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東北大、遺伝性筋疾患を引き起こす遺伝子変異を発見

2015-10-09

遺伝性筋疾患を引き起こす遺伝子変異を発見
‐RNA結合タンパク質遺伝子の変異が封入体ミオパチーの原因となる‐


【研究概要】
 ミオパチーは病状の進行とともに筋力の低下や筋肉の萎縮が生じる筋変性疾患の総称で、筋ジストロフィーなどが含まれます。ミオパチーは遺伝性や炎症性などさまざまな要因によって生じますが、東北大学大学院医学系研究科・神経内科学分野の青木 正志(あおき まさし)教授らの研究グループは、同・遺伝医療学分野の青木 洋子(あおき ようこ)教授、同・創生応用医学研究センター・細胞増殖制御分野の中山 啓子(なかやま けいこ)教授らと共同で、遺伝性ミオパチーの一つである封入体ミオパチーの原因遺伝子としてhnRNPA1を同定しました。hnRNPA1遺伝子は、近年、多系統タンパク質症と呼ばれる複数の異なる疾患〔筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症、封入体ミオパチー、骨パジェット病など〕を組み合わせた形で発症するまれな遺伝性疾患の原因遺伝子として報告されています。
 今回の研究は、遺伝性神経筋疾患のさらなる病態解明と将来的な治療法の開発につながるものと期待されます。本研究成果は、2015年9月24日付で米国神経学会誌Neurology Geneticsオンライン版に掲載されました。日本医療研究開発機構研究費(AMED)、難治性疾患等政策研究事業、精神・神経疾患研究開発費、難治性疾患実用化研究事業、難治性疾患克服研究事業、科学研究費補助金等の支援によって行われました。


【研究内容】
 ミオパチーは病状の進行とともに筋力の低下や筋肉の萎縮が生じる筋疾患の総称で、筋ジストロフィーなどが有名です。そのなかでも、生検(注1)で観察される骨格筋の細胞内に出現する縁取り空胞(注2)を特徴とし、遺伝子の異常によって生じるものを遺伝性封入体(注3)ミオパチーと呼びます。現在まで10種類以上の原因遺伝子が発見されてきましたが、まだ原因が明らかとなっていない遺伝性封入体ミオパチーがあります。
 本研究では、遺伝性封入体ミオパチーを生じる2家系の患者とその家族から得られたDNAを対象に、次世代シークエンサー(注4)を用いて全遺伝子の翻訳領域(注5)配列決定をおこない、この疾患の原因遺伝子を探索しました。その結果、この2家系の患者において、hnRNPA1遺伝子に変異を見出しました。
 hnRNPA1遺伝子は多系統タンパク質症と呼ばれるまれな遺伝性疾患の原因遺伝子として報告されています。多系統タンパク質症は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症、封入体ミオパチー、あるいは骨パジェット病といった異なる疾患を組み合わせた形で発症する遺伝性疾患で、同じ家系内であっても患者ごとに発症する疾患の組み合わせが異なる場合がある点が特徴です。近年までに5つの原因遺伝子が明らかとなっており、そのひとつであるhnRNPA1遺伝子に変異が生じると多系統タンパク質症3型の原因となることが報告されていました。
 hnRNPA1は核内RNA結合タンパク質(注6)をコードしており、その産物は広く全身の臓器に存在し、正常細胞ではおもに核内にあることが知られています。本研究の遺伝性封入体ミオパチー患者の筋肉を免疫組織化学的に検討した結果、hnRNPA1のみならず類似のRNA結合タンパク質が細胞内に封入体を形成したり、核の周囲に蓄積・凝集したりしていることが明らかとなりました(図1および図2)。電子顕微鏡を用いた微細構造の観察では、封入体を形成する自己貪食空胞(注7)はおもに変性した核に隣接することも明らかとなりました。これらの結果は、hnRNPA1遺伝子の変異が、RNA結合タンパク質の分布異常や核の機能障害に広く関連することを示唆するものです。本研究で解析した封入体ミオパチー家系では、患者に筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症、骨パジェット病の症状はありませんでした。このことは、これまで原因不明とされている封入体ミオパチーにおいても同様に、hnRNPA1遺伝子もしくは類似したRNA結合タンパク質の遺伝子が関連している可能性を示唆します。
 今後、他の遺伝性封入体ミオパチーや類似の筋疾患において、RNA結合タンパク質関連遺伝子の網羅的解析を加えることにより、本邦での有病率、自然経過や予後を含めた疾患の全体像の解明につながる可能性があります。また、国外では多系統タンパク質症のモデル動物を用いた治療法開発研究も始まっており、封入体ミオパチーのモデル動物開発、iPS細胞を用いた病態解明など、治療ターゲットの発見につながる研究の発展が期待されます。
 本研究は、日本医療研究開発機構研究費(AMED)「筋萎縮性側索硬化症(ALS)新規治療法開発をめざした病態解明(代表・青木 正志)」、難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「希少難治性筋疾患に関する調査研究(代表・青木 正志)」、精神・神経疾患研究開発費「筋ジストロフィー関連疾患の基盤的診断・治療開発研究(代表・西野 一三)」、難治性疾患実用化研究事業「次世代シークエンサーを用いた孤発性の神経難病の解明と治療法開発に関する研究(代表・戸田 達史)」、難治性疾患克服研究事業「小児科・産科領域疾患の大規模遺伝子解析ネットワークとエピゲノム解析拠点(代表・松原 洋一)」、科学研究費補助金等の支援によって行われました。


【用語説明】
 注1.生検:疾患が疑われる組織の一部を手術で採取して診断に役立てる検査
 注2.縁取り空胞:骨格筋線維の細胞質に顆粒状の縁取りをもった空胞(図2.矢印)で、封入体ミオパチーを特徴づける病理学的所見
 注3.封入体:細胞内にたまった異常な物質(おもにタンパク質)の集まり
 注4.次世代シークエンサー:数千万〜数億のDNA断片の塩基配列を同時並列的に決定することで、短期間でギガ(10億)単位での塩基配列を決定できるシークエンサー
 注5.翻訳領域:ゲノムDNA配列のうち、タンパク質アミノ酸配列に相当する領域
 注6.RNA結合タンパク質:転写調節、選択的スプライシングの調節、mRNA核外輸送、翻訳調節などに関与し、遺伝子発現調節に関わる多様な機能をもつタンパク質の総称
 注7.自己貪食空胞:自己の細胞内成分をとり込んだ細胞内の小胞で、リソソームとよばれる細胞内小器官と融合して内容物を分解するもの


 ※図1〜図2は添付の関連資料を参照


【論文題目】
 Isolated inclusion body myopathy caused by a multisystem proteinopathy−linked hnRNPA1 mutation.
 「多系統タンパク質症関連hnRNPA1遺伝子変異が原因となった単独封入体ミオパチー」
 Neurology Genetics 2015;1:e23;doi:10.1212/NXG.0000000000000023




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