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富士通と富士通研究所、ハイパースペクトル画像を用いた類似した色調を持つ樹木の植生の把握を実現
ハイパースペクトル画像を解析し、生物多様性保全に貢献
上空からの撮影により、樹木の正確な植生把握が可能に
富士通株式会社と株式会社富士通研究所(注1)は、上空から撮影したハイパースペクトル画像(注2)を用いて樹木を判別する手法を基に、樹木の判別精度の向上を行い、スギやヒノキなどの類似した色調を持つ樹木の植生の把握を可能にしました。
本技術を活用することで、樹木の専門家でなくとも、また河川敷や森林に立ち入ることなく植生を正確に把握できるため、生態系を脅かす外来植物の繁茂状態や、複数の樹種の分布状況の調査を、低コストで短期間に行うことができます。
<開発の背景>
当社グループは、「富士通グループ生物多様性行動指針」のなかでICTを活用した生物多様性保全を重点施策の一つとして掲げています。生物多様性を保全するには、森林や河川などの生態系や野生動植物の現状を把握することが必要となります。
<課題>
植生の調査にあたっては、これまで専門家による踏査や衛星写真による遠隔調査が用いられてきました。しかし、踏査はコストや時間がかかる上に危険な場所にも立ち入らなければならず、一方で、遠隔調査は精度が粗く、スギやヒノキのようにどちらも常緑針葉樹であり、類似した色調を持つ樹木については、判別が困難である問題がありました。そこで、低コストで短期間に、かつ高い精度で植生を把握できる手法が求められていました。
<樹種の判別精度向上手法>
※添付の関連資料を参照
<実証実験>
2011年3月、当社の森林保全活動のひとつである「富士通グループ・中土佐 黒潮の森」(注3)における活動の舞台である高知県中土佐町様の協力のもと、本技術の実証実験を行いました。中土佐町様はスギとヒノキが混生した広大な人工林を有しており、森林の健全化と林業の活性化をめざし、環境省によるCO2オフセットプログラムであるJ−VER制度(注4)へも積極的に参画しています。
同制度のプロジェクト計画書を作成、申請するにあたってはCO2吸収量が異なるスギとヒノキの植生図の作成が必要で、同町様では、これを踏査作業により作成しています。今回、対象の人工林においてハイパースペクトル画像を取得し、先に述べた判別精度向上手法を用いて、樹木の判別を実施したところ、踏査による判別結果と概ね一致するという結果が得られました(図3)。
本実験結果により、これまで遠隔による調査では困難であった「スギとヒノキの針葉樹の判別」においても今回の技術が有用であることが実証できました。
【図3 ハイパースペクトルによる実証実験結果と踏査による樹種判別の比較】
※添付の関連資料を参照
<今後>
外来植物と在来植物の判別や植生状況の調査、また森林における複数の樹種の分布状況を上空から撮影した画像を利用して低コストかつ短期間に正確に実施できることで、人が立ち入るのが困難な場所における植生図の作成や、CO2吸収量が異なる樹木が混生する森林のCO2吸収量の正確な推計など、幅広い分野での活用が期待されます。
<商標について>
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
<注釈>
注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 ハイパースペクトル画像:
対象物のスペクトル情報を高い精度でピクセルごとに測定でき、また全体を画像として捉えることができるハイパースペクトルカメラを用いて撮影した画像データ。
注3 「富士通グループ・中土佐 黒潮の森」:
2007年10月より、富士通株式会社、株式会社富士通四国システムズ、株式会社富士通エフサス、株式会社富士通四国インフォテックが、高知県および中土佐町の「環境先進企業との協働の森づくり事業」にパートナー企業として参画している森林保全プロジェクト。
注4 J−VER制度:
Japan Verified Emission Reductionの略。環境省による、カーボン・オフセットを行う際に必要なクレジット(ほかで実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量)を発行・認証する制度。