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理研、世界最小の人工バネでタンパク質の動きを捉えることを解明
世界最小の人工バネでタンパク質の動きを捉える
−聴覚を支える分子はどのように力に応答するか−
<要旨>
理化学研究所(理研)生命システム研究センター細胞動態計測研究グループの岩城光宏上級研究員らの国際共同研究グループ(※)は、DNAナノテクノロジーを用いて世界最小のコイル状人工バネ「ナノスプリング」を作製し、聴覚に関わるメカノセンサータンパク質[1]ミオシンVI[2]の動きを捉え、アクチンフィラメント[3]と強固に結合するメカニズムを分子レベルで明らかにしました。
細胞内に数多く存在するメカノセンサータンパク質は、物理的な力による機能制御を受け、細胞増殖、分化、形態形成や細胞死などの細胞レベルのふるまいに関わります。一方で“力がどのようにしてメカノセンサータンパク質の機能を制御するのか”を調べる技術は乏しく、不明な点が多くあります。従来の技術では、タンパク質の機能や動態を1分子レベルで可視化すると同時にタンパク質に力を加えることは難しく、メカノセンサータンパク質を“効率よく、観ながら触る”新たな技術の開発が求められていました。
国際共同研究グループは、DNAを編む「DNAオリガミ[4]」と呼ばれる技術を用いて、タンパク質サイズの世界最小のコイル状人工バネ「ナノスプリング」を作製しました。そして、自律的に力を発生するモータータンパク質[5]でもあるミオシンVIを結合させ、ナノスプリングを引き延ばす過程を蛍光1分子イメージング[6]で超解像ナノ計測[7]し、ミオシンVIが力に応答して機能を調節する機構を可視化しました。その結果、ミオシンVIは力を受けると、細胞骨格であるアクチンフィラメントへの結合様式を変化させて強固な結合状態(アンカー結合状態)を作ることが分かりました。ミオシンVIは内耳に存在するステレオシリア[8]の形態維持を担っています。ステレオシリアが受けた音(空気の振動)による物理的な力刺激がミオシンVIに伝わり、アクチンフィラメントとアンカー結合状態を生じることで、その形態を安定に維持していることが示唆されます。
本研究で開発したナノスプリングはバネ定数のチューニングが可能でプログラム能力も高いため、さまざまなメカノセンサータンパク質への応用が可能です。電子顕微鏡や原子間力顕微鏡との併用も可能なため、力を加えながら分子構造や動態を観る手法として必須のツールとなることが期待できます。
本研究は、国際科学雑誌『Nature Communications』(12月12日付け:日本時間12月12日)に掲載されます。
※国際共同研究グループ
理化学研究所 生命システム研究センター 細胞動態計測コア
細胞動態計測研究グループ
上級研究員 岩城 光宏(いわき みつひろ)
グループディレクター 柳田 敏雄(やなぎだ としお)
ハーバード大学 医学部
博士研究員 シェリー・ウィッカム(Shelley Wickham)
准教授 ウィリアム・シー(William Shih)
東京大学 新領域創成科学研究科
助教 池崎 圭吾(いけざき けいご)
*リリース詳細は添付の関連資料を参照