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JAXA、全天X線監視装置(MAXI)が極超新星(ハイパーノバ)の痕跡を発見

2013-02-27

全天X線監視装置(MAXI)が”極”超新星(ハイパーノバ)の痕跡を発見
〜天の川銀河での発見は世界初〜


 国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに搭載した全天X線監視装置(MAXI:Monitor of All−sky X−ray Image)の観測により、はくちょう座方向に”極”超新星爆発の痕跡を見つけました。この爆発は、通常の超新星爆発の100倍も大きなもので、その規模から”極”超新星だと推定されました。我々の住む天の川銀河では、極超新星もその痕跡もこれまで見つかっておらず、今回が天の川銀河内での世界初の発見となります。

 なお、銀河系外では極超新星は8つ程度、極超新星の痕跡は2つ程、見つかっています。(極超新星は爆発時に非常に明るく輝くため発見数が多いのですが、その痕跡は暗くて普通の超新星の痕跡との区別もつきにくく、発見が困難なため、痕跡の探索には精度のよいハッブル宇宙望遠鏡などが用いられています。)

 MAXIに搭載されている、X線CCDスリットカメラ(SSC)は、MAXIの観測開始(2009年8月)以来、全天にわたって広がっている高温度領域を観測してきました。その全天観測マップから、はくちょう座の方向に大きく広がった高温領域を確認し、これを解析した結果、およそ2−3百万年前に爆発した”極”超新星の痕跡の可能性が高いとの結論に達しました。この成果は日本天文学会の欧文雑誌『Publication of Astrophysical Society of Japan (PASJ)』に受理されました。

(掲載論文のタイトル:“Is the Cygnus Superbubble a Hypernova Remnant?")


<解説>
 銀河には超新星爆発によって作られた高温ガスがたくさんあり、X線カメラで撮影するとバブル(泡)のように見えています。私たちの住む天の川銀河以外の銀河では、超新星爆発で作られるバブルよりもさらに大きなバブル(スーパーバブル)が見つかっています。私たちの銀河内にもこれまでのX線観測によってスーパーバブルの存在が予測されていましたが、その見かけが大き過ぎて、これまでの視野の狭い望遠鏡では上手く観測できませんでした。これに対して、全天を観測できるX線カメラMAXI−SSCの登場により、宇宙に広がった超高温度領域の分布の観測が可能になりました。今回、SSCにより地球から宇宙を見上げた際の半径の角度が11度にもなるはくちょう座の大構造を調べたところ、重金属からの輝線を検出し、その温度が300万度にもなることや、その全エネルギー・大きさなどを測定しました。これらの結果、はくちょう座の高温領域は、2−3百万年前に通常の超新星爆発の100倍ものエネルギーによって作られたことが判りました。これは、太陽質量の数十倍の星が極超新星(ハイパーノバ)爆発を起こした結果だと解釈できます。通常の超新星爆発は我々の銀河では約50年に一度程度おこるといわれています。しかし、ハイパーノバは10万年から100万年に一度しか起こらないと予想されており、非常に珍しい現象です。しかも、その巨大な爆発エネルギーは、銀河全体の進化に大きな影響を与えます。ハイパーノバは、宇宙で最大の爆発であるガンマ線バーストを起こし、超高エネルギー宇宙線の起源天体に関連し、強い重力波も出すと考えられています。

 今回の観測は、そのような珍しい現象の痕跡を世界で初めて我が銀河系内で発見できたことになります。この痕跡は可視光では見えないため、目で見ることはできません。しかし、2−3百万年前の爆発の瞬間は満月と同程度に輝いたと予想されます。

 MAXIは、今も「きぼう」でX線観測を続けており、世界最速スピードでX線新星(ブラックホールの候補となる天体が多い)を発見するなど、多くの高エネルギー天体の監視によって興味ある成果をもたらしています。MAXI稼働以降に見つかったX線新星うちの大半はMAXIが発見したものです。見つかったいくつかの新星の詳細な観測データは、世界中の天文学者が研究しており、興味ある結果が得られています。それらの中には、これまでにないブラックホールの振る舞いを見つけたり、巨大ブラックホールに星がばらばらになって吸い込まれる瞬間を捉えた観測などがあります。また、2014年には、「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)」の打上げが予定されており、ますます、国際宇宙ステーションをプラットフォームとする観測が充実されます。


<MAXI/SSCで見る宇宙からのX線>

 ※図1は添付の関連資料「参考画像」を参照

 MAXI ‐SSCで30ヶ月間観測して得た0.7keV.7keVのエネルギーバンドの全天画像。図の中央が銀河中心、横軸は銀経、縦軸は銀緯の銀河座標で表してある。赤い色はエネルギーが低く、青い色はエネルギーが高いX線を放出していることを示す。丸い点はX線の点源で、少し広がったX線源のベラ星雲やはくちょう座網状星雲が明るく見える。点源の他、銀河中心付近に大きく広がった構造も見える。


 ※図2は添付の関連資料「参考画像」を参照

 図2 左:図1の全天画像からはくちょう座スーパーバブルの領域を切り出した画像で、白線で囲んだ馬蹄形部分がはくちょう座の高温度領域である。画像には明るい天体が4つ(a〜d)見えており、それらは、はくちょう座のX線源Cyg X−1(a),Cyg X−2(b),Cyg X−3(c)、そしてはくちょう座の網状星雲(d)である。

 右:可視光と、X線データを重ねたもの。はくちょう座の北十字星の位置を緑色で示してある。
 X線で見える馬蹄形の高温ガスの構造は半径11度の広がり、つまり、半径約1000光年のバブル状の構造で、可視光では見えない。地球からの距離は5500光年程度、ガスの温度は300万度で、2−3百万年前にこの中心で太陽の数十倍の巨大な星が極超新星爆発(ハイパーノバ)を起こしたと解釈できます。


 論文名:“Is the Cygnus Superbubble a Hypernova Remnant?”
 責任著者:木村 公(宇宙航空研究開発機構
 共著者:大阪大学:常深 博、佐々木 将軍
      宇宙航空研究開発機構:冨田 洋、上野 史郎
      理化学研究所:杉崎 睦
      宮崎大学:花山 喬則、吉留 幸志郎
      MAXIチーム


<佐藤勝彦 自然科学研究機構長のコメント>
 MAXIが、はくちょう座近辺にある半径1000光年にもなるスーパーバブルが一つの巨大な超新星の起源であることをつきとめた。このような巨大なバブルを作るためには、普通の超新星の100倍もの爆発のエネルギーが必要で、これはハイパーノバの残骸と考えるのが当然だろう。そうだとすれば、初めてのハイパーノバ残骸の発見となる。今後もさらに詳しい観測の解析によってハイパーノバの爆発メカニズムに関する情報が得られるかもしれない。ハイパーノバはガンマ線バースト天体を引き起こす大爆発であり、超高エネルギー宇宙線の起源天体としても考えられておりきわめて重要な発見である。また強い重力波を放出すると考えられており、今後の解析から爆発についての情報が得られるなら、重力波放出についての示唆も得られるかもしれない。
 MAXIは国際宇宙ステーションの日本実験モジュール「きぼう」の曝露部に設置されたものである。曝露部は日本実験モジュールのみに設けられたものであり、この特徴によって大きな成果が出たことは大変喜ばしいことだ。


<野本 憲一 東京大学 国際高等研究所・カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員のコメント>
 極超新星は、発生頻度は高くありませんが、その巨大な爆発エネルギーによって、周囲のガスのみならず、銀河全体の進化に大きな影響を与えます。そのような珍しいイベントが銀河系内でも起きたという現場を確認できたとすると、大変重要な発見だと思います。


<関連リンク>
 http://iss.jaxa.jp/宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター)
 http://iss.jaxa.jp/kiboexp/ef/maxi/(MAXI サイエンスニュース)
 http://maxi.riken.jp/理化学研究所のMAXIのページ)

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