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理化学研究所、白血病再発の主原因「白血病幹細胞」を標的とした低分子化合物を同定

2013-04-24

白血病再発の主原因「白血病幹細胞」を標的とした低分子化合物を同定
急性骨髄性白血病に対する生体内での効果をマウスで確認−


<ポイント>
 ・白血病幹細胞が発現する分子を狙った低分子化合物の効果を白血病ヒト化マウスで確認
 ・従来の抗がん剤が効きにくいFlt3遺伝子異常を持った悪性度の高い症例に有効
 ・低分子化合物の単剤投与により患者由来の白血病幹細胞と白血病細胞をほぼ死滅

 http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=wJn3vSppPUI


<要旨>
 理化学研究所野依良治理事長)は、ヒトの白血病状態を再現した白血病ヒト化マウス[1]を用いて、従来の抗がん剤が効きにくい白血病幹細胞を含め、ヒト白血病細胞をほぼ死滅させることができる低分子化合物を同定しました。白血病の再発克服・根治を目指す新たな治療薬として期待できます。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長:現 統合生命医科学研究センター 小安 重夫センター長代行)ヒト疾患モデル研究グループの石川文彦グループディレクター、齊藤頼子上級研究員と、創薬・医療技術基盤プログラム(後藤俊男プログラムディレクター)、生命分子システム基盤研究領域(横山茂之領域長、現 横山構造生物学研究室 上席研究員)、国家公務員共済組合連合会虎の門病院血液科(谷口修一部長)との共同研究グループによる成果です。

 成人の血液がんである急性骨髄性白血病[2]は、原因となる遺伝子異常によっては再発率が高い血液がんです。このため、再発を防ぎ、根治へと導く治療法の開発が強く望まれています。これまでに研究グループは、白血病再発の主原因となる白血病幹細胞[3]を同定し、どこに残存するか、なぜ再発が起きるのか―などを明らかにするとともに、白血病幹細胞に発現し治療標的となりうる候補分子を同定してきました。

 今回研究グループは、同定した候補分子の中から、HCKと呼ばれるリン酸化酵素(キナーゼ)[4]を標的に選び、HCKの酵素活性を最も強く阻害する低分子化合物「RK−20449」を数万の化合物の中から同定しました。RK−20449は、試験管内で患者由来の白血病幹細胞を低濃度で死滅させただけでなく、病態を再現した白血病ヒト化マウスに単剤投与しても白血病幹細胞に対する有効性を示しました。特に、Flt3という遺伝子に異常を持ち、従来の抗がん剤に抵抗性を示す悪性度の高い白血病症例では、数週間、毎日投与するとマウスの末梢血から全てのヒト白血病細胞がなくなり、2カ月後には、骨髄にある白血病幹細胞と白血病細胞のほぼ全てを死滅させることができました。

 この成果は、全ての症例ではないものの、急性骨髄性白血病の中でも最も予後不良な症例に対して、幹細胞レベルで白血病細胞を根絶できる新しい治療薬として開発されることが期待できます。

 本研究成果は、『Science Translational Medicine』(4月17日号)にオンライン掲載されます。


<背景>
 急性骨髄性白血病は、成人に多い予後不良な悪性の血液疾患で、血液がんの1種です。これまでにさまざまな抗がん剤の開発が進み、寛解(白血病細胞の数が減少し症状が改善)という治療効果をもたらしています。しかし、いったん寛解状態となっても、原因となる遺伝子異常によっては高い確率で再発し、死に至ることもあります。

 これまでに研究グループは、患者由来の検体を用いた研究を一貫して行い、白血病再発の原因となる白血病幹細胞やそれが局在する場所を同定し注1)、なぜ白血病幹細胞が抗がん剤に対して抵抗性を示すのかを明らかにする注2)とともに、白血病幹細胞に発現する25種の分子標的を同定注3)してきました。

 今回、これらの成果をもとに、白血病幹細胞を死滅させうる分子標的医薬の開発を目指し、薬の候補となる低分子化合物の同定に挑みました。

 注1)2007年10月22日プレスリリース http://www.riken.go.jp/~/media/riken/pr/press/2007/20071022_3/20071022_3.pdf
 注2)2010年2月15日プレスリリース http://www.riken.go.jp/pr/press/2010/20100215/
 注3)2010年2月4日プレスリリース http://www.riken.go.jp/pr/press/2010/20100204/


<研究手法と成果>
 研究グループは、2010年に同定している25種の分子標的の中でも、多数の患者の白血病幹細胞に共通して発現し、特に細胞の生存や増殖に関係すると考えられるリン酸化酵素「HCK」に着目しました。数万の化合物ライブラリーの中から、HCKの酵素活性を最も強く阻害する低分子化合物「RK−20449」を選び、理研の大型放射光施設“SPring−8[5]”などでX線構造解析を行い、HCKとRK−20449が強く結合していることを確認しました。

 次に、実際にRK−20449がヒトの白血病幹細胞を死滅させることができるかどうかを評価しました。試験管内では、非常に低濃度から、投与する濃度に依存して患者由来の白血病幹細胞を死滅させることができました(図1)。さらに、白血病状態を再現する白血病ヒト化マウスを作製し、生体内での有効性を評価したところ、特に、Flt3という遺伝子に異常を持ち、従来の抗がん剤に抵抗性を示す悪性度の高い急性骨髄性白血病症例に対して有効でした(図2)。具体的には、数週間にわたってRK−20449を毎日投与すると、マウスの末梢血から全てのヒト白血病細胞がなくなり、2カ月後には、骨髄でも白血病幹細胞を含むほぼ全ての白血病細胞が死滅していました(図3)。

 急性骨髄性白血病が発症すると、骨髄では赤血球など正常な血液の産生ができず、貧血(真っ白になった骨髄)に陥ります。同時に脾臓(ひぞう)でも、ヒト白血病細胞が充満し、脾臓の腫大(脾腫)が認められます。従来の抗がん剤を投与しても貧血と脾腫に改善は認められませんでしたが、RK−20449を6日間毎日投与したところ、貧血・脾腫ともに速やかに改善しました。52日間毎日投与し続けたところ末梢血で白血病細胞が再び増加することはなく、骨・脾臓ともに、正常に近い外観を示しました(図4)。


<今後の期待>
 研究グループは、急性骨髄性白血病幹細胞に発現し、治療標的となる候補分子の1つと結合する低分子化合物「RK−20449」を見いだし、実際に白血病ヒト化マウスの生体内で患者由来白血病幹細胞をほぼ全て死滅させることができました。今回の研究の重要な点は(1)実際に再発している患者由来の検体を用いた検証であること(2)試験管内だけでなく白血病ヒト化マウスの生体内においても白血病幹細胞をほぼ全て死滅できたこと(3)急性骨髄性白血病の全ての症例ではないものの、最も悪性度が高いとされる遺伝子異常を持ったタイプに有効であること(4)白血病幹細胞を含むすべての白血病細胞に効果があること―の4つの課題を達成したことです。この成果は、今後、新たな白血病根治薬の開発に貢献すると期待できます。


<原論文情報>
 ・Saito et al."A pyrrolo−pyrimidine derivative targets human primary AML stem cells in vivo".
  Science Translational Medicine,2013


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 統合生命医科学研究センター(http://www.riken.go.jp/research/labs/ims/) ヒト疾患モデル研究グループ
 グループディレクター 石川 文彦(いしかわ ふみひこ)


 ※補足説明、図1〜図4は添付の関連資料を参照


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