イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

JST・JICA・京大、インドネシアでガス田から発生する温暖化ガス(CO2)の地中貯留(CCS)事業が決定

2016-03-31

ガス田から発生する温暖化ガス(CO2)の地中貯留(CCS)事業が決定
アジア開発銀行(ADB)の参画により社会実装が加速〜


■ポイント
 ○これまでインドネシアでは、ガス田から生産される天然ガスに随伴する大量の温暖化ガス(CO2)は、そのまま大気中に放散されていた。
 ○CO2を分離・回収し、地下に安全に貯留する技術開発にアジア開発銀行(ADB)が参画することになり、政府、民間企業一体となって事業を進めることが決まった。
 ○今後、設備の構築、CO2の圧入およびモニタリングを行い、将来の事業の推進に必要な技術指針をまとめる予定。


 科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が共同で実施している地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)(注1)に関して、社会実装に向けたアジア開発銀行(ADB)による本格的な出資についての覚書(MOC)が、ADB、インドネシアエネルギー鉱物資源省、JICA、プルタミナ(インドネシア国営石油会社)のあいだで締結されました。
 ADBとは既に2013年6月に本研究プロジェクトに参画・出資する覚書を締結し、ADBの出資によりガス田におけるCO2地中貯留(CCS)(注2)の実現可能性を調査し、良好な調査結果が得られていました。この結果を受け、パイロット事業に要する本格的な参画の準備を進めてきましたが、今回の覚書の締結により、東南アジアで初めてとなるCCSの社会実装化が大きく前進することになりました。インドネシアでは、これまでガス田から生産される天然ガスに伴って発生する温暖化ガス(CO2)はそのまま大気放散されていました。このCO2を分離・回収し、地下に貯留する技術の開発は、当該国の温暖化ガス削減への国際的な貢献と共に、今後未開発油ガス田のクリーンな開発が促進され、将来当該国さらには日本へのエネルギー資源の安定供給に資することが期待されています。
 京都大学 学際融合教育研究推進センター インフラシステム研究拠点を中心とする本研究グループは、インドネシアのバンドン工科大学(ITB)を中心とする研究機関と連携し、プルタミナの全面的な支援を受け、地質・地球物理学的手法を用いてCO2を貯留できる対象地層を評価・選定し、分離・回収・貯留のための地上設備の概念設計などを行ってきました。
 このたび、本プログラムの研究対象であるインドネシア中部ジャワ州のグンディガス田において、ガス生産に関係しているインドネシアエネルギー鉱物資源省、プルタミナ国営石油会社などに対し、ADBを中心にCCS施設・設備の調達に関する合意が得られ、同ガス田で分離・回収したCO2を、その付近に同社が所有する井戸を使用して地下に貯留するパイロット事業が開始されることになりました。このパイロット事業では、CO2の分離・回収、輸送、貯留のための地表設備を建設し、CO2の圧入、その後の各種モニタリングを計画しています。
 本プログラムでは、それらの結果をもとに、将来のCCS事業の推進に不可欠な技術指針SOP(Standard Operational Procedure)を作成し、関係機関に提言することを達成目標としています。本事業は、インドネシア国内における初めてのCCS事業であり、その成果には各方面からの期待が集まっています。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)
  研究領域:環境・エネルギー(低炭素社会)
  研究課題名:インドネシア中部ジャワ州グンディガス田における二酸化炭素の地中貯留及びモニタリングに関する先導的研究
  研究代表者:松岡 俊文(京都大学 学際融合教育研究推進センター インフラシステム研究拠点 特任教授)
  研究期間:平成23年8月1日〜平成29年3月31日


<研究の背景と目的>
 昨年12月にパリで開催されたCOP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)(注3)も温暖化ガス(CO2)の各国の削減目標が提示され、国際的な協力の下、その実現に向けた取り組みが開始されています。親日国であり、またエネルギー資源供給の点から、日本にとって重要なパートナーであるインドネシアでは、CO2排出に対する法制度が整備されておらず、既存の産業設備からは多くのCO2が大気中に放散されています。ガス田においては、ガスの生産時に随伴するCO2の隔離方法が確立されていないため、インドネシア国内に多くあるCO2の含有量の大きいガス田の開発が停滞しているのが現状です。
 一方、日本では、これまで経済産業省主導により、CCS研究および実証事業が実施されており、これらの研究や事業で得た多くの知識と経験を保有しています。
 このように、CCS技術を、日本と同様に地質学的に変動帯と呼ばれる地質環境を持つインドネシアに技術移転し、将来の本格的なCCS実施に向けた技術開発と技術者教育を行うことが、本プロジェクトの目的です。


<研究の内容・体制>
 研究開発の主要な内容は、地質・地球物理学的知見に基づく最適なCO2貯留層の選定方法、ならびに貯留されたCO2が地層でどのような挙動を示すのかのモニタリング手法の開発と適用です。同時に、関連するCO2分離・回収・圧入方法、法規制、リスク解析、社会的受容性などに関する研究開発も行っています。その結果をもとに、最終的にはCO2の地中貯留事業に関わる技術指針を作成し、その普及を図ることを目的としています。
 具体的には、CO2の貯留層評価(注4)のために、地質学的解析、室内での岩石試験(注5)、貯留層シミュレーション(注6)を合わせた貯留層評価技術の研究を行っています。また、CO2のモニタリング技術としては、反射法地震探査(注7)、電磁探査(注8)、重力探査(注9)、微小地震観測(注10)などの探査があり、これらに必要な装置や手法の開発、ならびに得られた探査データの解析・解釈技術の研究を行っています。これらの技術を使って、CO2の動態モニタリングを圧入前後で継続的に実施する予定です。モニタリングに必要な観測機器のインドネシアへの供与を行い、供与機器を使った技術移転や人材育成も行っています。
 CO2の分離・回収は、平成26年に天然ガス生産が始まった中部ジャワ州に位置するグンディガス田の中央生産設備(CPP)で行う予定です。グンディガス田は生産されるガス中にCO2を20%程度含有し、現在日量約800トンのCO2を大気中に放散しています。今回のプロジェクトでは、この大気中に放散されているCO2の一部に対して分離・回収技術の適用を試み、そのCO2をさらに液化後、約22km離れたプルタミナが所有する井戸(Jepon−1)に輸送し、2年間の予定で圧入する計画です。
 プロジェクトはガス田を所有するプルタミナの協力の下、研究パートナーであるバンドン工科大学(ITB)をはじめとするインドネシア国内の大学・研究機関と共同で実施しています。日本側の研究主体は、京都大学、早稲田大学、九州大学、秋田大学、(公財)深田地質研究所などの研究機関と石油資源開発(株)などCCS事業に関係する企業です。


<今後の展開>
 SATREPSのCCSに関する事業の最終年度にあたる平成28年度は、モニタリング技術の中心的手法となる反射法地震探査のベースライン調査を行います。また、重力探査、微小地震観測、CO2ガスの連続観測のための諸準備を行い、CO2圧入後のモニタリングに備える計画です。これまでの研究成果をもとに、インドネシアでのCCS事業のための技術指針(案)を作成するとともに、技術移転、人材教育を継続する予定です。ADBからの地上設備建設に関わる研究資金の提供を受け、平成29年度の圧入開始を目標に、設備の設計と構築に取り掛かる予定です。


<写真>

 ※添付の関連資料を参照


<用語解説>
 注1)地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)
  地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS、サトレップス)とは、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)、独立行政法人 国際協力機構(JICA)の連携により、地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3〜5年間の研究プログラム。日本国内など、相手国内以外で必要な研究費についてはJST/AMEDが委託研究費として支援し、相手国内で必要な経費については、JICAが技術協力プロジェクト実施の枠組みにおいて支援する。国際共同研究全体の研究開発マネジメントは、国内研究機関へのファンディングプロジェクト運営ノウハウを持つJST/AMEDと、開発途上国への技術協力を実施するJICAが協力して行う。
  JST SATREPSホームページ:http://www.jst.go.jp/global/about.html
  JICAホームページ:http://www.jica.go.jp/activities/schemes/science/index.html

 注2)地中貯留(CCS)
  Carbon dioxide Capture and Storageの頭文字をとった略語で「二酸化炭素の分離・回収・貯留」を意味します。火力発電所や石油ガスの生産設備などから発生する二酸化炭素(CO2)を化学的な方法などで他のガスから分離、回収し、別途用意した井戸を通じて深度1000m前後の地層に圧入・貯留する技術を言う。

 注3)COP21
  COP21の正式名称は「気候変動枠組み条約第21回締約国会議」。 COPとは、“Conference of the Parties”の略で条約に参加する国々の会議という意味。1992年、国連の地球サミットで「気候変動枠組み条約」が採択され、国際会議の場で地球温暖化対策の議論が進められている。

 注4)貯留層評価
  CO2を地表から圧入する地層の地質学的、力学的、水理学的特性を、地質的、物理的、化学的試験や分析法を用いて明らかにすること。これにより、CO2をどの程度(量や期間)貯留することができるかを評価できる。

 注5)岩石試験
  貯留層の評価を目的に、対象とする地層に掘削されたボーリング孔で採取された岩石サンプルを用いて、室内試験装置により、岩石の力学的(硬さなど)、水理学的特性(水の通しやすさなど)を測定すること。

 注6)貯留層シミュレーション
  コンピュータ上に数値的に貯留層のモデルを作成し、CO2を模擬した流体やガスを圧入し、それが貯留層中をどのように移動するかを計算するシミュレーション。貯留層モデルの作成には、想定する地層の地質学的情報や上記岩石試験などで得られた力学的、水理学的物性をパラメータとして用いる。この計算により圧入したCO2の100年後あるいは1000年後の状態を推定することができる。

 注7)反射法地震探査
  地表で大型の起振機などを用いて人工的に振動を発生させ、同じく地表に多数配置した地震計により地下からの反射波をとらえて、地下の構造や物性を推定する調査法。地下1000m程度に位置するCO2貯留層からの反射波を解析することにより、その分布状態を推定することができる。

 注8)電磁探査
  地表で人工的に電磁場を発生させ、地下の地層や埋設物などによって発生する二次電磁場を、地表に設置したセンサーで測定し、地下構造や埋設物の位置などを推定する調査法。CO2の存否によって発生する二次電磁場の大きさが異なるので、測定データを解析することによりCO2の分布状態を推定できる。

 注9)重力探査
  重力計を用いて地表で重力(引力)を測定し、重力異常分布(地球の平均的な重力からの偏差)を把握することで、地下の密度変化に対応する地層の形状や埋設物の位置などを推定することができる。重力計で最も一般的なものは重力計に設置されたバネの伸び縮みによって重力(引力)の変化を感知するもの。CO2は岩石より密度が小さいので、CO2が貯留されると周辺に比べて密度が小さくなるため、検知できる可能性がある。

 注10)微小地震観測
  CO2を圧入する地層周辺は周囲の地層に比べて圧力が高くなるため、その結果微小な振動が発生する可能性がある。それを地表付近に設置した微小地震計で感知できれば、圧入されたCO2の動態を把握することができる。



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版