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分子科学研究所など、固体中の原子の2次元運動を10兆分の1秒単位で制御し画像化に成功

2013-11-22

固体中の原子の超高速運動を10兆分の1秒単位で
制御し画像化する新しい光技術


<ポイント>
 >超高速光デバイスの開発のために、固体中の原子運動を1兆分の1秒以下のスケールで制御し画像化する光技術の出現が望まれていました。
 >固体中の原子の2次元運動を10兆分の1秒単位で制御し画像化に成功しました。
 >将来の革新的な光デバイスの開発につながる汎用的な基盤技術として、また固体の物理的な機能性を探求するための新たな実験手法として期待されます。

 JST課題達成型基礎研究の一環として、自然科学研究機構 分子科学研究所の大森 賢治 教授らは、固体の中の原子が高速で2次元運動する様子を、10兆分の1秒単位で制御し画像化する新しい光技術を開発しました。
 従来の電子デバイスよりも数千倍速いスイッチングや1億倍速い論理演算を可能にする光デバイスの開発を目指して、固体の電気伝導性や磁性などを光で制御する試みが世界中で進んでいます。これらの物理的な性質は原子の動きに敏感なため、固体中の原子運動を光で制御する研究が盛んに行われるようになりました。このような研究では、原子運動を自由な方向に制御しそれを評価するための画像化が重要ですが、これまでは主に直線運動(1次元)の制御しか行われてきませんでした。また、固体の中の原子運動を画像化するためには、X線や電子ビームを照射する大掛かりな実験装置が必要である上に、1兆分の1秒以下の高速現象を見ることは極めて困難でした。
 今回大森教授らは、「あらゆる物体の2次元運動は互いに垂直な2つの1次元運動に分解できる」というシンプルで普遍的な原理に着目し、この原理を固体中の原子運動に適用しました。互いに垂直な2つの方向の原子運動を10兆分の1秒だけ光る特殊な赤外レーザーパルスでそれぞれ独立に制御することによって2次元運動を制御し、固体表面からの光反射を測定する簡便な方法を用いて、この2次元運動を10兆分の1秒単位で画像化することに成功しました。
 この成果は、将来の超高速光デバイスの開発につながる基盤技術として期待されるほか、超伝導性や磁性など固体の物理的な性質の起源を探求するための基礎技術としても役立つと期待されます。
 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として行われ、2013年11月18日(英国時間)に英国の科学雑誌「Nature Communications」のオンライン速報版で公開されます。

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
  研究領域 :「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」
         (研究総括:伊藤 正 大阪大学 ナノサイエンスデザイン教育研究センター 特任教授)
 研究課題名:「アト秒精度の凝縮系コヒーレント制御」
 研究代表者:大森 賢治(自然科学研究機構 分子科学研究所 研究主幹/教授)
 研究期間  :平成22年10月〜平成28年3月

<研究の背景と経緯>
 20世紀がトランジスタなど電子デバイスの恩恵を受けた「電子の時代」であったのに対して、21世紀は「光の時代」といわれています。1990年代以降のレーザー技術の急激な発展は、医療・エネルギー・情報通信・機械加工などさまざまな分野において革新的な光テクノロジーの開発を可能にしました。特に情報処理分野では、従来の電子デバイスよりも一桁以上高密度な光メモリーや数千倍以上速い光スイッチの開発競争が激化しています。また、物質の量子力学的な波(波動関数)を光で制御すれば、現代のスーパーコンピューターの1億倍速い論理演算が可能になるのではないかと期待されています。これらの革新的な光デバイスの実現を目指して、固体の電気伝導性や磁性などを光で制御する試みが世界中で進んでいます。最近、これらの物理的な性質は、固体を構成する原子の数兆分の1秒単位の振動運動と密接に関連していることがわかってきました。例えば、銅酸化物(注1)の中の原子を振動させると1兆分の1秒の間に超伝導体に変化することがオクスフォード大学の研究者らによって発見されました(サイエンス誌2011年1月14日号)。また、マンガン酸化物(注2)の中の原子を振動させると、絶縁体から電気伝導体に変化することもわかっています(ネイチャー誌2007年9月6日号)。こういった背景から、固体の中の原子の超高速運動を光で制御しそれを評価するために画像化する研究が盛んに行われるようになりました。このような研究では、原子運動を任意の方向で制御することが望ましいのですが、これまでは主に、ある特定の方向の直線運動のみを1次元で制御することしかできませんでした。また、固体中の原子運動を画像化するためには、X線や電子ビームを固体に照射し、それらの散乱角度を測定する大がかりな実験装置が必要である上、これらの方法では1兆分の1秒以下の現象を追跡することは極めて困難でした。そこで、固体中の原子運動をさまざまな方向で制御し、より簡便に、より高速に画像化する新しい方法の開発が望まれていました。

<研究の内容>
 固体中の原子の振動運動の周期(通常、数兆分の1秒)よりも短い時間幅のレーザーパルスを固体に照射すると、固体を構成する原子が集団的に振動する状態を作り出すことができます。この集団的な振動運動はコヒーレントフォノンと呼ばれています。
 本研究では、ビスマス原子の結晶を実験対象として用いました。ビスマス結晶には、図1に示すように隣り合った原子が縦方向に振動するA1gと横方向に振動するEgという互いに垂直な2種類のコヒーレントフォノンがあり、A1gは3兆分の1秒、Egは2兆分の1秒というそれぞれ異なった周期で振動します。まず、これらと同程度の周期で強度が振動するような波長800nm(ナノは10億分の1)の特殊な赤外レーザーパルス(ポンプパルス)を合成し、これをビスマス結晶に照射しました。このレーザーパルスは、5兆分の1秒の時間幅内で徐々に波長が変化するような2つのレーザーパルス(サブパルス)を独自の装置で重ね合わせて作ったものです。
 これら2つのサブパルスのタイミングを1000兆分の1秒以下の極限精度で調節することによってポンプパルスの強度振動を微妙に調節することができ、これによって互いに垂直なA1gとEgの原子振動の振幅を各々独立に操作できることがわかりました。
 次に、別のレーザーパルス(プローブパルス)をビスマス結晶の表面に照射し、反射光の強度が10兆分の1秒単位で時間変化する様子を観測しました。この結果を、密度汎関数法(注3)と呼ばれる量子力学の理論で縦方向と横方向の原子の空間位置に変換し、2次元平面にプロットしたのが図2です。
 このように大森教授らは、ポンプパルスを構成する2つのサブパルスのタイミングを極限精度で調節することによって固体内の原子の2次元運動を制御し、光反射を測定する簡便な方法を用いて10兆分の1秒単位で画像化することに、世界で初めて成功しました。

<今後の展開>
 今回、大森教授らが開発した制御・画像化手法は、「あらゆる物体の2次元運動は互いに垂直な2つの1次元運動に分解できる」というシンプル、かつ普遍的な原理に基づいているため、あらゆる固体に適用することが可能です。従って、将来の光固体デバイスを開発するための汎用的な基盤技術として期待されます。また、固体の超伝導性や磁性などの物理的な機能性が、どのように原子運動と関連しているのかを探求するための実験手法としても役立つことが期待されます。

<用語解説>
 (注1)銅酸化物
 銅(Cu)の酸化物のこと。高温超伝導物質して期待されている。

 (注2)マンガン酸化物
 マンガン(Mn)の酸化物のこと。外から磁場をかけて電気抵抗を大きく変化させることができるので、スイッチングデバイスや磁気メモリーとして期待されている。

 (注3)密度汎関数法
 物理や化学の分野で、原子、分子、およびそれらが集まってできた固体など多数の電子を有する物質の物理的な性質を空間的に変化する電子密度の汎関数(関数の関数)を使って計算する手法。

<参考図>

 ※添付の関連資料を参照

<論文名>
 “All Optical Control and Visualization of Ultrafast 2D Atomic Motions in a Single Crystal of Bismuth”
 (ビスマス単結晶中の超高速2次元原子運動の全光学的制御と可視化)

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