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京大、動物の新しい特徴が進化する仕組みの一端を解明

2015-06-08

動物の新しい特徴が進化する仕組みの一端を解明
ショウジョウバエのcis制御領域の獲得によるwingless発現領域の獲得−


<概要>

1.背景
 生物が、進化の過程でそれまでになかった性質を獲得する仕組みについては不明な点が多く残されています。近年、ゲノム情報(生物の全遺伝情報)が多く解読され、生物どうしのゲノムを比較できるようになりました。その結果、発生システムの根幹をなす遺伝子は極めて良く保存されていることがわかってきました。一方で、生物は多様な形態や性質を持っています。この不一致は、どのように説明されるべきでしょうか?
 1975年、キングとウィルソンは、当時わかり始めたヒトとチンパンジーの遺伝子配列を比較し、両者が極めて良く似ていることを示しました。ヒトとチンパンジーが形態や行動などの点において大きく異なっていることに触れ、遺伝子配列が非常に似かよっている以上、制御領域の違いによる発現領域や強度の違いが、ヒトとチンパンジーの違いをもたらしているのではないかとの仮説を提唱しました(参考文献1)。しかし遺伝子自体の解析に比べて制御領域の解析は難しく、その実証はなかなか進みませんでした。近年、技術の進歩とゲノム配列情報の充実により、制御領域の違いが種間の形質の違いをもたらしている事例が多く報告されるようになりました。しかし、発生制御に関わる遺伝子に関しては、形質の消失に関する研究が多く、新たに形質が獲得される場合に制御領域に何が起きているか、に関する研究はほとんどありませんでした。


2.研究手法・成果
 今回この仮説を検証するため、ショウジョウバエ2種(キイロショウジョウバエ Drosophilamelanogasterとミズタマショウジョウバエ Drosophila guttifera)のwingless遺伝子周辺の領域に注目し、遺伝情報を比較しました。
 この2種では、形作りに重要な役割を持つwingless遺伝子の発現領域が異なっていることがわかっています。ミズタマショウジョウバエでは、翅に水玉模様があり、wingless遺伝子がこの模様を誘導しています(参考文献2)。本研究では、wingless周辺の領域を数kbずつ取り出し、蛍光タンパク質の遺伝子とともに遺伝子導入することで、エンハンサーを探しました。その結果、ミズタマショウジョウバエにはキイロショウジョウバエにはないエンハンサーが3つあり、それぞれ模様ができる位置に対応していました。エンハンサーの由来と導入するホストを入れ替える実験から、3つのエンハンサーすべてについて、その配列の変化が発現パターンの変化に関与していることが示されました。これは、我々が知る限り、進化の過程でエンハンサーが新しく増えることで、発生制御遺伝子の働く場所が増えていることを実験で示した始めての事例です(図1)。
 今回発見した3つの新しいエンハンサーのうちのひとつ(翅の縦脈末端での発現を駆動するエンハンサー)は、既存のエンハンサー(翅の横脈での発現を駆動するエンハンサー)の配列が変化することで生じていました。新旧ふたつのエンハンサー機能を併せ持っていることになります。このように、古いエンハンサーの改変によって新しいエンハンサーができることは、一般的に見られる現象である可能を提示しました。

 ※図1は添付の関連資料を参照


3.波及効果
 今回見つかったものと同様の現象は、ショウジョウバエに限らず、人間を含めた多くの生物から見つかる可能性があります。エンハンサーが増加することで、重要な遺伝子が機能を損なうことなく新しい発現領域を獲得することができるため、新しい形質が獲得される仕組みとして重要性が高い可能性があります。


4.今後の予定
 模様形成に関与している因子はwinglessだけではなく、多くの転写因子やメラニン合成系の因子が関与していると考えられます。模様がどのように制御され、どのように進化して来たのかを明らかにしていきたいと考えています。


<論文タイトルと著者>
 Gain of cis−regulatory activities underlies novel domains of wingless gene expression in Drosophilacis 制御活性の獲得がショウジョウバエにおける wingless 遺伝子の新しい発現ドメインの基盤となる越川滋行(京都大学白眉センター/大学院理学研究科、元・米国ウィスコンシン大学マディソン校、元・米国ハワードヒューズ医学研究所)、Matt W Giorgianni, Kathy Vaccoro,Victoria A.Kassner(米国ウィスコンシン大学マディソン校、米国ハワードヒューズ医学研究所)、John H Yoder(米国アラバマ大学)、Thomas Werner(米国ミシガン工科大学)、Sean B Carroll(米国ウィスコンシン大学マディソン校、米国ハワードヒューズ医学研究所)


<用語解説>

 ※添付の関連資料を参照


<参考文献>
 1.King MC,Wilson AC(1975)Evolution at two levels in humans and chimpanzees.Science 188:107−116.
 2.Werner T,Koshikawa S,Williams TM,Carroll SB(2010)Generation of a novel wing colour pattern by the Wingless morphogen.Nature464:1143−1148.




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