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理化学研究所、植物ホルモン「サイトカイニン」の「質」の重要性を解明

2013-12-02

植物ホルモン「サイトカイニン」の「質」の重要性を解明
−サイトカイニン分子のかたちが変わると作用が一変−


<ポイント>
 ・サイトカイニンの側鎖修飾を担う酵素の遺伝子「CYP735A」を同定
 ・側鎖修飾されたサイトカイニンは、茎や葉など地上部の成長だけを促進
 ・CYP735A遺伝子は増産を目指す農産物改良の有力なターゲットに

<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、植物ホルモン「サイトカイニン」の作用が、「量」の変化ではなく、サイトカイニン分子の側鎖[1]の修飾による「質」的な変化によって制御されることを明らかにしました。これは、理研環境資源科学研究センター(篠崎一雄センター長)生産機能研究グループの木羽隆敏研究員と榊原均グループディレクターらの研究グループによる成果です。

 多種多様な細胞からなる植物が、個体として秩序だった形で生命活動を維持するには、細胞間や器官間の緊密な情報のやり取りを行う植物ホルモンの働きが重要になります。サイトカイニンは、植物の成長や実りの促進、老化抑制などの制御を担う植物ホルモンです。サイトカイニンの基本骨格はアデニン[2]に側鎖がついた構造ですが、側鎖構造には多様性があります。実験モデル植物のシロイヌナズナでは、イソペンテニルアデニン(iP)型と、iP型が側鎖の修飾を受けることで合成されるトランスゼアチン(tZ)型のサイトカイニンが存在します。従来、サイトカイニンの作用は、この2種類の区別がなくサイトカイニンとしての「量」の変化により制御されていると考えられてきましたので、2種類存在することの生物学的意義は不明のままでした。

 研究グループは、tZ型サイトカイニンを合成するための側鎖修飾を担う酵素遺伝子を探索した結果、CYP735A遺伝子[3]を同定しました。そして、CYP735Aの変異体を作製・解析したところ、iP型サイトカイニンとtZ型サイトカイニンの作用が異なることを発見しました。tZ型サイトカイニンは、葉や花茎など地上部の成長を促す作用を持つのに対し、iP型サイトカイニンにはそのような作用はありませんでした。これらの結果から、サイトカイニン分子の側鎖の修飾による「質」の変化が、サイトカイニンの作用を制御していると分かりました。

 サイトカイニンの新たな作用メカニズムが明らかになったことにより、今後、農産物やバイオマスの増産のための技術開発に繋がると考えられます。本研究は、文部科学省の科学研究費補助金(新学術研究)平成21年度採択課題「植物生態学・分子生理学コンソーシアムによる陸上植物の高CO2応答の包括的解明」、植物科学最先端研究拠点ネットワーク、大学発グリーンイノベーション創出事業「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス(GRENE)」植物科学分野「植物CO2資源化研究拠点ネットワーク(NC−CARP)」などの支援により行われました。本研究成果は、米国の科学雑誌『Developmental Cell』(11月25日号)に掲載されます。

<背景>
 私たちが日々食べている野菜や穀物などの植物は、多種多様な細胞からできている高次の多細胞生物です。多細胞生物が個体としての秩序にそって生命活動を維持するためには、細胞間や器官間の緊密な情報のやり取りが必要になります。このとき重要になるのが伝令役としてのホルモンの働きです。動物では何十種類ものホルモンが存在しますが、植物では現在のところオーキシン、サイトカイニンなど10種類程度しか知られていません。このため、植物が少ない数のホルモンで、どのようにして個体の秩序を保っているのかを明らかにすることが、現在の課題となっています。研究グループは、成長や実りの促進、老化抑制などの制御を担う植物ホルモンであるサイトカイニンに着目し、この課題解決に挑みました。

<研究手法と成果>
 サイトカイニンの基本骨格はアデニンに側鎖がついた構造ですが、側鎖構造には多様性があります。実験モデル植物のシロイヌナズナでは、イソペンテニルアデニン(iP)型と、iP型の側鎖が修飾されることで合成されるトランスゼアチン(tZ)型のサイトカイニンが主要な分子です(図1)。ただ、サイトカイニンの作用は、2種類の区別なくサイトカイニンとしての「量」の変化により制御されていると考えられてきましたので、2種類の分子種が存在することの生物学的意義は不明でした。

 そこで研究グループは、tZ型サイトカイニンを合成するための側鎖を修飾する酵素の遺伝子を探索した結果、「CYP735A」を同定しました。そして、CYP735A遺伝子を欠損させた変異体を作製・解析したところ、この変異体では、サイトカイニンの総量は変わらないのですが、tZ型サイトカイニンが欠損するとともに、葉や花茎の成長が著しく悪化していました(図2)。逆に、CYP735Aを高発現させtZ型サイトカイニンの割合を増やした形質転換体では、地上部の成長促進が見られました(図3)。これにより、tZ型サイトカイニンには地上部の成長を促進する作用があることが分かりました。興味深いことに、tZ型サイトカイニンを欠損しても、増やしても、サイトカイニンの総量が変わらなければ、根の成長は正常なままでした。

 次に、2種類のサイトカイニンの作用の違いを調べるため、iP型サイトカイニンとtZ型サイトカイニンをそれぞれ溶かし込んだ溶液をスプレーで変異体に投与しました。その結果、tZ型サイトカイニンは地上部の成長を回復させたのに対し、iP型サイトカイニンは全く効果がありませんでした。このことからも、iP型とtZ型サイトカイニンの作用が異なることが確認できました。

以上のことから、サイトカイニンの作用が、サイトカイニン分子の側鎖の修飾による「質」的な変化により制御されることが示されました。こうしたホルモン分子の側鎖修飾による作用の多様化は、少ない種類のホルモンで植物が高次の多細胞化を実現したことに寄与している可能性が考えられます。

<今後の期待>
 サイトカイニンは、植物の地上部の成長や実りを促進する作用をもつホルモンですが、その総量が増えると根の成長を阻害してしまうことが問題でした。今回、CYP735A遺伝子の発現量を調節して、サイトカイニンの総量を変化させずに相対的にtZ型サイトカイニン量を増やすことで、根の成長に影響を及ぼさずに、地上部の成長促進することができることが分かりました。CYP735A遺伝子は、増産を目指した農産物改良の有力なターゲットになると期待できます。

<原論文情報>
 ・Takatoshi Kiba,Kentaro Takei,Mikiko Kojima,and Hitoshi Sakakibara(2013)”Side−chain Modification of Cytokinins Control Shoot Growth in Arabidopsis”Developmental Cell,doi.org/10.1016/j.devcel.2013.10.004

<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 環境資源科学研究センター 生産機能研究グループ
 研究員 木羽 隆敏(きば たかとし)
 グループディレクター 榊原 均(さかきばら ひとし)

<補足説明>
 1.側鎖
 化合物の主要な炭素鎖から枝分かれしている炭素鎖。サイトカイニンの場合、アデニンが主要な炭素鎖(図1)。

 2.アデニン
 核酸を構成する主要な塩基の1つ。

 3.CYP735A遺伝子
 さまざまな基質を水酸化する酵素ファミリーであるシトクロムP450に属する酵素をコードする遺伝子。


 ※図1〜3は、添付の関連資料を参照

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