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東北大学、アモノサーマル法による高純度窒化ガリウムバルク単結晶育成に成功

2011-03-04

東北大学、アモノサーマル法による高純度窒化ガリウムバルク単結晶育成に成功

(超臨界アンモニアを用いた結晶成長法により、パワーデバイス用窒化ガリウム基板の育成に道)


<概要>
 東北大学 多元物質科学研究所(所長:河村純一、以下「多元研」という)および原子分子材料科学高等研究機構(機構長:山本嘉則、以下「WPI」という)は、超臨界アンモニアを用いる「アモノサーマル法」による窒化ガリウム(GaN)【注1】結晶成長において、酸性鉱化剤の気相合成法を開発し、育成結晶中の残留酸素濃度が従来の100分の一以上低い窒化ガリウムバルク単結晶の高速育成に成功しました。更に、これを基板結晶として、歪のない窒化ガリウム結晶や、原子層オーダーで平坦かつ急峻な窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)【注2】と窒化ガリウムのヘテロ接合のエピタキシャル成長にも成功し、ヘテロ界面に形成される二次元電子ガスを観測しました。
 アモノサーマル結晶育成とヘテロ構造の有機金属化学気相エピタキシャル(MOVPE)成膜技術は、東北大多元研・窒化物ナノエレクトロ二クス材料研究センターの石黒徹研究室、横山千昭研究室、秩父重英研究室とWPIの福田承生研究室が共同体制で開発してきたもので、本成果の一部は、2月末に終了したNEDO省エネルギー革新技術開発事業プロジェクトの成果です。


1.高速成長
 アモノサーマル法は、人工水晶の製造に用いられている「水熱合成技術」で用いる超臨界水を超臨界アンモニアで置き換えた、量産に向いたソルボサーマル法【注3】ですが、窒化物結晶を対象とするため、特殊な鉱化剤【注4】を添加した、超臨界圧アンモニア環境に耐えるオートクレーブで結晶育成を行う事が特徴です。これまでの国内外の技術開発では、400MPaに達するような高圧条件で塩基性鉱化剤が用いられておりましたが、超高圧に耐えるための圧力容器の大型化には工業的限界があり、また、育成速度が遅かったため、低圧かつ高速育成技術の開発が重要な課題でした。東北大の研究グループは、酸性系のハロゲン元素を含む鉱化剤の最適化研究を進め、500℃を超える高温域で、六方晶単相結晶構造を有するGaNバルク単結晶の高速育成技術を見出しました。また、開発した技術は人工水晶製造とほぼ等しい圧力条件である200MPa以下の低圧であり、従来技術より約5倍速い高速成長も可能となりました。今後の産業化が要求するGaN基板結晶の大口径化に向け、有力な基盤技術確立への道を拓きました。


2.高純度化
 アモノサーマル法で育成したGaN中に多く含まれる主要な不純物に、酸素があります。酸素の混入源は、アンモニアガスや鉱化剤に含まれる水分、オートクレーブ内の水分、原料中に含まれる酸素不純物などが考えられます。オートクレーブ内の水分は、真空状態で加熱処理(ベーキング)をすることで除去することができますが、鉱化剤(NH4X)は吸湿性があって酸素の混入源である上に、昇華性を有するため、ベーキングによる水分の除去が出来ません。そこで東北大は、オートクレーブ中で乾燥したアンモニアガスとハロゲン化水素ガスを反応させて鉱化剤を合成する、気相鉱化剤合成(Gas phase synthesis(GPS))法を開発しました。GPS法の模式図を図1に示します。この手法では、原料や種結晶、バッフル板などをオートクレーブ内に挿入しベーキング処理をした後、オートクレーブ内にアンモニアガスおよびハロゲン化水素ガスを充填し、オートクレーブ内でハロゲン化アンモニウムを合成するものであり、吸湿性を有する固体鉱化剤使用時に1021atoms/ccあった酸素濃度が、この方法によって100分の一の1019atoms/cc台まで減少しました。

 ◇図1 GPS法の模式図
  ※添付の関連資料を参照


3.デバイス用基板としてのデモンストレーション
 LEDや半導体レーザ等の光や電界効果トランジスタ等の電子デバイスは、いずれも通常はガリウム極性面側に形成しています。今回の高速成長技術開発によってガリウム極性側のGaN成長速度が従前の約10倍以上になったことにより、アモノサーマル法がデバイス用基板作製技術として使用できるようになりました。加えて、高純度化技術によって、不純物密度が低く、本来の窒化ガリウムの格子定数を持つ結晶が育成できるようになったため、GaNデバイス構造の形成が可能となりました。アモノサーマルGaN基板の上に、GaN系デバイスの薄膜エピタキシャル成長に用いられてているMOVPE法を用いてGaNの成長を行ったところ、表面が一分子層の段差程度のレベルで平坦、かつ歪が無い高品質薄膜の成長を行うことができました。また、GaN系ヘテロ接合電界効果トランジスタ(HFET)【注5】やLED、レーザの活性層・障壁層を構成する、AlGaNとGaNのヘテロ接合を成長したところ、界面に蓄積される2次元的な電子ガス面[2次元電子ガス(2DEG)という]を起源とする発光を捉えることができました。この結果は、アモノサーマルGaN基板が高性能デバイス用基板としての素養に優れる事を示す結果であり、今後の基板の大型化に期待が寄せられます。


用語解説

【注1】窒化ガリウム(GaN)
 青色発光ダイオードの材料として用いられる半導体。青色レーザとしても実用化されている。GaNは他の半導体と比べ、熱伝導率が高いことや飽和電子速度が速いことなどから発光デバイスだけでなく、電子デバイスとしての応用も期待されており、これらデバイスを製造するための基板として欠陥や歪のない4インチを超える大型GaN結晶が望まれる。

【注2】窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)
 上記のGaNと窒化アルミニウム(AlN)の中間的性質をもつ、いわゆる混晶と呼ばれる中間化合物。ヘテロ接合電界効果トランジスやLED、レーザタイオードの構成要素として不可欠な薄膜材料となっている。

【注3】ソルボサーマル法
 結晶作製法の1つ。通常の温度・圧力では溶解しない溶質について、高温・高圧の超臨界流体中に溶解し、結晶を再結晶させる方法。使用する溶媒によってハイドロサーマル(水)法やアモノサーマル(アンモニア)法などと呼ばれる。

【注4】鉱化剤
 超臨界アンモニア中へのGaNの溶解を促進させるために加える添加材。アルカリアミド(MNH2 M=Li,Na,K)など塩基性鉱化剤と、ハロゲン化アンモニウム(NH4X X=Cl,Br,I)などの酸性鉱化剤がある。東北大では酸性鉱化剤を用いたアモノサーマル法の開発を行っている。

【注5】ヘテロ接合電界効果トランジスタ(HFET)
 異種物質を積層した界面に発生する、高移動度の2次元的な電子の流れをゲート電圧によって制御するトランジスタデバイス。現在、携帯電話基地局のRFアンプとして順次シリコン系デバイスを置き換えていっており、パワースイッチング素子として使用した場合も大きなCO2削減効果が得られる省エネデバイスである。

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