イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

JST、高効率太陽電池用シリコンインゴット単結晶作製に新規成長法を用いたキャスト成長炉で成功

2016-08-18

メガソーラ向けの高効率太陽電池シリコンインゴット単結晶の作製に
新規成長法を用いて生産性の高いキャスト成長炉で成功
〜高効率太陽電池の高歩留まり製造に道を拓く〜


■ポイント
 ○メガソーラ向け太陽電池に使われるシリコンは、多結晶を使ったものが主流である。多結晶は単結晶より変換効率が劣るものの、キャスト法を使うため高い生産性が得られ低コストである。生産性の高いキャスト成長炉で現行の単結晶なみの歩留まりと特性が実現できれば、単結晶が市場で主流になると見込まれる。
 ○NOC法という新しいキャスト成長炉を用いて単結晶を作製し、現行の単結晶の太陽電池特性や歩留まりと同等の特性を世界で初めて得た。
 ○太陽電池シリコンインゴットの製造方法の主流になると期待される。

 文部科学省 革新的エネルギー研究開発拠点形成事業(JST受託事業)において、JSTの中嶋 一雄 研究チームリーダーらは、生産性の高いキャスト成長炉で作製したシリコン単結晶インゴット(注1)を用いて太陽電池を製作し、19.14%という高い変換効率を、高い歩留まりで実現しました。この変換効率は、従来法のCZ単結晶インゴットを用いた太陽電池と同等で、これは世界初の成果であります。
 メガソーラ向け太陽電池の大半はシリコン太陽電池です。このため材料であるシリコン結晶の一層の高品質化と低コスト化が望まれてきました。
 本研究グループでは、NOC法(注2)(図1)と呼ばれる新しい単結晶作製法を開発しました。これは、多結晶インゴットを得るためのキャスト成長炉に、さらに融液内に独自に低温領域を設定し、ルツボ壁(注3)に触れないで単結晶を融液内成長できる工夫をしたものです。使う材料を高純度化し、ガスの流し方を工夫したほか、インゴット底部を凸化するなど融液がルツボ壁と反応するのを防止する技術を開発することで、結晶中に含まれる酸素濃度や金属不純物を低減し、さらに結晶欠陥の低減を図りました。
 得られたp−型シリコン単結晶を用いて、産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所(FREA)の標準プロセスで作製したAl−BSF構造(注4)太陽電池は、最高19.14%、平均19.0%の変換効率を示し、極めて高い歩留まりで、高い効率の太陽電池を実現することに成功しました。この変換効率は、同一プロセスで製作した従来型のp−型CZシリコンインゴット単結晶太陽電池の変換効率19.1%と同程度でした。
 本技術は、太陽電池市場(注5)の60%を占めるキャスト成長法(注6)で作製した多結晶太陽電池と比較し、太陽電池特性と歩留まりがともに圧倒的に優位であり、次世代のキャスト成長法として有望です(図2)。今後スケールアップ技術が進展すれば、本技術がメガソーラ市場の主流になる道が開かれると期待されます。
 本成果は、平成28年8月12日に、名古屋で開催されるICCGE−18(18th International Conference on Crystal Growth and Epitaxy)にて発表されます。

 本成果は、以下の事業によって得られました。
  革新的エネルギー研究開発拠点形成事業(文部科学省委託事業)
  研究総括:小長井 誠(東京都市大学総合研究所 教授)
  研究テーマ:「ナノワイヤー太陽電池
  研究期間:平成24年7月〜平成29年3月

<研究の背景と経緯>
 現在使用されている太陽電池の大半はシリコン単結晶または多結晶から作製されています。太陽電池用多結晶シリコンウェハーの1枚当たりの価格は単結晶よりも安く、キャスト成長炉を用いる多結晶はCZ成長炉を用いる単結晶より生産性が高いことから、太陽電池市場の60%を占有しています。最大の市場はメガソーラ(全市場の80%)を主体とする市場であり、変換効率が18%前後の多結晶太陽電池が主に使われています。
 しかし、市場占有率の高い多結晶の課題は、良質のテクスチャー構造(注7)が作れないことと結晶品質が劣るため、変換効率が単結晶より1〜1.5%程度低い点と、残留歪み(注8)が存在するために結晶品質のバラツキが大きく歩留まりが悪い点にあります。このため太陽電池業界では、生産性の高いキャスト成長炉を用いた、高品質シリコンインゴット単結晶の製造を目標に掲げ、新規技術の開発に取り組んでいます。ここでは、キャスト成長炉による単結晶で作製した太陽電池の変換効率や歩留まりが、CZ成長炉による単結晶と同等の特性を得ることが大きな課題となっています。これを実現できれば、生産性の高いキャスト成長炉で高効率単結晶太陽電池が製造できることになり、キャスト成長炉による市場占有率をさらに増すことが現実になります。当グループで開発したNOC法(図1)キャスト成長炉を用いており、高効率単結晶太陽電池の製造技術として開発しております。図2にp−型太陽電池(注9)が主体のメガソーラ市場における、変換効率と生産性で表示した、既存の成長法とNOC成長法の位置づけを示します。今回、NOC法を用いて、キャスト成長炉で作製したシリコンインゴット単結晶で、CZ単結晶の太陽電池と同等の高効率と高歩留まりを世界で初めて実現しました。

<研究の内容>
 JSTの中嶋 一雄らは、従来のキャスト成長法が石英ルツボに入れたシリコン融液を一方向凝固させる手法のため、成長したインゴット結晶内に大きな残留歪みが存在する点に注目し、ルツボ壁に触れないでシリコン融液内でインゴット単結晶を成長できる実用可能なNOC法を開発しました。
 NOC法は原理的には図1で示した多くのメリットを有しますが、実際にこれらのメリットを実現するには、成長炉に多くの工夫をする必要がありました。その中で太陽電池特性に直結する重要ポイントは、1)不純物の低減、2)結晶内転位(注10)の低減、3)酸素濃度の低減にありました。
 1)の課題に対して、今回、炉の内容物であるグラファイト冶具をすべて真空中で長時間高温空焼きし、主な汚染物質である鉄不純物を除去しました。この炉内クリーン化は極めて有効で、図3に示すように、クリーン化後にはライフタイム(注11)が大きく向上し、ゲッタリング(注12)後でマイクロ秒のオーダの値が得られました。
 2)の課題に対して、図4に示すように、結晶の引き上げ速度と回転速度を極力遅くし、成長方向に凸の形状を有するインゴット単結晶を作製し、インゴット単結晶内の転位が成長するにつれて結晶外で排出されるようにしました。この現象はNOC成長法により見出された効果であり、今回この手法を活用しました。
 3)の課題に対して、成長中のインゴット単結晶の回転速度を1rpmと小さくし、ルツボ回転速度も0.5rpmと小さく、しかも結晶と同方向の回転としました。これにより、シリコン融液内の対流を減らし、シリコン融液と石英ルツボ壁との溶解反応を抑え、酸素がシリコン融液に入るのを防ぎました。これによりインゴット結晶内の酸素濃度を常に1×10の18乗cmの−3乗以下に保ち、最低酸素濃度を3.6×10の17乗cmの−3乗にまで下げることが出来ました。
 上述の1)、2)、3)に示した手法をキャスト成長炉に用いて、p−型シリコンインゴット単結晶を作製し、そのインゴットの全領域から均等に切り出したウェハーを用いて太陽電池を作製し、変換効率の分布を調べました(図5)。p−型CZウェハーを用いたAl−BSFセル構造で平均19.1%の変換効率が得られる太陽電池構造・プロセスを用いて、CZ法の単結晶と同等の最高変換効率が19.14%、平均の変換効率が19.0%の高効率太陽電池を、極めて高歩留まりで実現することに成功しました。この成果は、市場占有率の高いハイパーフォーマンス(HP)キャスト成長法(注13)で作製したインゴット多結晶の太陽電池特性を遙かに凌駕するものであり(図6)、NOC法の優位性を示しています。

<今後の展開>
 今後に残された課題はスケールアップですが、NOC法ではルツボ径の90%の直径比を有するインゴット単結晶をすでに実現しており、ルツボのサイズを最大限に活用することができます。今後、大きなルツボを使用して、図7に示すような大容量のシリコンインゴット単結晶を作製できれば、本技術を太陽電池シリコンインゴット製造方法の主流にできる道が開けます。

 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
   <参考図>
   <用語解説>
   <講演タイトル>


Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版