イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

東北大など、太陽光を活用した高効率水蒸気発生材料を開発

2015-06-23

太陽光を活用した高効率水蒸気発生材料の開発
〜多孔質グラフェンを用いた太陽熱エネルギーの高効率利用へ〜


【ポイント】
 ・太陽光を利用し1m2当たり1.50kg/hの水蒸気を発生させた。
 ・窒素を導入した3次元ナノ多孔質グラフェンを吸収剤として使用することで、効率よく吸収し、水を局所的に加熱することに成功。
 ・太陽光エネルギーの熱利用の拡大を期待。


 東北大学(総長:里見 進)原子分子材料科学高等研究機構(機構長:小谷 元子)の伊藤 良一 助教、陳 明偉 教授らは、3次元構造を持つグラフェン(注1)を用いた高性能な水蒸気発生材料を開発しました。
 太陽光は無尽蔵に生み出されるクリーンなエネルギー源として古くから活用されており、種々の分野で活用されています。近年は、太陽光を直接電気エネルギーに変換する太陽電池の研究、実用化が進められています。しかしながら、この場合の太陽光エネルギーの利用効率(注2)は特殊な場合を除いて、20〜30%台であり、太陽光を有効に活用する技術が求められています。一方、太陽熱温水器ヒートポンプ等の太陽光を熱エネルギーとして活用する方法や太陽光を集光することで媒体を高温に加熱して発電に使用する太陽熱発電も試みられています。
 本研究は、3次元多孔質グラフェン太陽熱温水器の集光材料に使用することで、太陽光の熱エネルギーを効率よく吸収し、さらにその熱エネルギーが局所的に集中することで、反射鏡やレンズ等の集光装置を用いることなく、水から水蒸気を発生させることに成功しました。太陽光で加熱された水は比重差による対流現象や熱伝導によって熱が拡散し、温度が均一化に向かうために熱水は保持されません。しかし、本研究に用いた3次元構造を有する多孔質グラフェンでは、そのミクロサイズの孔内に捕らわれた水が集中的に加熱されて熱が拡散することなく容易に高温化できることから、水蒸気への変換効率を従来の56%(グラファイト粉を用いた材料)から80%に高めることに成功しました。
 この成果は、太陽光の熱エネルギーが従来の用途に加えて、蒸発・濃縮の用途にも簡単に活用できることを示した事例であり、例えば、海水から純水の精製、汚染水の濃縮・浄化等の種々の用途に適用できると期待されます。
 本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST「エネルギー高効率利用のための相界面科学」研究領域(研究総括:笠木 伸英)、および文部科学省の新学術領域研究「原子層科学」の一環として行われたもので、ドイツの科学雑誌「Advance Materials」に平成27年6月16日(現地時間)にオンライン掲載されました。


<研究の背景と経緯>
 太陽光はクリーンで尽きることのないエネルギーとして昔から注目を集めていますが、商業利用するには得られるエネルギーと製造/運用コストの収支が取れないことが課題となっています。
 太陽光利用の主役は間違いなく太陽光を電気エネルギーに変換する太陽電池ですが、太陽光を効率的に利用する方法は太陽電池だけではありません。電気エネルギー変換に比べて熱エネルギー変換の利用用途は狭いですが、太陽光エネルギーを余すことなく吸収し水の加熱に使用する太陽熱温水器は加熱に必要な電気エネルギーを節約でき、十分にエネルギー問題解決に貢献できます。
 本研究グループでは、可能な限り製造/運用コストを下げられるような材料設計を行いながら、定積モル比熱(注3)が一般的な金属より4分の1程度低い多孔質グラフェン材料の開発を行ってきました。太陽光を効率的に吸収でき、多孔質内部で水を局所加熱できる3次元ナノ多孔質グラフェンは、低製造/運用コストで水蒸気を大量に発生させられる太陽光エネルギー利用効率の良い水蒸気発生材料になると期待されています。また、炭素のみで構成されることから腐食することはなく環境負荷が少なく、廃棄物の問題もないクリーンな材料であるといえます。


<研究の内容>
 本研究は、ナノメートルサイズの多孔質内部に捕らわれた水を、太陽光を利用して局所加熱することによって水蒸気を生み出すことを目的としています。水の局所加熱の概念図(図1(a))に示したように、多孔質は熱水の拡散を防ぐほか、水を加熱するヒーター(太陽光吸収部)、毛管現象により水を吸い上げるポンプ、水蒸気を放出する排気口、及び、太陽光の乱反射促進による太陽光吸収役を担っています。実際のナノ多孔質グラフェンは多孔質構造を持っていることから黒い色をしており、光をよく吸収していることがわかります(図1(b))。走査型電子顕微鏡(SEM)でこのグラフェンを観察したところ、厚さが35マイクロメートルで表面に綺麗な多孔質構造が出来ていることを確認しました(図1(c−d))。また、このグラフェンに対してレンズで集光した太陽光を照射すると、2分以内に湯気(水蒸気)が発生することを確認しました(図1(e))。
 擬似太陽光(ソーラーシミュレーター)をこのグラフェンに照射して水蒸気を発生させる実験を行いました。図2は擬似太陽光下での水の蒸発量を示した図です。水のみの場合と比べて、グラフェンが水表面に存在している場合、水の蒸発量が著しく増えていることがわかります。グラフェンは疎水性ですが、窒素を化学ドープ(一部の炭素原子を窒素に原子に置換)することで親水性にすることができ、疎水性グラフェンに比べて親水性グラフェンのほうが水の蒸発スピードが速いことがわかりました。これは親水性の場合、毛管現象による水の吸い上げが早いためと考えられます。今回の実験では最大の水の蒸発スピードは単位面積当たり1.5kg/hとなることがわかりました。この太陽光エネルギー変換効率は80%に相当し、これまでに発表された水蒸気発生効率の中で世界最高レベルです。単にグラファイト粉を使用した場合に比べて厚みを200分の1にしたにも関わらず効率を24%上昇させました。厚みを減らせたことはヒーターの熱容量を減らすことを意味しており、他のどの炭素材料よりも短時間で高温になりやすいといえます。
 次に、疎水性と親水性グラフェンの水の蒸発能力の違いを理解するために、温度変化の測定を行いました。疎水性グラフェンは時間が経過してもなかなか温度が上昇しきらないのに対して、親水性グラフェンは5分以内に100度に到達していることがわかります(図2(b))。これは親水化(窒素を化学ドープ)する際にグラフェンの構造が一部破壊されてグラフェンが持つ良熱伝導特性が一部失われ、熱伝導が減少した結果、熱が分散しにくくなり熱の局所化効率が上昇したためであるということがわかりました。つまり、疎水性グラフェンは熱伝導が良すぎるために熱が全体に分散され熱を一箇所に集めることができず、熱の溜め込み能力が親水性グラフェンに比べてよくないという結論が得られました。


<今後の展開>
 3次元多孔質グラフェンを用いることで、低コストで太陽光エネルギーを水蒸気発生のための熱エネルギーに高効率変換する方法を提供できる可能性が示されました。環境負荷が高い金属を使用せず、また定積モル比熱が一番低い炭素を使うことで環境負荷を軽減するだけでなく、装置自体を加熱するための熱量も小さいことから熱の無駄を小さくできる可能性があります。
 本材料を用いた太陽熱エネルギー吸収機構は、水の生成、汚染水浄化等の種々の用途に活用できる可能性があります。今後は企業との連携も含め、太陽光利用拡大を目指してナノ多孔質グラフェンの大量生産の手法開発を模索したいと考えています。


 ※参考図・用語解説は添付の関連資料を参照


<論文タイトル>
 “Multi−functional nanoporous graphene for high−efficiency steam generation by heat localization”
 (多機能化されたナノ多孔質グラフェンを用いて局所加熱手法を利用した高効率水蒸気発生)



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版