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帝国データバンク、熊本地震によるマクロ経済への影響分析結果を発表

2016-07-01

特別企画:熊本地震によるマクロ経済への影響分析
急がれる住宅投資や公共投資の集中投下
〜影響は新潟県中越沖地震を上回る懸念も〜


■はじめに
 平成28年熊本地震は、被災地に所在する企業のほか、被災地内に設備や工場を有する県外企業にも影響を与えている。被災地企業の取引先は全国で約3万1000社(1)に上るうえ、県外企業が所有する被災地域の営業所・工場等の拠点は2065件(2)あり、本社所在地は北海道から沖縄まで全国に広がる。そのようななかで、被災地の復旧・復興および日本経済の震災からの立ち直りに対する見通しも重要となる。
 そこで、帝国データバンクでは、熊本地震がマクロ経済に与える影響について、過去の震災と比較・考察し、TDBマクロ経済予測モデルを用いて熊本地震がマクロ経済に与える影響を試算した。


■分析結果
 1.平成28年熊本地震による被害の大きかった熊本県と大分県の名目県内総生産(GRP)は、日本全体の1.9%(2013年度)を占めており、自動車工場の被災でサプライチェーンが大きく毀損した新潟県中越沖地震(2007年7月)の被災地となった新潟県と同程度
 2.熊本地震では、九州自動車道の一部不通で生産された農産物の流通への打撃が懸念されるほか、電気製品に組み込まれる電子部品などの供給力低下は、企業がサプライチェーンを再構築するきっかけとなる可能性もある
 3.過去の震災が日本経済に与えた影響では、東日本大震災を除き、発災の翌期にはプラス成長に転じており、とりわけ個人消費の回復がけん引してきた。しかし、過去の震災は日本経済が堅調に推移していたなかで発生していた。今回の熊本地震は、国内総生産(GDP)が過去8期中4期でマイナス成長を記録するなど、景気が停滞するなかで発生しており、影響は新潟県中越沖地震を上回る懸念もある
 4.TDBマクロ経済予測モデルによる見通しでは、日本銀行と政府による支援策で、震災からの復旧・復興に向けた環境が整いつつあり、住宅投資や公共投資の集中投下で2017年1〜3月期以降は過去の震災時と比較して堅調に推移すると予測される


■熊本地震によるマクロ経済への影響
 災害によって失われた人的被害は取り戻すことはできない。しかし、一般に、大災害が発生した場合に経済全体に与える影響のみを捉えると、短期的なマイナス面と、復興需要を含めた中長期的なプラス面の2つに分けることができる。そこで、過去の震災時の状況を踏まえながら、日本経済が今回の震災から立ち直るまでの見通しを述べていきたい。


■熊本県・大分県の2県、サービス業と製造業が域内経済の約2割を占める
 平成28年熊本地震による被害が大きかった2県(熊本県、大分県)の名目県内総生産(GRP)は日本全体の1.9%(2013年度)を占めた。なお、過去の震災をみると、1995年の阪神・淡路大震災で被害の最も大きかった兵庫県は4.0%、2011年の東日本大震災における被災3県(岩手県、宮城県、福島県)は3.6%(2011年度)、自動車工場の被災でサプライチェーンが大きく毀損した

 ※表資料は添付の関連資料「表資料1」を参照


 2007年の新潟県中越沖地震は1.7%(2007年度)となっている。
 新潟県中越沖地震の被災地となった新潟県は、県内総生産のうち製造業が20.2%と、非常に大きなウェイトを占めていた。特に金属製品製造業は全国の3.0%を占めていたほか、パルプ・紙製造業も同2.9%と盛んであり、川上産業が特徴的であった。
 一方、熊本地震の被害が大きかった2県では、サービス業(20.5%)と製造業(18.8%)が高い。対全国では農林水産業や電気機械のほか、鉱業や窯業・土石製品も比較的高い割合を示していることが特徴である。短期では、九州自動車道の一部区間が不通となったことで生産された農産物の流通への打撃が懸念される。中長期的にみると、電気製品に組み込まれる電子部品などの全国への供給力低下は、企業がサプライチェーンを再構築するきっかけとなる可能性もある。


新潟県中越沖地震を上回る影響も
 過去の震災が日本経済全体に与えた影響をみると、実質国内総生産(GDP。前期比伸び率の年率換算)は、東日本大震災を除いて、発災の翌期にはプラス成長に転じており、とりわけ個人消費の回復がけん引してきた。
 しかしながら、今回の熊本地震では、過去8期中4期でマイナス成長を記録するなど、全国の景気が停滞するなかで発生したことはこれまでと大きく異なる点である。阪神・淡路大震災の起こった1995年当時は、バブル経済の崩壊後とはいえ、個人消費を中心とした成長を続けており、企業も多くのキャッシュを保有していた。また、新潟県中越沖地震では、戦後最長の景気拡大局面にあるなかで発生した。現在は人件費や資材費など企業のコスト負担が徐々に高まり、個人消費や住宅投資が弱含みで推移するなかでの震災であり、日本経済に与える影響は無視できないであろう。

 ※表資料は添付の関連資料「表資料2」を参照


■まとめ:GDPは過去の震災時と比較して堅調に通常軌道へ復帰する見込み
 震災からの復興においては、政府による財政出動と日本銀行による資金供給が重要となる。今回の震災に対して、日本銀行は4月28日に、貸付総額3,000億円を無利息で実施するという被災地金融機関支援オペの措置を決定、導入した。また、政府は4月26日に激甚災害に指定し、公共土木施設災害復旧事業等に関する特別の財政援助、農地等の災害復旧事業に係る補助の特別措置、中小企業信用保険法による災害関係保証の特例、雇用保険法による求職者給付の支給に関する特例など、災害復旧事業の国庫補助のかさ上げ等を実施する政令が施行された。また、政府は熊本地震に対応する2016年度補正予算案について、被災者の生活再建や道路の復旧などを後押しするため7,780億円を計上する方針を固めるなど、震災からの復旧・復興に向けた環境が整いつつある。
 内閣府によると、熊本地震による住宅や企業の生産設備、道路などの「資本ストック」の被害額は最大4.6兆円と試算されている。そこで、TDBマクロ経済予測モデルで熊本地震による実質GDPへの影響を試算したところ、被災した住宅への投資が増加するほか、政府による復興投資で公共投資が大幅に増加するとみられることから、実質GDPは被災2期後(2016年10〜12月期)までは阪神・淡路大震災と同程度の早さで回復し、3期後以降は過去の震災時と比較して堅調に推移すると予測される。

 ※グラフ資料は添付の関連資料を参照


 1 「熊本地震の現状と今後の復興に向けて」(帝国データバンク、2016年4月25日発表)を参照
 2 「熊本地震被災地域の営業所・工場等の立地状況調査」(帝国データバンク、2016年5月12日発表)を参照



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