されます。
本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金[基盤研究(B)及び新学術領域研究(過渡的複合体)]、及び東北大学グローバルCOE「Network Medicine 創生拠点」によるものです。
<図1>(※図は添付の関連資料を参照)
s−FDAP法によるアクチン単量体の濃度変化の測定。細胞内の狭い領域のDronpa−アクチンを発光させ、拡散による蛍光の減衰を測定する。その後、細胞内の全てのDronpa−アクチンを消光させ、同じ操作を繰り返すことによって細胞内のアクチン単量体の濃度変化を測定する。
(論文題目)
Measurements of spatiotemporal changes in G−actin concentration reveal its effect on
stimulus−induced actin assembly and lamellipodium extension(アクチン単量体濃度の時空間的測定とその仮足形成における重要性の解明)
Tai Kiuchi,Tomoaki Nagai,Kazumasa Ohashi,Kensaku Mizuno
(木内泰、永井友朗、大橋一正、水野健作)
(米国の細胞生物学雑誌Journal of Cell Biology(4月18日号)に掲載)