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東北大など、メタルフリーのプロトン型大容量キャパシタの開発に成功

2014-01-15

メタルフリーのプロトン型大容量キャパシタの開発に成功
Metal−free aqueous redox−capacitor for grid energy storage


<ポイント>
 >メタルフリーな有機分子(水素、炭素、酸素、塩素の4つの軽元素のみ)を利用したプロトンキャパシタ
 >大容量と高い出力を両立
 >発火の危険性が無い水溶液電解質で駆動
 >10000サイクルの充放電を実現
 >スマートグリッド用大規模蓄電システムとしての利用に期待

 独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)における研究課題「プロトン型大容量電気化学キャパシタの研究」(研究代表者東京大学先端科学技術研究センター・教授宮山勝)の一環として、東北大学の本間格教授、笘居(トマイ)高明助教らは、安価な有機分子と炭素材料から成る、水系大容量電気化学キャパシタを開発しました。
 従来、自動車のバッテリーや産業用バックアップ電源として、安全且つ安価な鉛蓄電池が使われてきました。しかし、鉛蓄電池は、瞬間的に取り出せるエネルギー(パワー密度)が小さく、高パワー密度と高エネルギー貯蔵密度を同時に達成できる、安全・安価な蓄電デバイス開発が望まれていました。
 そこで、本研究グループは、電気化学キャパシタ注1)に着目し、従来検討されてきた高価な金属酸化物ではなく、環境負荷が小さく安価な有機分子(アントラキノン、テトラクロロヒドロキノン)を活物質として使うことで、電気化学キャパシタの大容量化を達成しました。プロトンを介した充放電反応が出来る有機分子を炭素材料内部のナノ空間に閉じ込めることで、大容量と高いサイクル特性が実現出来ることが、この電気化学キャパシタの特徴です。このキャパシタは、水溶液電解質で動作するため、リチウムイオン電池に使われる有機電解質のような発火の危険性がありません。さらにパワー密度の指標となるレート特性の試験結果では、1/5時間で満放電できるエネルギーは、両電極重量換算で20Wh/kgに達しました。また、上記アントラキノンに替えてジクロロアントラキノンを使うことで、サイクル特性がさらに向上し、10000サイクルを超える安定な充放電を実現しました。
 この安全・安価なメタルフリーのプロトン型大容量キャパシタは、従来、キャパシタデバイスと鉛蓄電池とのハイブリッドシステムによって補われていた、大容量と高出力の両立が必要となる産業用バックアップ電源システムを単一のデバイスで置き換えることが出来、将来的にはスマートグリッド注2)用途をはじめ大規模蓄電システムとしての産業的展開が期待されます。本研究成果は、2014年1月7日(英国時間)英国ネイチャー出版グループ発行のオンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載されます。
 本研究(の一部)は、独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)における研究課題「プロトン型大容量電気化学キャパシタの研究」(研究代表者東京大学先端科学技術研究センター・教授宮山勝)により実施されました。

<研究の背景と経緯>
 近年、再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電)を組み込んだ、スマートグリッドの整備が国際的に進められています。再生可能エネルギーは電力供給変動が大きく、消費とのバランスを取るためには、大規模蓄電システムの併用が欠かせません。この蓄電システムを構成するエネルギーデバイスには、主に以下の要件が求められます。
 ●貯蔵できるエネルギー(容量)が大きいこと
 ●瞬間的に蓄積/放出できるエネルギー(出力)が大きいこと
 ●低コストであること
 ●発火の危険が無く、安全であること

 従来、産業用バックアップ電源として、安全且つ安価な鉛蓄電池などが使われてきましたが、スマートグリッド用大規模蓄電システムに利用する場合、出力が小さいことが欠点でした。このような背景から、高パワー密度と大容量を達成できる、安全・安価な蓄電デバイス開発が望まれていました。

<研究の内容>
 今回、東北大学の研究グループは、パワー密度が高く安全な蓄電デバイスとして、有機分子を利用した大容量電気化学キャパシタを開発しました。キノン系有機分子と、キノンにプロトンが付加したヒドロキノン系有機分子を対で電極材料に用い(図1)、プロトンが両電極間を行き来することで充放電を行います。
 通常、電気化学キャパシタは、容量が鉛蓄電池と比較して小さいことが、従来の欠点でした。電気化学反応を併用して、容量を大きくする試みもなされてきましたが、多くの場合、金属酸化物が必要で、コストや環境負荷の面で、大規模蓄電システムに適合するものではありませんでした。
 今回使用した有機分子は、アントラキノンとテトラクロロヒドロキノンと呼ばれる物質で、水素、炭素、酸素、塩素の4つの軽元素のみで構成されているため、本質的に環境負荷が小さく、安価に作製することが可能です。また、水溶液電解質で動作するため、リチウムイオン電池に使われている有機電解質で問題となる、発火の危険性はありません。
 これらの有機分子には導電性が無く、さらに電解液に溶け出してしまうため、これまで、電極材料には不向きであるとされてきましたが、導電性を持つ炭素材料内部のナノ空間にこれらの有機分子を閉じ込めることで(図2)、初めて安定な充放電反応が可能となりました。この電気化学キャパシタは、鉛蓄電池に匹敵するエネルギー密度,10〜20Wh/kgを軽元素のみで実現でき、さらに、急速充放電試験では、鉛蓄電池では不可能な1000W/kg(数十秒での充放電)の出力が可能なことが示されました(表1、及び、図3)。また、上記アントラキノンに替えてジクロロアントラキノンを使うことで、サイクル特性がさらに向上し、10000サイクルを超える安定な充放電を実現しました。

<今後の展開>
 この安全・安価なメタルフリーのプロトン型大容量キャパシタは、従来、キャパシタデバイスと鉛蓄電池とのハイブリッドシステムによって補われていた、高出力と大容量の両立が必要となる産業用バックアップ電源システムを単一のデバイスで置き換えることが出来、将来的にはスマートグリッド用途をはじめとする大規模蓄電システムとしての産業的展開が期待されます。


 ※参考図などは、添付の関連資料を参照

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