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慶大、シリコン上・高集積カーボンナノチューブ黒体放射発光素子を開発

2014-05-20

シリコン上・超高速のカーボンナノチューブ発光素子開発に初めて成功
−化合物半導体に代わる超高速・チップ上・高集積光源へ期待−


<ポイント>
 ・シリコンチップ上での高集積光源は、現在の化合物半導体では実現困難であり、新材料による発光素子開発が望まれている
 ・超高速(1〜10Gbps)なシリコン上・高集積カーボンナノチューブ黒体放射発光素子の開発に世界で初めて成功し、高速変調性の理論的な解明にも成功
 ・化合物半導体に代わる新たな材料系での発光素子となり、チップ上での光インターコネクト、光・電子集積回路、分析装置等への応用が期待


 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の牧英之准教授らは、直径約1nmの微細な一次元物質である単層カーボンナノチューブ(注1)を用いて、ギガビット/秒で超高速変調が可能なシリコン上・高集積発光素子開発に成功しました。
 今回、新たな材料系としてカーボンナノチューブを利用することで、シリコン上で小型の黒体放射発光素子(注2)の作製に成功するとともに、この発光素子が1〜10Gbps程度の高速の変調性を有していることを初めて明らかにしました。また、実験と合わせて、この発光素子の高速変調性に関する理論構築にも成功しました。この成果は、化合物半導体(注3)に代わる新たな材料系での発光素子開発とその高速・高集積の光技術への応用を示したものであり、光インターコネクトや光・電子集積回路の実用化を推進することが期待されます。
 本研究成果は、米国化学会発行の学術誌Nano Lettersオンライン版で公開されました。


<研究の背景と経緯>
 情報通信分野の急速な進展に伴い、現在の金属配線による電気的な信号処理・伝達のみでは、高速化と低消費電力化の両立において限界を迎えつつありますが、これを打破する新しい技術の一つとして、光技術の利用があります。代表的な光技術としては、光ファイバーを用いた光通信が長距離・低消費電力化の技術として既に実用化していますが、将来の光技術の役割は、長距離での通信にとどまらず、チップ内・チップ間などの光インターコネクトや光・電子集積回路技術に代表される高集積光技術にまで広がりを見せると考えられています。ここでは、発光素子を中心とする光源技術がその中核の一つとなりますが、現在、これらの発光素子のほとんど全ては、化合物半導体を母材として作製されています。しかし、従来の化合物半導体を用いた光源は、シリコン上へのダイレクトな集積化が難しいことに加えて、複雑なデバイス作製プロセスが必要なことや、大型の光変調器を用いた外部変調が必要といった問題を抱えており、現在のエレクトロニクスを支えるシリコンテクノロジーとの融合や高集積化が困難となっていることから、高集積光技術の実現を阻む一因となっています。これらは、化合物半導体の材料自身が抱える問題であり、化合物半導体でこれらを解決するには多くのブレイクスルーを要するため、高集積光技術といった次世代光技術の実現に向けては、全く新しい材料系での発光素子開発が望まれます。
 一方、カーボンナノチューブは、その一次元構造に由来して、特異な物理的・化学的・機械的特性を有した新しい材料であり、トランジスタ・センサーなど様々な電子デバイス応用が提案されています。カーボンナノチューブを用いたデバイスは、従来の半導体デバイスを大きく超える性能が得られるだけではなく、シリコン基板上へ直接集積することが可能であることや、炭素原子のみで構成された材料でありインジウムなどの希少元素やヒ素などの有害元素を含まず容易に合成可能なことなど、高性能化を進めつつ元素戦略・環境エネルギー問題を解決する新素材として注目されています。最近は、カーボンナノチューブの光物性も注目されており、光励起によるフォトルミネッセンスや電流注入による発光素子も報告されており、光デバイスへの応用も期待されています。


<研究の概要と成果>
 今回の研究では、カーボンナノチューブ薄膜を用いた発光素子によって、高速変調が可能な超小型発光素子をシリコンチップ上で作製することに初めて成功しました。本素子は、カーボンナノチューブ薄膜を化学気相成長法でシリコンチップ上に成長し、その薄膜に電極を形成するという簡単なプロセスで作製しています(図1,2)。作製した素子に電圧を印加することで、ジュール加熱による黒体放射で発光します。今回、ほとんどのカーボンナノチューブが基板に接触した薄い薄膜を用い、発生した熱を速やかに基板に逃がす素子構造を実現することで、従来の金属フィラメントによる電球と比べて100万倍以上高速となる1Gbpsでの高速変調や半値幅140psのパルス光発生の発生に初めて成功しました(図3,4)。また、発光機構の理論的な解明も進め、理論的には10Gbps以上の高速変調が可能であることを示しました。


<今後の展開>
 発光素子は、現在のエレクトロニクスを支える最も基本的な素子の一つであり、新たな発光素子が一旦実用化されると基礎研究から産業界まで、新しい技術や製品の創出につながり大きな波及効果があります。本研究で開発したシリコンチップ上での超高速・超小型カーボンナノチューブ発光素子は、シリコン上での高集積な光源と光インターコネクトや光・電子集積回路の実用化へ大きく貢献することが期待されます。また、本成果は、白色の超短パルス光を発生させることが可能であり、スーパーコンティニウム光などに代わるワンチップの白色パルス光源として微小分析装置等への応用も期待されます。
 本研究の一部は、科学研究費補助金若手研究(A)、A−STEP研究成果最適展開支援事業、戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)ICTイノベーション創出型研究開発の一環として実施されました。


<論文タイトル>
 "An Electrically Driven,Ultrahigh−Speed,on−Chip Light Emitter Based on Carbon Nanotubes"
 (カーボンナノチューブによる電気駆動・超高速・オンチップ発光素子)
 Tatsuya Mori,Yohei Yamauchi,Satoshi Honda,Hideyuki Maki,Nano Letters


 ※参考図と用語解説は添付の関連資料を参照


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