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東北大と理研、電子の蓄積と集団的運動の可視化に成功

2014-05-17

電子の蓄積とその集団的運動の可視化に世界に先駆けて成功
―電子の動きに伴う電場の乱れを先端計測法で検出・追跡―


 東北大学多元物質科学研究所の進藤大輔教授(理化学研究所創発物性科学研究センターチームリーダー)と赤瀬善太郎助教、理化学研究所の会沢真二テクニカルスタッフらの研究グループは、帯電した絶縁体試料表面近傍で電子が次第に蓄積する様子を、電子線ホログラフィーにより電場の乱れとして検出すると共に、その電子集団の移動の様子を可視化することに世界に先駆けて成功しました。
 本研究成果は、米国の顕微鏡に関する専門誌であるMicroscopy and Microanalysisのオンライン版(5月12日付け:日本時間5月13日)に掲載されました(D.Shindo,S.Aizawa,Z.Akase,T.Tanigaki,Y.Murakami and H.S.Park,"Electron Holographic Visualization of Collective Motion of Electrons through Electric Field Variation")。


<研究成果の概要>
 私達の生活は、電子の様々な動きや流れを利用することで成り立っています。しかし、私達は通常、このことを光や音、熱などの発生を通して間接的に把握しているに過ぎません。この生活に欠かせない多様な電子の振る舞いを直接観察することは、身の回りの様々な電気現象の機構を解明する上で、また先端デバイスの高機能化を実現する上でも、重要な研究課題でした。
 電磁場を可視化できる電子線ホログラフィーを用いて電子の運動を追跡できないか実験を繰り返す中、東北大学多元物質科学研究所の進藤大輔教授(理化学研究所創発物性科学研究センターチームリーダー)と赤瀬善太郎助教、理化学研究所の会沢真二テクニカルスタッフらの研究グループは、今回絶縁体で複雑な形態をもつ生体試料の帯電効果を利用することで、電子が次第に蓄積する様子や複雑な電場の中で電子が集団的に運動する様子を電場の乱れを通して直接観察することにはじめて成功しました。


<研究内容の説明>
 1.研究の背景
   突然の停電が社会生活の大混乱を招くことからも分かるように、私達の日常生活は、電子の流れ(電流)無くしては成り立ちません。この生活に密着した電子の様々な動きや流れを、私達は通常、光や音、さらに熱などの発生を通して間接的に把握しています。この生活に欠かせない電子の多様な振る舞いを直接観察することは、身の回りの様々な電気現象の機構を解明する上で、また先端デバイスの高機能化を実現する上でも、重要な研究課題でした。一方、電子は身近に存在する最も代表的な素粒子の一つであり、トンネル効果や超伝導などの不思議な量子現象を発現します。この素粒子の動きを直接観察することは、基礎科学の立場からも、興味深く重要な研究課題でした。
   電子は、マイナスの電荷と磁気モーメントをもち、その周囲に電場と磁場(電磁場)を形成しています。電磁場をナノメートル(1メートルの10億分の1)スケールで可視化できる電子線ホログラフィーを用いて電子の運動を追跡できないか実験を繰り返す中、東北大学多元物質科学研究所の進藤大輔教授(理化学研究所創発物性科学研究センターチームリーダー)と赤瀬善太郎助教、理化学研究所の会沢真二テクニカルスタッフらの研究グループは、今回絶縁体で複雑な形態をもつ生体試料の帯電効果を利用することで、その試料表面近傍で電子が次第に蓄積すると共に、複雑な電場の中で電子が集団的に運動する様子を電場の乱れを通して直接観察することにはじめて成功しました。

 2.研究成果
   図1は、山梨大学の大野伸一教授のグループより提供を受けたネズミの坐骨神経の微細線維(青い線状の部分)周辺の、電子線ホログラフィーの振幅再生像と呼ばれる電子顕微鏡写真です。電子線ホログラフィーでは、電子の波動性を利用し、試料を通過した波と試料外の真空領域を通過した波を干渉させてホログラムと呼ばれる干渉縞を撮影します。この干渉縞には、試料周辺の電磁場の情報が記録されており、コンピュータを用いた位相再生処理により、電磁場の分布を可視化できます。ここで、電子が動いている場合、この動きにより電場が乱されます。ホログラムから振幅再生と呼ばれる処理をすると電場の乱れた領域を特定することができることを研究グループはこれまで見出しており、それが図1の赤い領域に対応します。
   一般的に、この生体の微細線維のような絶縁体に高エネルギーの電子を入射させると、試料からは低エネギーの2次電子が放出され、結果として試料は正に帯電することが知られています。電子線照射初期の上段の写真(a)では、電子の動きに伴う電場の乱れに対応する赤い部分がそれほど目立たないのに対して、中段(b)と下段(c)の電子線照射を継続した写真では、赤い部分がそれぞれ左側と右側の枝の上部に(矢印)明瞭に観察されます。これは、一旦試料から放出された2次電子が、電子線照射量の増大と共に次第に強く帯電した試料に引きつけられ、枝に囲まれ領域に徐々に蓄積し、集団的に移動する様子を捉えたものです。下記<観察された現象の補足説明>参照。

 ※図1は添付の関連資料を参照

 3.今後の展望
   電子線ホログラフィーの振幅再生法を駆使することにより、電子の動きに伴う電場の乱れが検出できました。この振幅再生像を連続撮影することにより、絶縁体試料表面近傍に電子が蓄積する様子とその電子の集団的な運動を可視化できました。これらの成果を踏まえ、今回確立した観察法を用いて、今後は様々な電子の流れの観察にも適用し、身の回りの複雑な電気現象の機構解明や先端バイスの高機能化への応用展開が期待されます。


<付記事項>
 本研究は、科学研究費・基盤研究(A)課題名「電場の可視化と2次電子検出による帯電現象の解明」(課題番号25249093)(代表者:進藤大輔、支援担当機関:(独)日本学術振興会)の助成を受けたものです。また、最先端研究支援プログラム(FIRST)課題名「原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡の開発とその応用」(中心研究者:故外村彰日立製作所フェロー、中心研究者代行:長我部信行日立中央研究所所長、支援担当機関:(独)科学技術振興機構)の支援を受けました。


<発表予定>
 本研究成果は、米国の顕微鏡に関する専門誌であるMicroscopy and Microanalysisのオンライン版(5月12日付け:日本時間5月13日)に掲載されました(D.Shindo,S.Aizawa,Z.Akase,T.Tanigaki,Y.Murakami and H.S.Park,"Electron Holographic Visualization of Collective Motion of Electrons through Electric Field Variation")。この論文には補足資料が付されており、電子が集団的に運動する様子を捉えた位相再生と振幅再生の動画が見られます。また、本研究内容は、8月に米国顕微鏡学会主催の顕微鏡法に関する国際会議の招待講演の中でも報告されます。


 ※補足説明などは添付の関連資料を参照


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