イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

富山大など、薬甘草の成分が内臓脂肪の炎症・線維化を抑制する機序を解明

2016-03-19

薬甘草の成分が内臓脂肪の炎症・線維化を抑制する機序を解明


<ポイント>
 ○甘草(かんぞう)成分イソリクイリチゲニン(ILG)の新たな薬理作用を見いだした。
 ○ILGは脂肪細胞に働き、抗炎症作用を示す。
 ○ILGは内臓脂肪の線維化を抑制する。
 ○本成果により、新たなメタボリックシンドローム治療薬の開発につながる可能性がある。


 富山大学 大学院医学薬学研究部(医学)免疫バイオ・創薬探索研究講座(富山県寄附講座)の渡邉 康春 客員助教、長井 良憲 客員准教授、高津 聖志 客員教授らの研究グループは、漢方薬に含まれる生薬甘草の成分イソリクイリチゲニンが、脂肪細胞やマクロファージ注1)に作用し、内臓脂肪の炎症および線維化注2)を抑制することを発見し、その機序を解明しました。本研究により、イソリクイリチゲニンを活用した新たなメタボリックシンドローム治療薬の開発が期待されます。本研究成果は、2016年3月15日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」でオンライン公開されます。


<研究の背景と経緯>
 近年、食生活の欧米化などにより、日本でも肥満を中心とするメタボリックシンドロームや糖尿病が増加しており、大きな社会問題となっています。これまでの多くの研究により、メタボリックシンドロームの発症には、内臓脂肪における、慢性的な炎症反応が深く関与することが分かってきました。内臓脂肪は、余剰エネルギーを中性脂肪として蓄える脂肪細胞から構成されます。一方、内臓脂肪には免疫細胞も存在し、正常では免疫細胞が脂肪細胞の恒常性を保ち、炎症を抑制していることも分かってきました。一方、肥満になるにつれて、マクロファージなどの炎症細胞が内臓脂肪に集まり、脂肪細胞と相互作用することによって慢性的な炎症反応が生じます(図1)。またマクロファージは内臓脂肪の線維化を引きおこし、脂肪細胞の機能を妨げることも明らかになっています。このような内臓脂肪の慢性炎症と線維化が引き金となって、全身性のインスリン抵抗性が生じ、糖尿病の発症リスクが高まります。
 本研究グループはこれまでに、生薬である甘草に含まれるイソリクイリチゲニン(以下、ILG)という成分が、マクロファージにおいて、炎症の鍵分子NLRP3インフラマソーム注3)の活性化を阻害し、マウスのメタボリックシンドロームを改善させることを報告してきました(本田ら、Journal of Leukocyte Biology 96(6):1087−1100,2014)。しかし、ILGの脂肪細胞への薬理作用や線維化に対する有用性は不明でした。


<研究の内容>
 本研究グループは以前、試験管内で脂肪細胞とマクロファージを共に培養する実験系を確立し、この培養によって炎症反応が引きおこされることを報告しました(渡邉ら、Diabetes61(5):1199−1209,2012)(図2)。また、チアゾリジン系の糖尿病治療薬ピオグリタゾンが、脂肪細胞に作用し、共培養による炎症反応を抑制することも報告しています。以上から、本培養実験法が内臓脂肪の炎症反応を抑制する天然物のスクリーニングに有用であると考えました(図2)。
 そこで本培養実験法において、ILGの効果を検討したところ、ILGはマクロファージから産生される炎症性サイトカイン注4)TNF−αや脂肪細胞から産生されるケモカイン注5)MCP−1の発現を抑制することが明らかになりました(図2)。さらに詳細に検討したところ、ILGはTNF−αによる脂肪細胞の活性化を抑制すると共に、飽和脂肪酸注6)によるマクロファージの活性化も抑制することが明らかになりました(図3)。このように、ILGは脂肪細胞に作用し、抗炎症作用を示すことが初めて見いだされました。
 次に、内臓脂肪の線維化に対するILGの効果を調べるために、マウスに高脂肪食とILGを与えて、線維化を検討しました。まず、普通食を与えたマウスに比べて、高脂肪食を与えたマウスでは、内臓脂肪の線維化が多く見られました。一方、ILGを混ぜた高脂肪食を与えたマウスでは、高脂肪食による線維化が顕著に抑制されていました(図4)。さらに詳細に検討したところ、ILGはマクロファージに作用し、自然免疫センサーであるMincleやTLR4注7)による線維化関連遺伝子の発現を抑制することを明らかにしました。したがって、ILGは内臓脂肪のマクロファージに作用し、線維化を抑制すると想定されました。


<今後の展開>
 本研究により、共培養の実験系でILGは脂肪細胞に働いて抗炎症作用を示すこと、およびマウスを用いた実験系で内臓脂肪のマクロファージに働いて抗線維化作用を示すことが初めて明らかになりました。
 ILGにはNLRP3インフラマソームを阻害する作用がありますが、上記の効果はNLRP3インフラマソームに関係しないと考えられています。したがって、ILGには様々な分子や様々な細胞に働いて、メタボリックシンドロームに対して多面的な有効性を示すと考えられます。
 今後、ILGの抗炎症作用および抗線維化作用の詳しいメカニズムを調べることで、ILGを基にした、メタボリックシンドローム治療薬の開発につながることが期待されます。


<付記>
 本研究は、富山県および県内外の13社の製薬企業による寄附金、文部科学省 地域イノベーション戦略支援プログラム(ほくりく健康創造クラスター、北陸ライフサイエンスクラスター)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、日本学術振興会 科学研究費補助金、武田科学振興財団、富山第一銀行 奨学財団研究助成などによる支援を受けて実施された研究の成果である。また、富山大学 医学部、富山県 薬事研究所、名古屋大学 環境医学研究所、東京大学 医科学研究所との共同研究の成果である。


 ※図1〜図4・用語解説・論文情報は添付の関連資料を参照





Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版