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北陸先端大、魚類の保護色細胞からヒントを得た生体ディスプレーを開発

2013-10-02

魚類の保護色細胞からヒントを得た生体ディスプレイを開発
ナノテクノロジーの分子システム構築技術の強力なツールへ期待−



〔ポイント〕
 >タンパク質で駆動する光学デバイス(ディスプレイ)が作成可能な事を世界ではじめて実証
 >鋳型の基板に構成成分(タンパク質分子)を順次加えるだけで分子デバイスを構築
 >タンパク質の応用利用の新展開
 >ナノテクノロジーの分子システム構築の新しいツールとして期待


 北陸先端科学技術大学院大学(学長 片山 卓也、石川県能美市)マテリアルサイエンス研究科の平塚 祐一(ひらつか ゆういち)准教授と青山 晋(あおやま すすむ)日本学術振興会特別研究員らは、魚類の保護色機能の分子システムから着想を得た人工細胞を構築、生体分子によって駆動する光学素子(ディスプレイ)の開発に成功しました。
 細胞は、様々な分子が有機的に働くことで非常に高度な機能を発現しています。このようにタンパク質などナノ材料は単体で利用するより、複合的に利用する方がより高度な機能・性質を示す可能性が高く、従来の応用技術とは比較できない高度な機能を付加し、人類の生活に多大な恩恵をもたらす可能性があります。しかし複雑な分子システムを人工的に構築することは非常に困難であり、応用研究が進んでいません。
 平塚らは、タンパク質からなる部品を機能的なデバイスに組み立てる手法を探索するために、魚類の保護色細胞(メラノフォア)から着想を得た分子デバイスの創製を試みました。人工的に作成した特殊なマイクロ構造の上に、タンパク質溶液を順次加えるだけで、タンパク質の自己集積能により自発的に分子システムを組み上がらせ、メラノフォアと同様の光学素子の作成に成功しました。
 このマイクロ構造を利用した分子デバイスの構築方法は、将来のナノテクノロジーの分子システム構築技術として強力なツールとなると期待されます。
 本成果は、英国「ネイチャー」や米国「サイエンス」に次ぐ米国科学アカデミー紀要「PNAS:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(インパクトファクター9.737)」オンライン版で近く公開されます。
 論文タイトル:Self−organized optical device driven by motor proteins
         (モータータンパク質で駆動する自己集積的に構築された光学素子)
 著者:Susumu Aoyama,Masahiko Shimoike,Yuichi Hiratsuka

 本開発成果は、以下の研究助成によって得られました。
  1)事業名:科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究
    開発課題名:「モーター蛋白質駆動型の人工色素細胞による光学素子」
    チームリーダー:平塚祐一(北陸先端科学技術大学院大学 准教授)
    研究開発期間:平成20〜22年度

  2)事業名:JST・戦略的創造研究推進事業 さきがけタイプ
    開発課題名:「生体分子を動力源としたマイクロマシン」
    チームリーダー:平塚祐一(北陸先端科学技術大学院大学 准教授)
    研究開発期間:平成18〜21年度



<開発の背景と経緯>
 タンパク質は現在、食品や医療の分野で広く応用利用されています。しかし、これらは生体から発見された膨大な種類のタンパク質のごく一部にすぎず、タンパク質の応用技術は未発達の段階にあるといえます。タンパク質は、炭素・窒素・酸素・水素というありふれた元素のみで構成されているにも関わらず、筋収縮に代表されるモーター機能をはじめ、光センサー、ナノ微細構造、発光、情報処理など従来の人工材料と類似した多様で魅力的な性質を示し、将来的には幅広い工業分野で応用利用できる高い可能性を持っています。しかし、生体外に単離されたタンパク質のその機能は限定的で、現在、人類はそれを有効に利用できる段階にはありません。
 一方細胞では、タンパク質などの様々な分子が有機的に働くことによって非常に高度な機能を発現しています。このようにタンパク質は単体で利用するより、複合的に利用する方がより高度な機能・性質を示す可能性が高く、従来の応用技術とは比較できない高度な機能を付加し人類の生活に多大な恩恵をもたらす可能性があります。しかし複雑な分子システムを人工的に構築することは非常に困難であり、それを解決するブレークスルーが必要とされています。
 そこで我々は十数年前から、それを解決する技術を探索しており、タンパク質で動く微小な回転モーターなど生体材料から構成されるマイクロマシンの開発に取り組んできました。本研究は、その一環でタンパク質の分子システムの構築のデモンストレーションとして魚類の保護色機能に注目し、その複雑なシステムを人工的に構築することに挑戦しました。


<今回の成果>
 ある種の魚類は外敵から身を守るため周囲の環境に応じて体表の色を変化させます(図1a)。この変化は体表に存在する細胞(メラノフォア)の色素顆粒が細胞内に分散または凝縮することによって生じています。メラノフォア内では、微小管とよばれる繊維上のタンパク質が細胞中心から放射状に伸びた構造を作っており、モータータンパク質によってメラニン色素などの色素が微小管に沿って運搬されることにより、色変化が生じています(図1b)。本研究では、このメラノフォアの分子システムをガラス基板上に構築し、それぞれを人工的に制御することによりモータータンパク質で駆動する光学素子の作製に挑戦しました(図2)。
 この光学素子の開発の鍵は、放射状の微小管をガラス平面に作製する方法にあります。私たちは微小管の自己集積能に目を付け、ボトムアップ的にこれを作製しました。微小管はチューブリンと呼ばれるモノマー分子が重合して管状の構造が形成されています。そこで微小管の重合の核をドット状のマイクロ構造に配置化し、その後チューブリン添加することで重合核から微小管を伸長させガラス基上に放射状の微小管構造を作りました(図3b左)。さらに、色素を運搬するタンパク質としてダイニンとよばれるモータータンパク質を微生物の鞭毛から単離し利用しました。色素顆粒とダイニンを結合させ、その複合体を放射状微小管の上に結合させました(図3b中央)。これに燃料であるATPを添加するとダイニンは色素を放射状微小管のレールに沿って中心に運搬され、保護色と同様の色変化を作り出すことに成功しました(図3c)。さらに、ガラス一面に作製したこの人工色素細胞を部位特異的に刺激することで大きさ数mm角の中に思い通りの絵を描画させることが出来るようになりました(図4)。これはモータータンパク質で駆動する世界初の描画装置となります。


<今後の展開>
 本研究では、あらかじめ作製したマイクロ構造の上にタンパク質溶液を順次加えるだけで、タンパク質の自己集積能により自発的に分子システムを組み上がらせ、保護色細胞のメラノフォアと同様の光学素子の作成に成功しました。このマイクロ構造を利用した分子デバイスの構築方法は、将来のナノテクノロジーの分子システム構築技術として強力なツールとなると期待されます。


 ※以下の資料は、添付の関連資料を参照
  ・図1 魚の保護色機能とその分子メカニズム
  ・図2 人工メラノフォアとディスプレイの構想図
  ・図3 人工メラノフォア内での色素の輸送
  ・図4 人工メラノフォアによって描画された大きさ数ミリメータの図
  ・用語説明

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