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理研など、火山噴火による気候変動要因の大きさを推定

2014-07-28

南極大陸アイスコアからさぐる過去2000年の火山噴火の歴史
−火山噴火による気候変動要因の大きさを推定−



<ポイント>
 ・26本の南極大陸アイスコアを解析し大規模火山噴火の歴史を正確に捉えた
 ・過去の2つの最大規模の火山噴火が及ぼす寒冷化への影響は従来の理解より小さい
 ・気候モデルへの入力データとして今後の活用が期待される


<要旨>

 理化学研究所(理研、野依良治理事長)と国立極地研究所(白石和行所長)は、米国砂漠研究所などと共同で、南半球および地球規模の気候に影響を与えた火山噴火の歴史を初めて過去2000年にわたって正確に復元しました。本研究により、地球全体の寒冷化に及ぼした影響に関する従来の推定は、過去の2つの最大規模の火山噴火については20〜30%過大評価し、他の一部の火山噴火では20〜50%過小評価していたことを突き止めました。これは、米国砂漠研究所のマイケル・シグル博士、ジョセフ・マッコーネル教授、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)望月雪氷宇宙科学研究ユニットの望月優子研究ユニットリーダー、国立極地研究所の本山秀明教授、川村賢二准教授らによる共同研究グループ[1]の成果です。

 大規模な火山噴火では、大量の硫酸エアロゾル[2]が大気中に放出され、日射を遮断するため、一時的な気候の寒冷化をもたらします。過去の火山性硫酸エアロゾルの正確なデータは、気候の将来予測モデルの検証手段として、過去数百〜数千年の気候シミュレーション結果と実際のデータとを比較する「古気候再現実験」に必要です。一方、硫酸エアロゾル粒子は降雪とともに氷床に堆積します。火山噴火の歴史をたどるには、南極などの氷床掘削により採取したアイスコア[3](柱状の氷)に保存された硫酸塩[4]や硫黄を測定し分析することが唯一の方法です。しかし、これまでは分析対象のアイスコアの本数が少なかったため、南極大陸に降下した火山性硫酸エアロゾルの場所による不均一性をデータに反映できず、過去の火山性硫酸エアロゾル量を正確に推定できないなどの問題がありました。

 共同研究グループは、過去2000年間に起きた火山噴火が、地球規模の気候変動にどのような影響を与えているかを調べるため、ドームふじ基地[5]を含む南極大陸の19地点で採取された26本のアイスコアに含まれる硫酸塩の量や地理分布を詳しく分析しました。それぞれのアイスコアの分析の時間分解能は約1年で、これだけ多数のアイスコアの硫酸塩データが収集・評価されたのは初めてです。その結果、過去2,000年間で最大規模とされる、1257年のインドネシアの「サマラス火山噴火」と1458年のバヌアツの海底火山「クワエ火山噴火」が南極大陸にもたらした硫酸エアロゾルの量は、これまでの見積りは50%も過大評価であったことが分かりました。アイスコアから測定された火山性硫酸塩の量は、地球規模の気候の寒冷化に及ぼす影響の度合いを示す「放射強制力」に換算されます。今回の分析により、最大規模の2つの火山噴火の放射強制力についての従来の推定値は、20〜30%過大評価されていたことが明らかになりました。また、他の一部の火山噴火の従来の推定値が20〜50%過小評価されていたことも分かりました。

 本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Climate Change』オンライン版(7月6日付け)に掲載されました。


<背景>

 大規模な火山噴火から成層圏[6]に放出される大量の硫酸エアロゾルは、日射を遮断するため、1〜3年程度の一時的な気候の寒冷化をもたらします。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)[7]などで気候(地球温暖化)の将来予測に用いられるモデルの検証手段の1つとして「古気候再現実験」があります。過去数百〜数千年のシミュレーションを行い実際のデータと比較して検証するもので、それには過去の火山性硫酸エアロゾルの正確なデータが必要です。

 過去に地球規模で気候に影響を与えた火山噴火の歴史を捉えるには、南極やグリーンランドのアイスコアに保存された硫酸塩や硫黄の濃度を測定することが唯一の方法です。しかし、これまでの研究では、使用されたアイスコアが数本と少なかったことが問題でした。南極内陸では積雪が少なく、堆積後に風で雪が移動するなどの現象もあるため、単一の地点から複数のアイスコアを採取してデータを比較することや、多地点のデータから硫酸塩の濃度の地理分布を確認することが必要とされていました。また、これまでは分析の時間分解能が低く、それぞれのアイスコアの年代を1つの基準で正確に統一することが困難でした。

 そこで、共同研究グループは、南極大陸のより多くの地点から掘削されたアイスコアを用いて、過去2000年の火山噴火の歴史の解明に挑みました。


<研究手法と成果>

 今回、共同研究グループは、過去10年以上にわたって南極大陸の19地点(図1)から採取されてきた26本のアイスコアの分析結果を統合し、過去2000年にわたる南半球および地球規模の気候に影響を与えた火山噴火の歴史を高精度で復元しました(図2)。日本チームは、国立極地研究所が中心となる日本南極地域観測隊が2001年と2010年にドームふじ基地(図1)とその近傍で掘削した2本のアイスコアを理研で分析しました。ドームふじ基地付近のデータは従来の研究では考慮されていませんでしたが、この地域の雪や氷は成層圏からの大気成分を南極の他の地点に比べて多く含むという特徴があり、大規模火山噴火の研究に適しています。

 理研では、イオンクロマトグラフを用いて、これらのアイスコアに含まれる微量の硫酸イオン濃度を過去2000年に相当する深度にわたって測定しました。分析の時間分解能は、これまでのドームふじコアに対してなされてきた数年〜10年から約1年に大幅に向上しました。特に2010年に掘削されたドームふじコア(図3、図4)は、本研究で初めて分析結果が解析されました。ドームふじ基地周辺の2本のアイスコアを分析することで、火山シグナル強度の推定精度を高めることができました。

 アイスコア中の硫酸塩は、噴火によって生じた二酸化硫黄が大気中で硫酸エアロゾルとなり、それが降雪とともに氷床に堆積したものです。火山噴火は、1〜数年にわたる硫酸イオン濃度の特徴的なピークを示すため、過去の火山シグナルが同定できます。本研究では、南極大陸西側の掘削地「ウェイス・ディバイド」(図1)で掘削されたアイスコアの年代を、「年層」カウント法を用いて高い信頼度で決定し、アイスコアの年代基準としました。そして、共通の火山シグナルを目印にウェイス・ディバイドコアと他コアの年代を同期させることによって、26本のアイスコアの年代が統一されました。

 本研究により、過去2000年間で最大規模の2つの火山噴火(1257年のサマラス火山噴火と1458年のクワエ火山噴火)が南極大陸にもたらした硫酸塩の量は、従来の推定では50%も過大評価されていたことが明らかになりました(図2)。また、地球規模の気候の寒冷化へ及ぼす影響の度合い(放射強制力の値)は、従来の推定では、最大規模の2つの火山噴火については20〜30%過大に見積もられていた一方、過去の他の噴火の一部については20〜50%過小評価されていたことが分かりました。


<今後の期待>

 本研究で得られた火山性の硫酸エアロゾル量と、それから求められた放射強制力など気候モデルに使用されるデータは、今後の気候モデルの検証と発展に役立つと期待されます。過去に起こった気候変動が、火山噴火や温室効果ガス、太陽活動などの要因によるのか、地球の気候システム自身が本来持っている内的な要因(エルニーニョ現象など)によるのかを区別することは、気候モデルがそれぞれのプロセスを正しく再現するために必要な基礎データとなります。また、今後、北極圏に位置するグリーンランドの多地点のアイスコアからも同様な解析を行い、本研究と組み合わせることによって、過去の火山噴火とその気候変動への影響について、地球規模での理解が深まることが期待されます。

 米国が掘削した信頼度の高い年代軸を持つウェイス・ディバイドアイスコアと日本が掘削したドームふじアイスコアについて、火山噴火シグナルを用いた年代の同期を、今後、過去数万年分にわたって行う予定です。ドームふじコアの年代決定の精度が過去数万年スケールにわたって高まることにより、気候研究がさらに発展することが期待されます。

 なお、本研究で使用された2本のアイスコアは、ドームふじ基地とその周辺で、第42次および第51次日本南極地域観測隊によって掘削されました。第51次隊での掘削は、南極地域観測第VII期計画(2006年度〜09年度)の一般プロジェクト研究観測「氷床内陸域から探る気候・氷床変動システムの解明と新たな手法の導入」の一環として実施されたものです。理研、国立極地研究所、米国砂漠研究所の共同研究は、2013年に開始されました。理研におけるアイスコアの分析は、内閣府・総合科学技術会議による最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援を得て行われました。


<原論文情報>

 ・M.Sigl,J.McConnell,M.Toohey,M.Curran,S.Das,R.Edwards,E.Isaksson,K.Kawamura,S.Kipfstuhl,K.Kruger,L.Layman,O.Maselli,Y.Motizuki,H.Motoyama,D.Pasteris,M.Severi,"Insights from Antarctica on volcanic forcing during the Common Era",Nature Climate Change,2014,doi:10.1038/nclimate2293


<発表者>

 独立行政法人理化学研究所
 仁科加速器研究センター(http://www.riken.jp/research/labs/rnc/
 望月雪氷宇宙科学研究ユニット(http://www.riken.jp/research/labs/rnc/astro_glaciol/
 研究ユニットリーダー 望月 優子(もちづき ゆうこ)


 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
 国立極地研究所 気水圏研究グループ
 准教授 川村 賢二(かわむら けんじ)


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
 ・補足説明
 ・図1〜図4


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