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東北大と京大など、赤血球造血を支える転写因子GATA1の新たな機能調節機構を解析

2016-06-10

赤血球造血を支える転写因子 GATA1の新たな機能調節機構
‐DNA配列によって決まるGATA1の多様な結合のかたち‐


【研究概要】
 東北大学大学院医学系研究科の清水 律子(しみず りつこ)教授らのグループ(分子血液学分野)は、赤血球の分化を誘導する転写因子GATA1(ガタワン)が適切な遺伝子を適切なタイミングで発現させるメカニズムを、DNA配列の多様性の側面から解析し報告しました。
 転写因子と病気との関係性の解明は、病気の早期発見や予防、新しい治療法の開発などへ繋がることから近年研究が急速に進んでいる分野です。本研究では、DNA配列のパターンの違いが、GATA1の結合の形・結合するGATA1の数・結合の強さ・転写活性を変化させることを見出し、配列パターンごとに特徴的なGATA1の結合様式をモデル化しました。さらに、ヒトの遺伝性血液疾患家系から見つかった、ある特定のDNA配列パターンのみに対して結合力低下を来すGATA1変異体が、赤血球分化を障害し重篤な貧血を引き起こすことを明らかにしました。この成果は、GATA1の機能を支える重要な基礎的知見です。これによりGATA1を中心とした赤血球分化誘導の分子メカニズム解明、さらにGATA1の機能異常が原因となる血液疾患の発症メカニズム解明に貢献できると期待されます。
 本研究成果は、2016年5月27日に米国科学雑誌「Molecular and Cellular Biology」(オンライン版)に掲載されました。


【研究のポイント】
 ・転写因子GATA1は、自身が結合するDNA配列のパターンの差異を識別し、結合様式と転写制御活性を変化させることを見出しました。
 ・遺伝性血液疾患家系から見つかった、回文状に並んだ二つのGATA結合配列への結合力が低下するGATA1変異体は、マウス体内での赤血球分化を障害することを見出しました。


【研究背景】
 赤血球や白血球などの血液中を循環する血球が造血幹細胞(注1)から分化していく過程では、様々な遺伝子が働いています。転写因子(注2)GATA1は、主に赤血球や、血小板を産生する巨核球の分化に関わる多くの遺伝子の発現を制御していることが知られています。GATA1が転写因子として機能するためには、標的となる遺伝子のDNA配列上のGATAモチーフ(注3)と呼ばれる配列に結合する必要があります。しかし、哺乳類ゲノム上のGATA1結合領域にはただ一つのGATAモチーフが存在する場合だけでなく、2つ以上のGATAモチーフが連結した場合もあり、その数や方向の組み合わせにより多様なパターンが存在します。GATAモチーフのパターンの違いが、GATA1の機能にどのような差異を生み出すのか、これまで明らかではありませんでした。


【研究成果】
 GATA1にはDNAと結合する二つのジンクフィンガー(注4)が存在します。本研究から、GATAモチーフのパターンにより、これら二つの亜鉛フィンガーの使われ方が異なり、結合様式の違いとGATA1の転写活性の違いを生み出していることがわかりました(図1)。
 また、ヒト遺伝性血液疾患家系から見つかっているGATA1変異体の中には、2つのGATAモチーフが回文状に連続した配列への結合のみが特異的に阻害されるものがあります。この変異をマウスに導入することで、赤血球分化が障害され、重篤な貧血により出生前に死亡することがわかりました。
 これらの結果は、GATAモチーフにGATA1が結合する・しないといった単純な遺伝子発現制御だけでなく、結合様式や結合強度の差異を織り交ぜた複雑な制御メカニズムの存在を示唆するものです。これらの機能を標的遺伝子によって使い分けることで、GATA1という単一の転写因子が、多様な遺伝子を必要な時と場所で正確に発現させることができていると考えられます。
 GATAモチーフ構造に依存した結合様式の多様性という新たな概念の元に得られた上記の成果は、GATA1の機能を支える重要な基礎的知見です。これによりGATA1を中心とした赤血球分化誘導の分子メカニズム解明、さらにGATA1の機能異常が原因となる血液疾患の発症メカニズム解明に貢献できると期待されます。
 本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金、文部科学省 科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(CREST)、公益財団法人内藤記念科学振興財団、公益財団法人武田科学振興財団、Intramural Research Program of the National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases,NIHの支援を受けて行われました。


【用語説明】
 注1.造血幹細胞:多種多様な血球系細胞を生み出すことができる幹細胞。大人では主に骨髄に存在する。

 注2.転写因子:DNAに結合して遺伝子の発現を誘導または抑制するタンパク質。

 注3.GATAモチーフ:GATA1が認識して結合する、(TまたはA)GATA(AまたはG)の6塩基からなる配列。GATA1は、遺伝子内部または近傍に存在するひとつまたは複数のGATAモチーフに結合して、その遺伝子の発現を制御している。

 注4.ジンクフィンガー:GATA1に含まれる特徴的なタンパク質立体構造。20個程度の連続したアミノ酸鎖が、亜鉛イオンを核として棒状に束ねられることで形成される。GATA1は亜鉛フィンガーを介して、DNA、他のタンパク質、またGATA1自身と結合する。

 ※図1は添付の関連資料を参照


【論文題目】
 GATA binding kinetics on conformation−specific binding sites elicit differential transcription regulation.
 掲載誌:Molecular and Cellular Biology
 著者:
  東北大学 大学院医学系研究科 分子血液学分野
   長谷川敦史、金子寛、石原大嗣、清水律子
  東北大学 大学院医学系研究科 医化学分野/東北メディカル・メガバンク機構
   山本雅之
  京都大学 iPS細胞研究所
   中村正裕、渡辺亮
  NIDDK,National Institutes of Health
   Cecelia D Trainor



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