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信州大と横浜市立大、人工タンパク質ナノブロックで多様な自己組織化ナノ構造の創出に成功

2015-09-17

人工タンパク質ナノブロックにより多様な自己組織化ナノ構造の創出に成功
ナノテクノロジー・合成生物学研究等に貢献するナノブロック「分子技術」を開発〜


 信州大学大学院総合工学系研究科博士課程3年(日本学術振興会特別研究員)小林直也氏、信州大学学術研究院繊維学系新井亮一助教、及び横浜市立大学大学院生命医科学研究科雲財悟助教らの共同研究グループは、新しいコンセプトで独自の人工タンパク質を用いた「タンパク質ナノブロック(PN−Block)」を開発し、樽型や正四面体型等の複数種類の超分子ナノ構造複合体を自己組織化によって創り出すことに世界で初めて成功しました。本成果は、今後、ナノテクノロジーや合成生物学研究等への貢献が大いに期待できます。


<本研究成果のポイント>
 ・独自の人工タンパク質を利用したタンパク質ナノブロック(PN−Block)を世界で初めて開発
 ・1種類のPN−Blockから樽型や正四面体型等の複数種類の自己組織化ナノ構造複合体を創出
 ・PN−Block戦略は日本発の独自の先進的「分子技術」としてナノテクノロジー等への応用が期待
 ・今後、さらなるPN−Blockを開発し、自在に組み合わせていくことにより、天然タンパク質では実現できないような構造や機能をもつ人工タンパク質の創製が期待

 本研究成果は、米国化学会誌Journal of the American Chemical Society(JACS)の9月9日発行号に掲載されるとともに、特に注目の論文としてJACS Spotlightsに選ばれ、さらに本研究のコンセプトを表現したアートデザインが表紙を飾りました。


<概要>
 タンパク質は、生体内において自己組織的にさまざまな複合体を形成し、複雑な生命現象を担っています。これらのタンパク質複合体を自在にデザインし、望みの機能を実現することができるようになれば、将来的に、医薬品開発や環境負荷の少ない化学反応(グリーンケミストリー)、さらにはナノバイオテクノロジー(※1)等へ応用が期待され、人類の豊かな生活のために大きく貢献できると考えられます。
 そこで、そのための出発点として、今回、独自のコンセプト戦略に基づく人工タンパク質を開発して、目に見えないナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)スケールの極めて微小な世界で、おもちゃのブロック遊びのように、多様な人工タンパク質複合体を創り出すことに挑戦しました。
 我々は、独自の二量体人工タンパク質と三量体ファージタンパク質を融合して、新たに「タンパク質ナノブロック(Protein NanobuildingBlock:PN−Block)(※2)」を開発し、樽型(ラグビーボール型)や正四面体型(テトラポッド型)等の超分子ナノ構造複合体(※3)を自己組織化(※4)により同時に創り出すことに世界で初めて成功しました(図1)。
 本研究成果によるPN−Block戦略は、今後、日本発の独自の先進的「分子技術」(※5)として、ナノテクノロジー(※1)や合成生物学(※6)研究等の革新的発展につながることが期待されます。
 本研究は、信州大学大学院総合工学系研究科博士課程3年(日本学術振興会特別研究員(DC2))小林直也氏と信州大学学術研究院繊維学系新井亮一助教(先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所兼務)を中心とし、信州大学学術研究院繊維学系佐藤高彰准教授(同群環境・エネルギー材料科学研究所兼務)及び信州大学大学院総合工学系研究科博士課程1年柳瀬慶一氏、横浜市立大学大学院生命医科学研究科雲財悟助教、米国プリンストン大学化学科Michael H.Hecht教授らとの共同研究の成果です。
 本研究成果は、米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyの9月9日発行の第137巻35号に掲載されるとともに、特に注目すべき論文としてJACS Spotlightsに取り上げられ、さらに本研究のPN−Block戦略のコンセプトを表現した小林直也氏のアートデザインが当該号の表紙を飾りました。


<発表論文情報>

 *参考画像は添付の関連資料を参照

 Naoya Kobayashi,Keiichi Yanase,Takaaki Sato,Satoru Unzai,Michael H.Hecht,and Ryoichi Arai“Self−Assembling Nano−Architectures Created from a Protein Nano−Building Block Using an Intermolecularly Folded Dimeric de NovoProtein”Journal of the American Chemical Society,Volume 137,Issue 35,pp11285−11293,2015.DOI:10.1021/jacs.5b03593
 掲載論文(Web)のURL:http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.5b03593
 JACS Spotlights,“Made−From−Scratch Protein Self−Assembles into Nano−Architectures”:http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jacs.5b08954
 掲載号表紙について:http://pubs.acs.org/action/showLargeCover?jcode=jacsat&vol=137&issue=35

 *図1は添付の関連資料を参照


<詳細解説>
 1. 背景・目的
  生命活動は、タンパク質や核酸、糖、脂質といったさまざまな自己組織化能力をもつ生体分子の複合体によって営まれています。なかでもタンパク質は、複雑で洗練されたナノスケールの複合体構造を形成することで高度な機能を発揮する非常に重要な生体高分子であり、我々が日々生きていくために必要不可欠な働きを担っています。これらのタンパク質複合体を自在にデザインし、望みの機能を実現することができるようになれば、医薬品開発や環境負荷の少ない化学反応(グリーンケミストリー)、さらにはナノテクノロジーの発展等に大きく貢献できると考えられます。
  これまでに、我々は、2012年に新規人工設計タンパク質WA20(※7)の立体構造を解明しました(Arai,R.,et al.,J.Phys. Chem.B,116,6789−6797,2012)[参考情報:WA20立体構造解明プレスリリース]。人工タンパク質WA20は、長いαヘリックス(※8)2本をループでつないだ“ヌンチャク型”構造の単量体が2つ、お互いに挟みこむように組み合わさることで、特徴的な分子間フォールディング(ドメインスワップ)型4本ヘリックスバンドル2量体構造(※9)を形成していました(図2左上)。この2量体構造は、特異的かつ安定的に形成されます。
  本研究では、このWA20の特徴的構造とタンパク質の自己組織化能力を超分子ナノ構造構築に応用するため、「タンパク質ナノブロック(Protein Nanobuilding Block:PN−Block)」を開発しました。
 例えば、おもちゃのブロックは、少数種類の規格化された単純な基本ブロックから、組み合わせ次第で多種多様な機能的構造物を創り出すことができ、無限の可能性を秘めています。そこで、同様なコンセプトで、本研究では、単純かつ基本的なタンパク質ナノブロック(PN−Block)を開発し、それを組み合わせることで多様なナノ構造体を創り出すことを目的としました。


2. 研究手法と成果
 我々は、タンパク質ナノブロック(PN−Block)を開発するために、二量体形成人工タンパク質WA20とT4ファージfibritin由来の三量体形成タンパク質ドメインfoldon(※10)を遺伝子工学的に融合することで、人工タンパク質WA20−foldonを設計構築しました。2量体を形成するWA20と3量体を形成するfoldonドメインの融合タンパク質では、結合する相手どうしが過不足なく組み合わさるためには、幾何学的対称性の制約により、2と3の公倍数である6の倍数量体(6量体,12量体,18量体,24量体,…)の形成が予測されます(図2)。

 *図2は添付の関連資料を参照

 まず、人工タンパク質WA20遺伝子とT4ファージfoldonドメイン遺伝子を遺伝子工学的に結合して、人工タンパク質WA20−foldonの遺伝子を構築しました。次に、この人工タンパク質遺伝子を大腸菌に導入して、WA20−foldonタンパク質を発現させたところ、可溶性画分に発現し、PN−Block戦略に基づいて、自己組織化により、複数の多量体構造を同時に形成することが明らかとなりました。形成された複数の多量体を小さいものから順にSmall(S)form、Middle(M)form、Large(L)form、Huge(H)formと名付け、それぞれをさらに分画精製し、サイズ排除クロマトグラフィー(※11)と多角度光散乱法(※12)、及び、超遠心分析(※13)等により分子量を測定しました。その結果、多量体構造のS form、M form、L formは、予測した通りにそれぞれ6量体、12量体、18量体であることが判明しました。
 さらに、小角X線散乱法(※14)による溶液構造解析とモデリングの結果、S form(6量体)とM form(12量体)は、幾何学的対称性により予測される超分子ナノ構造である樽型(ラグビーボール型)構造と四面体型(テトラポッド型)構造をそれぞれ形成していることがわかりました(図3)。

 *図3は添付の関連資料を参照


3. 今後の期待
 本研究で新たに開発及び実証した「タンパク質ナノブロック(PN−Block)」戦略は、日本発の独自の先進的かつ基盤的「分子技術」の一つとなり、今後、新規な構造や機能を有した自己組織化超分子ナノ構造複合体を創出する方法として、タンパク質工学をはじめ、ナノテクノロジーや合成生物学等の広範な研究分野や、バイオナノプロセス(※15)開発研究等の産業応用分野に革新的発展をもたらすことが期待されます。今後、例えば、より安定性を向上させたPN−Blockや環境変化によって自己組織化が起こるPN−Blockなど、さまざまな有用PN−Blockの設計開発を目指していきます。さらに、これらを自在に組み合わせていくことにより、天然タンパク質では実現できないような多様な構造や機能を持つ人工タンパク質ナノ構造複合体のデザインや創製につながると考えられます。将来的には、例えば、PN−Block自己組織化技術を活かして、次世代半導体のための有機無機ハイブリッドナノ材料開発や、次世代医薬品のためのドラッグデリバリーシステムや人工ワクチン開発等への応用も期待されます。


<謝辞>
 本研究におけるサイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱(SEC−MALS)実験は、分子科学研究所古賀信康准教授、古賀理恵博士の多大な御協力により行われました。また、信州大学林田信明教授には御指導や御助言を頂きました。心より感謝申し上げます。
 本研究は、日本学術振興会特別研究員(DC2)や、科学研究費補助金特別研究員奨励費(No.14J10185)、新学術領域「天然変性蛋白質」(領域代表者:横浜市立大学佐藤衛教授)公募研究(No.22113508,24113707)、若手研究(B)(No.24780097)、及び分子科学研究所協力研究等の支援・助成を受けて行われました。また、本研究に関連した小角X線散乱の予備実験は高エネルギー加速器研究機構放射光科学研究施設共同利用実験(No.2014G111,Photon Factory BL−10C)にて行われました。一部の実験は、信州大学ヒト環境科学研究支援センター機器分析部門、遺伝子実験部門、SVBL等の施設を用いて行われました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。さらに、信州大学新井亮一助教は、本研究成果を含む業績により、酵素工学研究会より平成26年度酵素工学奨励賞を受賞致しました。重ねて御礼申し上げます。

 *用語説明は添付の関連資料を参照



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