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理研、有機ケイ素化合物の新しい合成法を開発

2016-03-19

有機ケイ素化合物の新しい合成法を開発
−単純な有機ホウ素触媒で環境にやさしく効率的に−


<要旨>
 理化学研究所(理研)侯有機金属化学研究室の侯召民(コウ・ショウミン)主任研究員、馬元■(◇)(マ・ユアンホン)特別研究員、王保力(ワン・バオリ)特別研究員、張亮(チャン・リャン)研究員の研究チームは、「芳香族ケイ素化合物[1]」を、単純な「有機ホウ素化合物」のみを触媒[2]として効率的に合成する、新しい手法の開発に成功しました。本手法は金属やその他の添加剤を一切使用しない、環境にやさしい省資源型の反応です。

 ◇特別研究員の正式表記は添付の関連資料を参照


 芳香族ケイ素化合物は、有機エレクトロニクス、医薬品、材料合成などの分野で幅広く用いられる有用な化合物です。芳香族ケイ素化合物は、主に遷移金属触媒を用いた芳香族化合物のケイ素化反応[3]によって合成されています。しかし、この手法による生成物には触媒に使用した金属が残る場合があります。特に有機エレクトロニクス材料や医薬品合成の分野では、生成物からの残留金属の除去がコスト面などで大きな問題となっています。そのため、金属触媒を用いない芳香族ケイ素化合物の効率的な合成手法の開発が求められていました。

 研究チームはこれまで、金属触媒を用いた芳香族化合物のケイ素化反応について研究を進めてきました。その過程で、ベンゼン環にジアルキルアミノ基−NR2が結合した化合物類であるアニリン類のケイ素化反応を検討していたところ、金属を使わず、有機ホウ素化合物だけを触媒として用いてケイ素化反応が効率的に進行することを発見しました。この手法によって、さまざまな官能基を持つ有機ケイ素アニリン誘導体や、従来の金属触媒では合成が難しかった有機ケイ素化合物を簡便に合成できることが明らかになりました。

 今後、環境にやさしい省資源型の効率的な有機ケイ素化合物の合成手法として、工業的な応用が期待できます。

 本研究は、米国化学会(ACS)誌『Journal of the American Chemical Society』のオンライン版(3月9日付け:日本時間3月10日)に掲載されました。


<背景>
 「芳香族ケイ素化合物」は、有機エレクトロニクス、医薬品、材料合成の分野で幅広く用いられる有用な化合物です。その合成法としては、ヒドロシラン[4]によるベンゼン環上の炭素−水素結合(C−H結合)への直接ケイ素化反応が原理的に最も効率的な方法です。しかし、金属触媒を用いるため金属が生成物に残る場合があります。特に、有機エレクトロニクスなどの機能性材料や医薬品合成の分野では、残留金属の影響や、金属除去にかかるコストが大きな問題となっています。また、反応から発生する水素ガスの受容体を水素ガスと同じ量以上使う必要があるという問題もあります。

 したがって、金属触媒を用いない効率的な芳香族ケイ素化合物の合成手法の開発が求められていますが、現状では研究があまり進んでいません。

 一方で、最近「有機ホウ素化合物」が水素やヒドロシランを活性化できる触媒として注目されています。しかし有機ホウ素化合物は、分子内での脱水素ケイ素化反応に触媒として機能するという報告はありますが、分子間でのC−H結合のケイ素化反応についてはほとんど報告がありませんでした。

 研究チームはこれまで、金属触媒を用いた芳香族化合物のケイ素化反応やアルキル化反応などについて研究を進めてきました。そこで今回、金属触媒を使用しない、芳香族C−H結合のケイ素化反応の開発に挑みました。


<研究手法と成果>
 研究チームはこれまで、金属触媒を用いた芳香族化合物のケイ素化反応の開発に、有機ホウ素化合物を助触媒[5]として使っていました。その過程で、ベンゼン環にジアルキルアミノ基−NR2が結合した化合物類であるアニリン類のケイ素化反応を試したところ、金属触媒を使わずに、少量の有機ホウ素化合物のみの存在下で反応が進行することを発見しました。さらに詳しく検討したところ、市販の「ボラン化合物B(C6F5)3」のみを触媒として、アニリン類とヒドロシランを120℃で加熱するだけで、さまざまな有機ケイ素ユニットを導入したアニリン誘導体を効率的に合成できることが明らかとなりました(図1)。

 この反応の反応物の適応範囲は非常に広く、これまで脱ハロゲン化という副反応が起きるために金属触媒では使用できなかった、有機塩化ヒドロシランも利用できることが分かりました。また、反応から発生した水素ガスを除去するための水素受容体の添加も必要ないことが明らかになりました。


<今後の期待>
 今回、研究チームは、金属を使用しない芳香族化合物のC−H結合のケイ素化反応の開発に成功しました。これは水素受容体を必要とせず、かつ市販の有機ホウ素化合物を触媒として利用する簡便な反応です。これらの特長を生かして、金属の除去が課題となっている有機エレクトロニクスや医薬品関連の分野で、芳香族ケイ素化合物の工業的な合成反応への展開が期待できます。

 また、C−H結合の直接変換反応は、原子効率[6]の高い有用な省資源型有機合成反応として、最近、非常に注目されています。しかし、そのほとんどが金属触媒を利用しています。今後、有機ホウ素化合物を触媒としたさまざまな有機化合物のC−H結合変換反応の開発が期待できます。


<原論文情報>
 ・Yuanhong Ma,Baoli Wang,Liang Zhang,Zhaomin Hou,“Boron−Catalyzed Aromatic C−H Bond Silylation with Hydrosilanes”,Journal of the American Chemical Society,doi:10.1021/jacs.6b01349


<発表者>
 理化学研究所
 主任研究員研究室(http://www.riken.jp/research/labs/chief/)侯有機金属化学研究室(http://www.riken.jp/research/labs/chief/organometal_chem/
 主任研究員 侯 召民(コウ・ショウミン)
 (環境資源科学研究センター先進機能触媒研究グループ グループディレクター)
 特別研究員 馬 元■(マ・ユアンホン)
 特別研究員 王 保力(ワン・バオリ)
 研究員 張 亮(チャン・リャン)


<補足説明>
 1.芳香族ケイ素化合物
  芳香族とはベンゼン環を持つ一連の化合物。そのベンゼン環の炭素(C)にケイ素(Si)が結合したものを芳香族ケイ素化合物と呼ぶ。

 2.触媒
  特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しない。

 3.ケイ素化反応
  有機化合物などにケイ素を導入する反応のことをいう。

 4.ヒドロシラン
  ヒドロシランはケイ素原子上に水素原子(H)を有している化合物群。

 5.助触媒
  触媒の効率を高める作用を持っているが、それ単独では触媒として機能しない物質。有機ホウ素化合物は、金属錯体上のアルキル基を引き抜いて触媒活性を示すカチオン性金属錯体を与えることができるので、よく助触媒として用いられている。

 6.原子効率
  ある化学反応における出発物質(反応物)の全ての原子が、目的生成物へ変換するときの効率。アトムエコノミー、あるいは原子経済とも呼ばれる。理想的な反応では、出発物質の重量は得られる生成物の重量と等しく、無駄となる原子は全く出ない(原子効率100%)。

 ※図1は添付の関連資料を参照


 アニリン誘導体のC−H結合のケイ素化反応が、市販の有機ホウ素化合物B(C6F5)3を触媒に使用し120℃に加熱するだけで起こる。金属触媒、水素受容体は不要である。ケイ素化反応はパラ位(アミノ基と180°反対側の位置)選択性が高く、さまざまなアニリン誘導体とヒドロシランが反応物として適用可能である。



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