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免疫生物研究所、ヒト成人T細胞白血病の新規治療薬候補の開発研究を実施
ヒト成人T細胞白血病(ATL)新規治療薬候補の開発研究の実施について
当社では、琉球大学との共同研究において、成人T細胞白血病(Adult T−Cell Leukemia,以下「ATL」という)の発症原因ウイルスであるHTLV−1に対する感染防御(中和)効果を有する抗体について、新規治療薬シーズとして研究してまいりますのでお知らせします。
【概要】
ATLはHTLV−1ウイルスの感染が引き起こす血液の悪性がんの一種です。HTLV−1の主な感染ルートは母子感染であり、母乳を通じて母から子に感染します。
ATLの発症率はおよそ5%と低いものの、日本ではATL患者とHTLV−1キャリア(HTLV−1の症状はないが体内にウイルスを保有している方)を含めた推定感染者数が、2009年の調査で108万人前後と推定されています。特に九州・沖繩を中心とした西南日本に多く、他には紀伊半島、三陸海岸、北海道などでも限定された地域に感染が見られます。感染者全体の数は減少傾向にありますが、近年、高齢化によるATL患者の増加や、大都市圏へのキャリアの移動傾向が明らかになってきました。これらを受けて、厚生労働省は20年ぶりに方針転換し、全妊婦のHTLV−1検査を実施するよう医療現場や自治体に対策を促し、平成22年の秋からは妊婦健診の検査項目に加えられるようになりました。
ATLの治療は難しく、現在、化学療法、造血幹細胞移植や分子標的医薬品などが用いられますが、その効果、副作用等において充分満足のいくものとはいえない状況です。また、感染を防御するワクチンも開発段階です。
共同研究先の琉球大学においては、長年にわたるHTLV−1感染とATL発症の基礎研究において、HTLV−1感染を完全に阻害する抗体、いわゆる中和抗体をネズミで作製することに成功しました。本抗体を基にしたHTLV−1感染防御薬を開発、適用することで、ATL治療効果の飛躍的な改善や、HTLV−1の母子感染の阻止ができるようになることが期待されます。
当社においては、このネズミの抗体を医薬品としてヒトに適用できるようにするため、抗体のヒト化(※)を行い、新規治療薬シーズとして研究開発してまいります。
以上
【用語説明】
(※)抗体のヒト化;治療薬としてネズミ抗体をそのままヒトに使用すると、異物と認識されてアレルギー反応を起こすなどの副作用の危険性が有ります。そこでより安全性を高めるため、ネズミ抗体を改変し、ヒトの抗体に近い抗体にする必要が有ります。遺伝子工学の手法を用いて、ネズミ抗体の約90%をヒト抗体に置き換えたものをヒト化抗体といいます。