東北大、高脂血症治療薬の新作用を発見

高脂血症治療薬の新作用発見


　高脂血症の代表的治療薬であるスタチン（注１）は、心筋梗塞など心血管病の治療や予防に有効であり、世界中で約３０００万人の人が服用しています。近年、スタチンがコレステロールを低下させる作用以外にも心血管病の予防効果を有することが明らかとなり、「多面的作用」として注目されています。このたび、東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授のグループは、その分子機序としてSmall　GTP−Binding　Protein　Dissociation　Stimulator（SmgGDS（注２），スマッグジーディーエス）という分子が中心的な役割を果たしていることを世界に先駆けて発見しました。この研究成果は、SmgGDSを増加させ心血管病を改善する新たな薬剤の開発や、心血管病を予測するマーカーの開発につながる可能性があります。


【研究の背景】
　スタチンは世界中で広く使われている薬剤であり、その心血管病の予防効果について数多くの研究がなされ効果が実証されています。当初はコレステロール低下による効果と考えられていましたが、コレステロールがそれほど低下しなかった患者や、もともとコレステロール値が高くない患者に対しても有効であることから、コレステロール低下作用以外に重要な薬理作用があると考えられ、スタチンの「多面的作用」と呼ばれています（図１）。その機序として、従来、スタチンの主たる作用であるHMG−CoA（エイチエムジーコーエー）還元酵素の阻害により、コレステロール合成の抑制と同時にRho（ロー）という分子が抑制されることが主なものと考えられてきました。
　しかし、下川教授の研究グループは、臨床的に投与される通常用量のスタチンではRhoは抑制されず、Rac１（ラックワン）（注３）という分子が抑制されることを初めて見出しました。すなわち、スタチンによるRac１の抑制が多面的作用の中心であることが示されました。Rac１とRhoは、いずれもsmall　GTPase（スモールジーティーピーエース、低分子量G蛋白）とよばれるグループに属する分子ですが、本研究グループはそれらSmall　GTPaseの活性化を制御するSmgGDSに着目し、スタチンの多面的作用について、世界に先駆けて分子機序を明らかにしました。


【研究内容】
　ヒトの培養血管内皮細胞を用いた実験では、スタチンを投与するとSmgGDSの発現量が増加し、それによりRac１の分解が選択的に促進されました。Rac１は、老化や細胞障害を引き起こす活性酸素種（ROS）の産生に関わっていることが知られていますが、スタチンの投与およびSmgGDSの増加によって活性酸素種が減少し、スタチンによるRac１の分解と活性酸素種の減少が重要であることが示されました。
　また、SmgGDSを減少させた遺伝子改変マウスを用いた動物実験では、薬剤により心血管病を生じるマウスにスタチンを投与すると心血管病が改善する一方、SmgGDSを減少させたマウスではその効果が消失することを確認しました。さらに、ヒトに対しスタチンを投与することで血液中のSmgGDSが増加することも明らかになりました。
　以上の結果より、スタチンの心血管病予防・治療効果において、SmgGDSを介した活性酸素種の制御が中心的な役割を果たすことが明らかとなりました（図２）。本研究成果は、SmgGDSを増加させる薬剤の開発や、SmgGDSの測定による心血管病の予測など、多くの臨床応用が期待されます。

　本研究は以下の外部資金を獲得して行っています。
　（１）文科省　新学術領域研究（平成２０〜２４年度）
　　　（代表）「内皮由来弛緩因子としての活性酸素の役割と作用機構の解明」
　（２）文科省　基盤研究（B）（平成２２〜２４年度）
　　　（代表）「一酸化窒素合成酵素の生物学的多様性に関する基礎的・臨床的研究」
　（３）文科省　挑戦的萌芽研究（平成２２〜２４年度）
　　　（代表）「SmgGDSを介したスタチンの多面的作用の分子機序の解明」
　（４）Network　Medicine　グローバルCOE（平成２０〜２４年度）
　　　（IF代表）「活性酸素・血管内皮を介する臓器間ネットワークIF」


　※以下、リリースの詳細は添付の関連資料を参照