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NEDOなど、ヒト体内における薬物動態予測の実用化に成功

2011-03-16

革新的創薬技術の開発にめど
マイクロドース臨床試験の成果と、今後の展開について



 ごく微量の医薬品を、健常な人あるいは一部の患者に投与するマイクロドース(MD)臨床試験(※1)を活用したNEDOの革新的創薬技術開発プロジェクト(基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発)に取り組んでいる東京大学大学院薬学系研究科の杉山雄一教授らの研究グループは、非標識薬物を用いた試験の他、国内で初めて放射性同位体を用いたMD臨床試験、及びPET(ポジトロン断層法)を用いたMD臨床試験を合計28件実施し、ヒト体内における薬物動態予測の実用化に成功しました。その結果、各個人に最も有効な医薬品を選択できる革新的創薬技術の実現が可能となりました。
 NEDOと研究グループは、今回の成果を踏まえ、2011年度に国内製薬企業において開発フェーズに乗っている新規医薬品候補化合物のMD臨床試験を行うとともに、MD臨床試験を一括して受託する国内体制の構築を目指します。


1.背景
 近年、少子高齢化が進む中、がん、認知症等に関する新たな医療技術の開発が望まれています。こうした中、進展著しい医療分野の多様な要素技術や研究成果を、創薬や、これを支援する解析ツール、診断技術、医療機器等の開発に応用することが期待されています。しかし、初めてヒトに適用する医療技術については、有効性、安全性、制度など、多くのクリアすべき課題が存在します。そこでNEDO「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発」プロジェクトでは、迅速な実用化に向け、民間企業と臨床研究機関が一体となって研究開発を行い、新規医療技術の有効性、安全性等の評価技術に関する研究開発を実施してその治療効果等を確認し、委託事業終了後2年以内に治験を開始できる技術を確立します。


2.マイクロドース(MD)臨床試験について
 MD臨床試験とは、体内動態を評価することを目的とし、医薬品臨床開発の第I相臨床試験(※2)の前段階で、人体に薬物の薬理作用や副作用など生体への影響が無いと理論上考えられる極微量の薬物を投与する試験です。開発候補化合物の中から適当な体内動態特性を有する化合物を選別することによって、市場での販売承認に至る成功確率を高める手法として、21世紀になって提唱され、世界中でその有用性が注目されています。
 しかしながら、ごく微小な投与量によって得られた情報から臨床用量における薬物の体内動態をどこまで予測できるのかなどの不確実な側面があることから、マイクロドースから臨床用量における体内動態の予測可能性について、NEDOが推進する本プロジェクトのほか、欧州連合(EU)が主導するプロジェクトでも検証が進められています。
 また海外では、2003年1月に欧州医薬品審査庁(EMEA)、2006年1月に米国食品医薬品局(FDA)にて早期ヒト臨床試験(マイクロドース試験)に関するガイドラインが制定され、英国のXceleron社、Quotient社などがMD臨床試験の受託サービスを開始し、ここ1〜2年、欧米の大手製薬企業がMD臨床試験を委託する動きが活発になり始めています。
 一方、我が国の製薬企業はMD臨床試験に強い興味を持っているものの、既存の市販医薬品のみならず新規化合物でも有効な手法として自社内で独自に実施するには至っておらず、国内にMD臨床試験を委託する機関も存在しない状況に留まっています。


3.成果の特徴
 2008年6月に厚生労働省より公示された「マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス」を受け、NEDOと研究グループは国内で初めて、AMS(加速器質量分析法)およびPETを用いたMD臨床試験を実施し、医薬品成分のヒト体内における薬物動態予測を実用化するとともに、各個人に最適な医薬品の選択も実現が可能となりました。

 1.放射性同位体を用いた試験
  国内で初めて、AMSおよびPETを用いたMD臨床試験を実施しました。

 2.LC/MS/MS試験(※3)
  液体クロマトグラフィーと質量分析機を組み合わせたヒト検体(血液、尿など)のデータ解析を通じて、カセットドース試験(※4)や、遺伝子多型解析(※5)、薬物間相互作用解析(※6)などを実施しました。

 3.MD−PET臨床試験
  PETを用いた臨床試験により、薬物のヒト血中および組織中濃度推移などのリアルタイム測定が可能になりました。

 4.薬物動態予測および至適薬物の選択
  経口投与後の吸収過程における非線形性および個体間変動の予測を可能にするとともに、至適な体内動態を有する薬物を、より高効率に選択する手法を開発しました。

 5.新規医薬品候補化合物を用いたMD臨床試験の実施
  日本国内では初めてとなる、国内製薬企業の開発フェーズに乗っている新規医薬品候補化合物のMD臨床試験を実施します。

 6.MD臨床試験を受託する国内体制の構築
  国内でMD臨床試験を一括して受託する国内体制の構築を目指します。


(参考)用語の解説

※1 マイクロドース臨床試験:
 臨床開発の第I相試験よりも前の段階で行い、100μg/human以下、かつ薬効発現量の1/100を超えない用量を人体に投与し、薬物動態学的情報を得ることにより臨床開発にのせる候補物質を選択することを目的とする臨床試験。通常の第I相試験よりは実施の要件となる非臨床毒性試験が簡略化されるため、化合物選定のスクリーニングの一手法として提唱されている。欧米およびICHのガイダンス(M3)は非臨床毒性試験の要件を示したものであるが、日本の通知は、MD臨床試験の投与量設定方法、製造物の品質保証、臨床試験の倫理的論点なども網羅したものとなっている。

※2 第I相臨床試験:
 自由意思に基づき志願した健常成人を対象とし、被験薬を少量から段階的に増量し、被験薬の薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)や安全性(有害事象、副作用)について検討することを主な目的とした探索的な臨床試験。

※3 LC/MS/MS試験:
 高速液体クロマトグラフ(HPLC)と質量分析計(MS)を結合させた装置を用いた試験。LC部では、主に試料中成分の固定相(カラム)と移動相に対する保持力の差により成分を分離し、MS部ではLC部で分離した試料成分を1段目のMSでイオン化し、質量ごとに分けて(プレカーサイオン)、さらに分離されたイオンを衝突室(コリジョンセル)内で不活性ガスに衝突させてイオンを解離させ(プロダクトイオン)、そのイオンを2段目のMSで分析する。試料成分のイオンを2段階MSで選別するため選択性が高く、高感度に定量することができる。

※4 カセットドース試験:
 ひとりの被験者に対して、同時に複数の化合物を試験する方法で、全く同一の条件下でそれぞれを比較することができ、単体投与では得られない重要な情報が得られる。すなわち、同一の効果を期待する複数個の候補化合物の中からもっとも薬物動態の優れた化合物を選択することができ、また被験者の数を減らすことができるため、コストの面でメリットが大きい。

※5 遺伝子多型解析:
 同一種に属する生物であっても個々のゲノムの塩基配列は多種多様であるが、1%以上の頻度で存在する遺伝子の変異を遺伝子多型という。DNAの配列の1箇所の塩基配列が別な塩基に変わっている一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)や、2個から4個の単位の配列が数回から数十回繰り返すマイクロサテライト多型(Microsatellite Polymorphism)などがある。SNPはヒトゲノム上で最も数多く存在する多型で、平均約1000塩基ごとに一ヶ所みられ、おそらくゲノム全体では200万以上はあるとみられている。マイクロサテライト多型は3万から10万塩基に一ヶ所あるとされ、約10万、ヒトゲノムに存在するとされる。

※6 薬物間相互作用:
 血中に複数種類の薬物が存在することにより、薬物の作用に対して影響を与えること。薬物間相互作用により薬物の作用が増強する場合や減弱化する場合、新たな副作用が生じる場合がある。

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