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東大、約90億光年の超新星が重力レンズ効果で30倍に輝くことを発見

2013-04-27

謎の超高輝度超新星、実は標準光源だった!〜重力レンズ効果で30倍に輝く〜


<発表概要>
 東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のロバート・クインビー特任研究員らは、地球から約90億光年の遠方に見つかった超新星が、明るさが一定のため「宇宙の標準光源」として知られるIa(いちえい)型超新星でありながら、超新星と地球との間にある大質量の天体によって空間が曲げられる「重力レンズ効果」によって集光され、通常の約30倍も明るく見えたことを発見しました。

 重力レンズ効果は、宇宙の9割以上を占める暗黒物質や暗黒エネルギー、またブラックホールなど、光で直接観測できないものを観測する数少ない手段のひとつとして、最近特に注目されています。

 今回、Ia型超新星の「標準光源」としての性質により、他の天体の重力レンズ効果では難しかった増光率の直接測定に成功しました。この成果によって重力レンズ効果の理解が進み、今後、様々な天体の重力レンズ効果を利用して、宇宙の暗黒物質や暗黒エネルギー、重力理論の解明をさらに進める足がかりになると期待されます。

 本研究論文は米国のThe Astrophysical Journal Letters誌に掲載されます。

 発表雑誌:The Astrophysical Journal Letters 2013年5月1日号
 論文タイトル:Extraordinary Magnification of the Ordinary Type Ia Supernova PS1−10afx
 著者:Robert Quimby,Marcus Werner,Masamune Oguri,Surhud More,Anupreeta More,Masayuki Tanaka,Ken’ichi Nomoto,Takashi Moriya,Gaston Folatelli,Keiichi Maeda,and Melina Bersten(全著者ともKavli IPMU所属)

 「宇宙の標準光源」として知られる、Ia型超新星の想像図。(Credit:Kavli IPMU)

  ※添付の関連資料「参考画像」を参照


<発表のポイント>
◆どのような成果を出したのか
 「宇宙の標準光源」として知られ、明るさが一定であるIa型超新星が、重力レンズ効果で実際の明るさよりも30倍も明るく見えた現象をとらえた。

◆新規性(何が新しいのか)
 理論的にその存在を予測していた、重力レンズによる超新星の強い増光を世界で初めて発見した。またIa型超新星の「標準光源」の性質を利用して、他の天体の重力レンズ効果では難しかった増光率の直接測定ができた。

◆社会的意義/将来の展望
 今後、多くのIa型超新星や、他の天体の重力レンズ効果を測定することにより、暗黒物質、暗黒エネルギーや重力理論の解明がさらに進むと期待される。


<発表内容:>
 東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のロバート・クインビー特任研究員らは、地球から約90億光年の遠方に見つかった超新星が、明るさが一定のため「宇宙の標準光源」として知られるIa(いちえい)型超新星でありながら、超新星と地球との間にある大質量の天体によって空間が曲げられる「重力レンズ効果」によって集光され、通常の約30倍も明るく見えたことを発見しました。

 PS1−10afxと名付けられた超新星は、全天サーベイ観測パンスターズ1(Panoramic Survey Telescope&Rapid Response System 1;Pan−STARRS1)によって見つかりました。出現直後の解析から、PS1−10afxは、地球から約90億光年の距離(赤方偏移z=1.3883)にあり、パンスターズ1で見つかっている他の超新星より非常に遠方であることがわかっていました。非常に遠いにもかかわらず明るく観測されたということから、太陽の1000億倍の明るさの超高輝度超新星(superluminous supernovae;SLSNe)の一種として結論づけられました。しかし、通常超高輝度超新星は青色で、明るさの変化は比較的遅いのですが、PS1−10afxは赤色の成分が強く、明るさの変化も通常の超新星と同様に速いものでした。この時点で、これほどまでに明るく、赤色で、光度変化の速い超新星の物理モデルは知られていませんでした。

 超高輝度超新星の研究の中心的存在であり、その発見の際にも重要な役目を果たしたKavli IPMUのロバート・クインビー特任研究員はPS1−10afxのデータを詳細に解析し、この超新星は他の超高輝度超新星とは違い、データの特徴が大変見慣れたものであることに気づきました。PS1−10afxで観測された光の波長分布は、明るさが一定のため「宇宙の標準光源」とも呼ばれる、Ia型超新星の波長分布と、ぴたりと一致したのです。さらに、明るさの時間変化曲線も一致しました(図1)。Ia型超新星は、宇宙のどこで起こったものでも明るさとその時間変化が非常に似通っているため、宇宙物理学者はその性質を利用して地球と超新星(の属する銀河)との距離を測るための「標準光源」として利用しています。この性質が2011年にノーベル物理学賞に輝いた、宇宙の加速膨張の発見にも重要な役割を果たしました。しかしながら、PS1−10afxは、光の波長分布と明るさの時間変化はIa型超新星の特徴と正確に一致するのに、観測された明るさは、90億光年の距離を考えると、通常のIa型超新星の約30倍と異常な明るさで、標準光源にはほど遠いものでした。

 この矛盾について、クインビーは、重力レンズの数学的理論を専門とするマーカス・ワーナー特任研究員をはじめとするKavli IPMUの宇宙物理学者と数学者の力を総動員して答えを見つけ出しました。その答えは、超新星と地球にいる我々との間にある天体の重力レンズ効果によって、超新星の明るさが増幅されて見えた、というものです。大質量の天体が空間を曲げてしまうため、空間を「まっすぐ」に進む光が「曲がって」地球に届くのです。したがって、もし超新星PS1−10afxと我々との間に大きな質量の天体が存在している場合、宇宙の別の場所に届くはずだった光も、重力レンズで集光されて我々のところに届き、超新星が非常に明るく見えるという現象が発生します(図2)。この現象では効果を受けた天体の色や波長分布、光度変化の速さは影響を受けません。つまり、天体の明るさだけが大きくなって観測されます。PS1−10afxでは、まさにこの現象がとらえられていたのです。

 Kavli IPMUの研究チームが今回世界で初めて発見したIa型超新星への重力レンズ効果は、全く予想外の発見ではありません。共著者の一人、大栗真宗特任助教は、数年前自らのチームの論文で、パンスターズ1では強い重力レンズ効果を受けたIa型超新星を発見できると予測し、この発見により宇宙論のパラメータに強い制限を加えることができると述べていました。また今回、Ia型超新星の標準光源の性質を利用することで、他の天体の重力レンズ効果では測定することの難しいレンズの増光率を直接測定することができ、重力理論による計算を検証することにつながりました。Kavli IPMUが推進している、すばる望遠鏡に設置した超広視野イメージング装置HSC(Hyper Suprime−Cam)などの観測では、さらに多くの重力レンズ効果を受けたIa型超新星や他の天体が発見されるでしょう。今回の発見は、今後、様々な天体の重力レンズ効果を利用して宇宙の暗黒物質、暗黒エネルギーや重力理論の解明をさらに進めるための重要な足がかりになると期待されます。

 ※「図1、図2」は添付の関連資料を参照


<参考リンク:>
 超新星PS1−10afxと近傍のIa型超新星の比較アニメーション
 http://member.ipmu.jp/surhud.more/research/sn.html

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