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東北大など、カーボンナノチューブ分子内部の構造を解明

2014-06-02

「つるつる・くるくる」カーボンナノチューブ分子内部の秘密
化学が解き明かすカーボンナノチューブの筒内平滑構造

 ※表紙図は添付の関連資料を参照

 表紙図.分子ピーポッドの結晶内構造。内部のフラーレンは固体中でくるくると回転する。
 フラーレンは、さまざまな配置をとるものの、特異点となる炭素(球で示した原子)が存在する可能性までもが示唆された。


1 発表タイトル 「つるつる・くるくる」
          カーボンナノチューブ分子内部の秘密
          化学が解き明かすカーボンナノチューブの筒内平滑構造


2 発表者 東北大学/科学技術振興機構(JST)
       原子分子材料科学高等研究機構/JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクト
       大学院理学研究科 磯部寛之


3 発表概要
 国立大学法人東北大学・JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクトの磯部寛之教授の研究グループは、カーボンナノチューブにフラーレンがとり込まれた分子ピーポッドの固体状態の詳細な構造を解明しました。筒状の分子内に球状の分子が、あたかも「さやえんどう」のような形で入った炭素性物質「ピーポッド」は、1998年に初めて発見されて以来、その独特の分子形状や特異な物性に興味をもたれて研究されてきていましたが、原子の配列まで含めた精密な分子構造は未だ解明されておりませんでした。
 発表者らは、ごく最近、単純な構造を持つ分子ピーポッドを開発し、分子運動が活発な溶液状態で、中に取り込まれたフラーレンが、抜け出ることができないほど強固に捕捉されていること、またチューブ内部で回転していることを見いだしていました。今回の研究で新たに、(1)通常の分子ならば動きを止めてしまう固体状態であっても、分子ピーポッドの内部にあるフラーレンが「くるくる」と回転していること、(2)分子構造を精密に解明できる高輝度X線回折による分析から、カーボンナノチューブ分子の筒の内部には極めて「つるつる(平滑)」な曲面が存在することを明らかにしました。内部が「つるつる」であることが、内部のフラーレンが「くるくる」と回転するための重要な構造要素であることを明らかにした結果です。固体中でも滑らかに回転するナノサイズの機械(分子機械)の自在設計を可能とするために重要な基盤となる知見です。

[本研究成果のポイント]
 ・固体状態でも、筒の中でこまのように「くるくる」と回るナノサイズのベアリング(分子ベアリング)を発見
 ・有限長カーボンナノチューブ分子は、内部に「つるつる」な曲面をもつ筒分子であることを解明


4 発表内容
 「固体」は、定まった形と体積をもつ点で液体・気体とは異なる物質の三態のひとつで、その形が安定に保たれていることから、私たちの身の回りの「材料」として広く活用されています。とくに結晶固体は、固体内での原子・分子までもが規則正しく整然と並んだ特徴をもち、「堅くて、動かない」イメージそのものの物質です。今回、JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクトと東北大学の磯部寛之教授の研究グループは、この「堅くて、動かない」はずの固体内で「くるくる」と回る分子を発見しました。ボトムアップ化学合成(小さな構造から大きな構造を作り上げる化学合成法)によって長さを短く揃えた筒状のカーボンナノチューブ分子のなかに、球状のフラーレン分子を詰め込んだ、「分子ピーポッド」の固体状態の解析により得られた成果です。以前の研究から分子運動が活発な溶液状態で、フラーレンがカーボンナノチューブ分子の筒の中に極めて強固に捕捉されながら、チューブ内部で回転していることを明らかにしていました。今回の研究成果は、強固に捕捉された上に、さらに固体状態に置かれても「分子ベアリング」の内部のフラーレン回転子が、くるくると回ることを示したものです。研究グループでは、この固体をマイナス30度まで冷やしても、内部の回転子の運動が止まらないことを確認しています。近い将来、分子でできた機械を固体のなかに自在に設計できるようになるのではないかと期待させる研究成果です。
 研究グループではさらに、高輝度な放射光X線を使うことで、この結晶固体の精密な分子構造を解き明かしました。国内の放射光施設SPring−8および高エネルギー加速器研究機構KEK PFの最先端設備を活用したものです。現代では、電子顕微鏡など、さまざまな新しい分子構造を解析する手法が登場していますが、X線回折を使った構造解析法は、結晶固体内の原子の配置をもっとも精密・精確に決定できる方法です。X線回折から見いだされたのは、筒状分子の内部に「つるつる(平滑)」な曲面が存在することでした。幾何学的手法を用いた解析を活用することで、変曲点のない滑らかな曲面が確認されたものです(図1)。カーボンナノチューブは、筒状の分子構造をもっていることから、その内部には「つるつる」な曲面が存在することは理論的に予測される特徴でしたが、その構造的な特徴を実験的に実証した初めての例となります。このX線回折実験では、マイナス173度での分析を行うことで、内部のフラーレンの回転を停止することができましたが、より高温での回転運動を反映し、いろいろな配置のフラーレンが確認されました(図2〜4)。この構造解析からは、不思議なことに、多様な配置のなかでも居場所が変わらない二つの炭素原子が見つかっています。この特異点の生成要因については、今後の解明が待たれます。
 「つるつる」の曲面をもつカーボンナノチューブ内部に、丸い球状分子を閉じ込めることで、固体状態でも「くるくる」と回る分子ベアリングをつくることができることを明示した研究成果です。

 この研究は、JST戦略的創造研究推進事業ERATO「磯部縮退π集積プロジェクト」の一環として文部科学省「科学研究費補助金」の支援とともに実施されたものであり、学術雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS;Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America)」電子版で公開されます。


 研究者の氏名・所属:
  佐藤宗太(さとうそうた)  :JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクトグループリーダー
                   東北大学原子分子材料科学高等研究機構准教授
  山崎孝史(やまさきたかし):東北大学大学院理学研究科化学専攻博士前期課程学生
  磯部寛之(いそべひろゆき):JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクト研究総括
                   東北大学原子分子材料科学高等研究機構主任研究者
                   東北大学大学院理学研究科教授


5 発表雑誌 米国科学アカデミー紀要(PNAS)誌
         2014年5月27日の週に電子版公開予定
         http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1406518111
         論文名:Solid−state structures of peapod bearings composed of finite single−wall carbon nanotube and fullerene molecules
         (和文:有限長単層カーボンナノチューブ分子とフラーレン分子とからなるピーポッド型ベアリングの固体構造)


 ※用語解説・添付図版は添付の関連資料を参照



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