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東京薬科大など、腸炎発症を引き起こすマクロファージ集団を発見

2015-07-25

腸炎発症を引き起こすマクロファージ集団を発見
〜消化管の炎症に特化した新たな治療法開発に期待〜


[ポイント]
 ●腸炎発症にマクロファージ(大食細胞)の関与が想定されるが、その機能は不明だった。
 ●CD169を発現する特定のマクロファージ集団が腸炎を発症させることを発見した。
 ●腸炎の原因物質が明らかになり、消化管炎症に特異的な新たな治療法開発が期待される。

 JST戦略的創造研究推進事業において、東京薬科大学生命科学部の浅野謙一准教授らは、腸炎を引き起こす特定のマクロファージ亜集団(注1))を発見し、その働きを抑制することで腸炎の発症を制御できることを明らかにしました。
 これまで腸炎の発症には消化管に常在してCX3CR1(注2))を発現するマクロファージが関与することが想定されていましたが、その実態や作用は不明でした。
 浅野准教授らは、消化管粘膜のCX3CR1発現マクロファージの中でも、CD169(注3))を同時に発現する特定のマクロファージ亜集団に着目しました。このマクロファージ亜集団を消失させると、マウスの腸炎モデル(注4))における症状が改善されることから、この亜集団が腸炎を引き起こしていることが判明しました。さらに、この亜集団が可溶性たんぱく質サイトカイン(注5))の一種であるCCL8(注6))を産生することを見いだし、その作用を抑制することにより、マウスの腸炎モデルの症状が改善されたことから、CCL8が腸炎の原因物質の1つであることが明らかになりました。
 ヒトの腸炎に対し免疫機能全般を抑制する現行の療法は、通常ではほとんど発症することがない常在菌による感染症の合併などの副作用を伴います。本研究成果を活用することで、今後消化管の炎症に特異的な新たな治療法開発につながると期待されます。
 本研究は、東京薬科大学免疫制御学研究室の田中正人教授の協力を得て行いました。
 本研究成果は、2015年7月21日(英国時間)に英国科学誌「NatureCommunications」のオンライン速報版で公開されます。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
 戦略的創造研究推進事業
 研究領域:
  「炎症の慢性化機構の解明と制御」
  (研究総括:高津聖志富山県薬事研究所所長)
 研究課題名:「腸管センチネル細胞を標的とした炎症性腸疾患治療法の開発」
 研究者:浅野謙一(東京薬科大学生命科学部免疫制御学研究室准教授)
 研究実施場所:東京薬科大学 生命科学部
 研究期間:平成23年10月〜平成27年3月


<研究の背景と経緯>
 私たちの消化管は、食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています。消化管粘膜の免疫系は、有害な病原体の侵入を防ぐと同時に、生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています。
 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し、インターロイキン−10(免疫細胞の活性化状態を抑えるサイトカイン)を産生して腸内細菌に対する過剰な反応を抑制することが知られています。一方で、抑制作用とは異なり、消化管の粘膜上皮の傷害と細菌の侵入を感知して腸炎の発症に関与するマクロファージの亜集団が存在することが想定されていますが、その解析は行われていませんでした。
 そこで、浅野准教授らは、腸炎の新たな治療法の開発につなげるため、腸内細菌の侵入に応答するマクロファージの亜集団を同定し、マクロファージが腸炎を悪化させる仕組みの解明に取り組みました。


<研究の内容>
 浅野准教授らは、これまでにCD169を発現するマクロファージの亜集団(CD169陽性マクロファージ)がリンパ組織に局在し、血管やリンパ管から流入する死細胞などに対する免疫反応を制御することを明らかにしてきました。そこで「生体における最大の免疫臓器」と呼ばれる消化管でも、CD169陽性マクロファージが腸炎発症に何らかの役割を担うのではないかと考えました。本研究では、CD169発現細胞を一時的に消失できるCD169−DTRマウス(注7))と、新たに作製した抗CD169モノクローナル抗体(注8))を用いました。この抗体により、従来の抗CD169抗体では困難だったフローサイトメトリー(注9))を用いた細胞におけるCD169の発現解析も可能になりました。CD169陽性マクロファージの粘膜内における局在を調べたところ、CX3CR1を発現するマクロファージは腸管粘膜内に一様に分布していましたが、CX3CR1とCD169の両方を発現するマクロファージは、腸内細菌などの異物と近接する上皮の直下には存在せず、腸管粘膜内深部の粘膜筋板側に局在していることが分かりました(図1)。
 デキストラン硫酸(DSS)誘導マウス腸炎モデルは、腸炎の実験モデルとして広く利用されています。野生型マウスにDSSを投与すると粘膜上皮の傷害に続く激しい腸炎(DSS腸炎)を誘導できます。しかし、CD169陽性マクロファージが存在しないCD169−DTRマウスにDSSを投与した場合には腸炎の症状が著しく減弱することが分かりました(図2)。また粘膜に浸潤する細胞数を調べたところ、好酸球や好中球(注10))の数は野生型マウスと同程度でしたが、腸炎を悪化させる炎症性の単球(注11))が顕著に減少しました(図3)。以上の結果から、CD169陽性マクロファージが上皮の傷害を感知して何らかのサイトカインを産生し、消化管粘膜へ単球の動員を促進する可能性が示されました。
 そこで腸炎発症時に、CD169陽性マクロファージで選択的に強発現するサイトカイン遺伝子を網羅的に検索しました。そのような遺伝子の1つとして見いだしたCCL8は、単球を血流から動員する作用を持つことが知られていましたが、これまで炎症性疾患における働きはよく知られていませんでした。本研究により、CCL8はDSS投与による腸炎誘導後の5日目から徐々に消化管で発現が上昇し、主にCD169陽性マクロファージから生み出されていることが分かりました(図4)。また、実際にCCL8が生体内で単球の浸潤を誘導することも確認しました。そこで、CCL8の機能を生体内で阻害するため、抗CCL8モノクローナル抗体を作製し、DSS誘導マウス腸炎モデルに投与したところ、DSS腸炎の症状を抑制できることを確認しました(図5)。
 以上の研究から、CX3CR1とCD169の両方を発現するマクロファージの亜集団が、粘膜の深部まで到達した細菌の侵入を感知してCCL8を放出し、炎症性の単球を呼び寄せ、腸炎発症の原因となることが明らかとなりました。一方、腸管粘膜内に常在するCX3CR1のみを発現するマクロファージは、従来から知られている死んだ上皮細胞や常在の腸内細菌に対して過剰反応することを抑制するマクロファージの亜集団であると考えられます(図6)。


<今後の展開>
 本研究において、消化管に常在するCX3CR1発現マクロファージの中には、局在や機能の両面で極めて特徴的な、CD169を発現するマクロファージの亜集団が存在し、腸炎を引き起こす原因となることを発見しました。腸炎に対する現行の療法は、免疫機能全般を抑制するため、通常ではほとんど発症することがない常在菌による感染症の合併などの副作用を引き起こす可能性があります。CD169陽性マクロファージの機能や、それの発する危険信号であるCCL8の活性を抑えることが、より副作用の少ない消化管の炎症に特異的な新たな治療法開発につながると期待されます。


<参考図>

 ・図1〜6は添付の関連資料を参照


<用語解説>

 ・添付の関連資料を参照


<論文タイトル>
 “Intestinal CD169+macrophages initiate mucosal inflammation by secreting CCL8 that recruits inflammatory monocytes”
 (消化管のCD169陽性マクロファージはCCL8を放出して炎症性単球を動員し、腸炎を引き起こす)
 doi:10.1038/ncomms8802


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