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東北大、早期の環境的介入が精神疾患の発症を予防する可能性を示唆

2013-04-18

精神疾患発症脆弱性の臨界期を示唆
早期の環境的介入が精神疾患の発症を予防する可能性



【概要】
 東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授と郭楠楠(かく なんなん)研究員(現所属:マサチューセッツ総合病院)らは、神経新生を低下させる薬剤(メチルアゾキシメタノール酢酸、methylazoxymethanol acetate,MAM)で処理することにより統合失調症等に特徴的な感覚運動ゲート機構低下のモデルマウスを作製し、発達期のある限られた期間における発達異常が統合失調症様の症状を引き起こすことを証明しました。この結果は、統合失調症の「発達障害仮説」すなわち、幼少期までのなんらかの神経発達の障害により、青年期になって疾患が発症することと対応していると考えられました。さらに、このモデルマウスにおいて、臨界期に飼育環境を改良(環境強化)することにより、統合失調症様の症状が改善されることも明らかにしました。本研究成果は、米国神経科学学会誌Journal of Neuroscienceに掲載されました。


 ※参考資料は添付の関連資料を参照


【研究内容】
 精神疾患は、5大疾患(精神疾患糖尿病、がん、脳卒中、心臓病)の中でもっとも患者数が多い。統合失調症等の精神疾患では共通して、感覚のフィルター機構に障害があることが知られ、これは、音驚愕プレパルス抑制(PPI)試験(注1)によりモデル化できる。一方、マウスにおいて、海馬における神経細胞の産生(神経新生)が、記憶や学習、多動や不安等に影響を与えることや、ストレスならびに低栄養等の環境要因によって神経新生が低下することが知られている。そこで本研究では、神経新生を低下させる薬剤(MAM)を投与することによりPPI低下を示す統合失調症モデルマウスを用いて、発症の発達時期特異性や環境からの影響について解析した。
 発達途中の若いマウスにおいて、神経新生を低下させる薬剤MAM(1mg/kg)を生後の異なる時期(3週齢あるいは4週齢、5週齢、6週齢)から2週間だけ投与し、性的成熟に達した10週齢でPPI試験を行った。その結果、3週齢ないし4週齢からMAM投与したマウスにおいてPPIの異常が認められたが、5週齢ないし6週齢からMAMを投与したマウスでは、PPIは影響を受けなかった。また、4週齢から2週間MAMを投与したマウスにおいては、18週齢においてもPPIの低下が認められた(図1)。これらの結果より、MAMのPPIに対する効果は時期特異的な感受性があり、このPPIの異常は持続的であることが示唆された。
 MAM投与によりPPIの異常が認められたマウスでは、PPIに関わることが知られる海馬歯状回(注2)という脳の部位において抑制性神経細胞(注3)の数が減少していることが観察された(図2A−C))。そこで、抑制性神経細胞の減少によって抑制性の神経回路の神経伝達低下が、PPIの異常を引き起こしているかどうか検討するために、4週齢から2週間MAM投与してPPIの異常を引き起こしたマウスで、PPI測定の20分前に、両側の海馬歯状回に抑制性神経を活性化させる薬剤(ムシモル(注4))を投与した。その結果、MAM投与によるPPIの異常が、10 ng ムシモルの投与により改善した(図2E)。しかし、より多量のムシモル投与(100 ng)では、PPIの改善は認められなかった。これらの結果より、MAM投与によって海馬歯状回での抑制性神経細胞の数が減少し、抑制性の神経回路の機能が低下したことによりPPIの異常が引き起こされることが示唆された。
 さらに、MAM投与で引き起こされるPPI異常について、環境的な介入効果を検討した。4週齢から2週間MAMを投与されたマウスを、異なる発達時期(4週齢ないし6週齢)から10週齢まで、回転車や遊具等を与えて変化に富んだ環境(強化環境)において飼育した。その結果、4週齢から環境強化下で飼育されたマウスは、MAM投与によるPPIの異常が改善された(図3A,B)。一方、6週齢から環境強化下で飼育されたマウスでは、MAM投与によるPPIの異常は改善されなかった(図3E,F)。これらの結果より、限られた時期の環境介入が統合失調症様の異常行動の発症の予防に効果があることが示唆された。
 本研究成果により、マウスにおいてMAM投与によって誘導される統合失調症様症状の発症には発達時期特異性(臨界期)があり、このメカニズムには抑制性の神経細胞が関与することを見出した。また、飼育環境を改良(環境強化)することにより、統合失調症様の症状が改善されることを明らかにした。このことから、幼若期でも脳は発達過程にあり、この時期の神経回路発達の不全が成人期になってからの精神疾患発症脆弱性に関わることが示唆される。なかでも、神経新生はストレスや低栄養等の環境要因に強く影響される。したがって、幼若期に脳の発達の障害が生じた場合には、なるべく早期に介入する必要性があることが示唆された。


【用語説明】
 注1.事前にある大きさの音を聞かせておくと、次により大きな音を聞かせた時の驚愕反応が減少する。この減少をプレパルス抑制と呼ぶ。統合失調症の患者ではPPIに異常が観察されることが多い。
 注2.短期記憶を司る脳の一部分
 注3.他の神経細胞の働きを抑える神経細胞。GABAやグリシンといった伝達物質を放出する。
 注4.GABA受容体を活性化させる


 ※以下の資料は添付の関連資料を参照
  ・図1.MAM投与により誘導されるPPI低下の臨界期
  ・図2.MAM投与による海馬歯状回における抑制性神経細胞の減少とGABA受容体アゴニストの投与によるPPI低下の改善効果
  ・図3.MAM投与によるPPI低下に対する環境強化の時期依存的効果

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