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東大、「磁気スキルミオン」の磁場をリアルタイムに可視化することに成功

2016-02-17

「磁気スキルミオン」の磁場をリアルタイムで可視化
−ナノスケールの磁気構造観察に新展開−


1.発表者:
 柴田直哉(東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構 准教授)
 松元隆夫(東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構 特任研究員)


2.発表のポイント:
 ◆走査型透過電子顕微鏡法(STEM、注1)と独自開発の分割型検出器(注2)により電子線が磁場によって曲げられる効果を高精度に計測し、磁気スキルミオン(注3)の内部磁場をナノスケールでリアルタイムに可視化することに成功した。
 ◆本研究手法により、磁気スキルミオン結晶の界面領域に大きさや形状の異なるスキルミオンが形成されることが初めて明らかとなった。
 ◆磁気スキルミオンはナノメーターサイズの特異な渦状の磁気構造体であり、次世代省エネ記録デバイスへの応用が期待される。


3.発表概要:
 東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構の柴田直哉准教授、松元隆夫特任研究員らの研究グループは、走査型透過電子顕微鏡法(STEM)と独自開発の分割型検出器を用いることにより、磁気スキルミオン内部の磁場をリアルタイムで可視化することに初めて成功しました。これにより、材料中の局所磁場の直接観察が容易になり、ナノレベルの磁気構造解析に新しい展開が期待されます。
 磁気スキルミオンはナノメーターサイズの特異な渦状の磁気構造体であり、次世代磁気デバイス素子への応用が期待されています。磁気スキルミオンは特定の条件下でその配列が規則的になり、あたかも結晶のような周期構造を形成します(磁気スキルミオン結晶)。しかし、実際の磁気スキルミオン結晶には原子の結晶と同じようにその周期性が乱れる界面や欠陥が存在することが知られており、その挙動を理解することが工学応用するためには重要であると考えられています。しかし、従来の磁場観察では磁気スキルミオン結晶中の乱れた領域の磁気構造をリアルタイムで可視化することは難しく、新しい手法開発が待望されていました。
 本研究グループは、ナノスケール観察で有力な手法である走査型透過電子顕微鏡法を用いた観察を試みました。通常、この方法では試料を磁場環境にさらす必要があり、その外部磁場のために磁気スキルミオンに強い影響を与えてしまう危険性があります。そのため、これまでの磁気スキルミオン観察には用いられることはありませんでした。今回研究グループは、試料近傍を無磁場条件下に保ったままナノサイズにまで電子線を絞り込む電子光学系を構築し、さらに試料中の磁場による電子線偏向を分割型検出器を用いて高感度に検出することに成功しました。さらに、分割型検出器からの検出信号を高速に磁場分布に変換するソフトウエアを開発し、磁気スキルミオンの内部磁場のリアルタイム可視化に成功しました。
 この手法を用いて、磁気スキルミオン結晶同士の界面であるドメイン境界(注4)を観察した結果、そのコア部分には大きさや形状の異なるスキルミオンが周期的に形成されることを初めて見いだしました。本結果は、周囲の環境変化に応じて磁気スキルミオンがその構造をフレキシブルかつ安定に変化させる能力を有することを示唆しており、今後のデバイス応用に重要な知見を与える成果です。また、本観察手法は、磁石材料、スピンデバイス、磁気メモリなどの磁性材料全般に応用可能であり、それら開発や性能向上に大きく貢献することが期待されます。
 本研究は、JSTの戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「エネルギー高効率利用と相界面」研究領域(研究総括:花村 克悟 東京工業大学教授)」における研究課題「原子分解能電磁場計測電子顕微鏡法の開発と材料相界面研究への応用(研究者名:柴田 直哉)」および研究成果展開事業【先端計測分析技術・機器開発プログラム】の一環として行われ、東京大学の幾原 雄一 教授、秋田大学の肖 英紀 助教、日本電子株式会社(JEOL)と共同で行ったものです。
 本研究成果は、2016年2月12日(米国時間)に米国科学誌「Science Advances」オンライン版で公開されます。


4.発表内容:
<研究の背景と経緯>
 磁気スキルミオンはナノメーターサイズの特異な渦状の磁気構造体であり、微小電流密度で駆動するため、次世代省エネ記録デバイスへの応用が期待されています。実際のデバイス応用に展開するためには、磁気スキルミオンが材料中でどのように生成、運動、消滅するのかといった基礎的な挙動を実空間でリアルタイムに観察することが不可欠です。現在、最も有力だと考えられている手法が透過電子顕微鏡法です。透過電子顕微鏡は、電子を用いることにより、光学顕微鏡では見ることのできないナノスケールの構造を拡大して観察する装置です。透過電子顕微鏡法の一種である走査型透過電子顕微鏡法(STEM、図1)は、薄膜試料上で電子プローブを走査しながら、その各点からの透過散乱した電子を検出器で検出して拡大像を観察する電子顕微鏡法です。このSTEM法は、現在原子1個1個を直接観察することができるレベルにまで発達しています。しかし、電子プローブをナノレベルにまで絞り込む際、強磁場レンズ中に試料を導入する必要があるため、外部磁場によって影響を受ける磁気構造の高分解能観察は困難であり、新たな技術開発が待望されていました。

<研究の内容>
 今回、柴田准教授らは、試料近傍を無磁場条件下に保ったままナノサイズにまで電子線を絞り込む電子光学系を構築し、独自開発の分割型検出器と組み合わせることで、磁気スキルミオンのリアルタイムでの内部磁場直接観察に成功しました。本観察では、ナノレベルに絞った電子線が、磁気スキルミオン中の局所的な磁場によってわずかに偏向される現象を利用しており、分割検出器によりその偏向を検出することで磁気スキルミオン内部の磁場分布をナノスケールで正確に決定することを可能にします。この手法は、微分位相コントラスト(DPC)法と呼ばれ(注5、図2)、今後磁性材料解析に広く応用されることが期待されます。さらに柴田准教授らは、分割検出器により検出された電子線の偏向信号を瞬時に磁場分布に変換するソフトウエアを開発し、ナノスケールの磁場分布をリアルタイムで可視化することに成功しました(図3)。この手法を利用して、磁気スキルミオン結晶中の欠陥であるドメイン境界を観察した結果、結晶中では一定の大きさかつ形状が保たれる磁気スキルミオンが、そのコア領域ではサイズ・形状を自在に変化させることで、結晶の乱れを吸収することを明らかにしました(図4)。この結果は、個々の磁気スキルミオンがその構造自体をフレキシブルに変化させる能力を有しており、この特徴により磁気スキルミオン構造を壊すことなく結晶欠陥を安定化できることを示唆しています。この知見は、今後磁気スキルミオンを制御しデバイス応用を目指す上で、重要な基礎知見になると考えられます。

<社会的意義・今後の予定>
 近年、スピントロニクスデバイス、磁気メモリなどの研究開発において、材料内部のミクロな磁性構造を積極的に制御し、特性向上を目指す研究開発が精力的に行われています。本研究により、磁気メモリ素子としての利用が期待される磁気スキルミオンのフレキシブル且つ安定な形状変化能力が証明されたことは、今後磁気スキルミオンを制御しデバイス応用する上で極めて重要であると考えられます。また、本研究で開発した磁場直接リアルタイム可視化技術は、物理化学、電子情報工学、材料科学、生命科学などの先端的基礎研究分野や半導体デバイス、医療、IT、創エネ・省エネなどの多様な産業分野においての活用への貢献および、これらにおける研究開発の水準と研究開発効率を格段に向上させるものと期待されます。


5.発表雑誌:
 雑誌名:米国科学誌「Science Advances」(2月12日)
 論文タイトル:“Direct observation of Σ7 domain boundary core structure in magnetic Skyrmion lattice”(磁気スキルミオン格子中のΣ7 ドメイン境界コア構造の直接観察)
 著者:Takao Matsumoto(*),Yeong−Gi So,Yuji Kohno,Hidetaka Sawada,Yuichi Ikuhara,Naoya Shibata(*)
 DOI番号:10.1126/sciadv.1501280


 ※用語解説・添付資料(図1〜4)は添付の関連資料を参照



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