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京大など、細胞移植に適した新しいヒトiPS細胞の樹立・維持培養法を確立

2014-01-15

細胞移植に適した新しいヒトiPS細胞の樹立・維持培養法を確立


 中川誠人 iPS細胞研究所(CiRA)講師、山中伸弥 同教授らの研究グループは、大阪大学、味の素株式会社(以下「味の素社」)との共同研究において、細胞移植治療に適した人工多能性幹細胞(iPS細胞)の新しい樹立・維持培養法を確立しました。

 ヒトのiPS/ES細胞を再生医療として多くの患者さんに利用していただけるようになるためには、ヒト以外の動物由来の物質を含まず、安定して生産するために極力工程数が少ない方法でiPS細胞を樹立・維持培養することが望まれます。しかし、これまでの方法では、iPS/ES細胞を培養するために、培地中には血清などの動物由来の成分が多数含まれており、またフィーダー細胞を使うことで作業工程が多くなっていました。

 中川講師らの研究グループは、フィーダー細胞の代わりに、関口清俊 大阪大学蛋白質研究所教授らが開発したリコンビナントラミニン−511 E8断片を使い、味の素社と開発した動物由来の成分が含まれていない(Xf:xeno−free)培地でヒトiPS/ES細胞を維持培養できることを見出しました。この方法を用いると、ヒトのiPS/ES細胞は容易に扱うことができ、染色体に異常なく長期間にわたって安定して継代培養することができます。

 ヒトの皮膚や血液の細胞からフィーダー細胞を使わず(Ff:Feeder−free)、動物由来の成分を含まない培地で作製したiPS細胞は、免疫不全マウスに移植すると、テラトーマの形成が観察され、三胚葉に分化する能力を確認できました。また、ここで作製したiPS細胞はドーパミン産生細胞やインスリン産生細胞、血液細胞へと分化させることができました。

 これらの結果は、今回開発した新しいfeeder−freeかつxeno−freeの培養システムで、ヒトiPS細胞を樹立・維持培養することが可能であることを示しています。この方法は、ヒトへの細胞移植に最も適したグレードのiPS細胞をつくるためだけではなく、創薬や毒性試験・疾患モデルなどの領域でも有効利用されることが期待されます。

 この研究成果は1月8日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

<ポイント>
 ・ラミニンと新たに開発した培地を用いて、フィーダー細胞を使わず、動物由来成分を含まない条件で、ヒトiPS細胞の樹立と効率的な培養方法を開発した。得られたiPS細胞は各種細胞へと分化する能力を持っていた。
 ・この方法で、ヒトES細胞を維持培養することも可能であった。

<研究の背景>
 既に米国ジェロン社はES細胞から作製した神経細胞を用いて脊髄損傷の臨床試験を始めました(経営上の理由から中止)。また米国アドバンスド・セル・テクノロジー社はES細胞から作製した細胞を用いて眼疾患の臨床試験を行い、成果をあげています。2013年7月には高橋政代(※) 理化学研究所発生・再生総合科学研究センター博士らのグループによる、加齢黄斑変性に対する世界初のiPS細胞を使った臨床研究が正式に厚生労働省に認められ、いよいよiPS/ES細胞を使った治療が本格的にヒトで行われる日が近づいてきています。

 ※博士名の正式表記は、添付の関連資料を参照

 通常、ヒトiPS/ES細胞を研究で使用する際には、マウスのフィーダー細胞や、ウシの血清を含んだ培地が広く使われています。フィーダー細胞の準備には多くの時間と労力が必要で、フィーダー細胞を育てる培地にはウシ胎児血清が含まれているのが通常です。しかしこうした煩雑な操作や動物由来の成分は、最終的に得られる細胞の品質を不安定にする要因となるため、移植に使う細胞に要求されるGMP基準を満たすためには、血清などの動物由来の成分をできるだけ取り除く必要があります。

 これまでに、フィーダー細胞の代わりとなるタンパク質や動物由来成分を含まない培地は開発されていましたが、ヒトiPS細胞やヒトES細胞を安定的に効率よく培養できる組み合わせは得られていませんでした。

<研究結果>
・ヒトiPS細胞用の新しい培養システムの開発
 中川講師らのグループはフィーダー細胞の代わりとして、ラミニン−511に着目しました。ラミニン−511の短い断片であるラミニン−511 E8断片(LN511E8)がヒトiPS細胞やES細胞の維持に有効であり、またタグをつけたリコンビナント(rLN511E8)を使うことで大量にかつ高純度のものが得られるため、rLN511E8をフィーダー細胞の代わりとして採用しました。

 次にrLN511E8を使った環境でヒトiPS細胞やヒトES細胞の培養に最適なxeno−free培地を選出しました。テスト培地の作成と培養による検証を繰り返し、効率よくiPS細胞を維持増殖させることができる成分の組み合わせを見出しました(味の素社との共同開発)。

・新しいシステムでのiPS細胞樹立
 iPS細胞から誘導した細胞を移植するためには、iPS細胞の樹立過程もfeeder−freeかつxeno−freeである必要があります。今回開発したrLN511E8と培地を使うことで、線維芽細胞や血液細胞(T細胞・T細胞以外の細胞・臍帯血細胞)からiPS細胞を樹立することができました。(図1)

 ※図1は、添付の関連資料を参照

・分化能力の確認
 また、feeder−freeかつxeno−freeの環境で樹立・培養したiPS細胞の分化能力について検討しました。iPS細胞の分化能力を調べる方法として、iPS細胞を免疫不全マウスに移植しテラトーマの形成を観察する方法がよく使われています。今回開発したfeeder−freeかつxeno−freeの環境で作製したiPS細胞はテラトーマを形成し、3胚葉すべてに分化する能力を示しました(図2)。また、臨床応用に向けて必要となる代表的な細胞種として、神経細胞・血液細胞・インスリン産生細胞へとiPS細胞を分化誘導したところ、いずれの細胞にも分化する能力があることも示しました(図3)。

 ※図2・3は、添付の関連資料「図2」「図3」を参照

<まとめ>
 今回新しく開発したfeeder−freeかつxeno−freeの樹立・培養方法を用いることで、フィーダーを使った方法と比べても遜色のない、高効率でのiPS細胞の維持培養が可能となりました。この方法は操作が容易であり、発展性・再現性に優れており、GMPに準拠した医療に使用するヒトiPS細胞を作製する方法として有効です。さらに、薬剤スクリーニングや基礎研究へも幅広く応用出来ると考えられます。


 ※以下、リリースの詳細は添付の関連資料を参照

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