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理化学研究所など、人工塩基でDNAの機能が飛躍的に向上することを実証

2013-04-12

人工塩基を用いてDNAの機能向上を証明
−予言から約50年の仮説を世界で初めて実証−



<ポイント>
 ・独自の人工塩基対技術で、次世代DNAアプタマー作製に成功
 ・標的タンパク質との結合能力は天然型塩基のDNAアプタマーの100倍以上
 ・診断技術や医薬品としての高機能核酸をつくる新規バイオ技術創出へ道ひらく


<要旨>
 理化学研究所(野依良治理事長)と理研ベンチャー[1]のタグシクス・バイオ(平尾一郎代表取締役)は、自然界には無い人工塩基を天然のDNA[2]に組み込むことで、DNAの機能を飛躍的に向上できることを世界で初めて証明しました。これは、仮説が提唱されてから約50年後の実証で、次世代の遺伝子操作技術にも大きく貢献するものであり、理研生命分子システム基盤研究領域(横山茂之領域長、現:横山構造生物学研究室 上席研究員)核酸合成生物学研究チームの平尾一郎チームリーダー(現:ライフサイエンス技術基盤研究センター[渡辺 恭良センター長]構造・合成生物学部門 生命分子制御研究グループ 合成分子生物学研究チーム チームリーダー)らによる共同研究グループの成果です。

 遺伝子の本体であるDNAは、糖とリン酸と塩基で構成されている核酸です。4種類の塩基(A、G、C、T)からなる複製[3]可能な情報分子ですが、抗体(DNAアプタマー[4])や酵素としての機能も兼ね備えています。しかし、わずか4種類の塩基からなる核酸の機能には限界があります。こうした中で「塩基の種類を人工的に増やすことができれば、核酸の機能が飛躍的に向上するのではないか」という仮説が、1962年に提唱されており、幾つかの研究チームが先駆けて新たな塩基(人工塩基)の開発競争を進めていました。

 共同研究グループは、2009年に複製可能な人工塩基対「Ds−Px(ディーエス−ピーエックス)」を世界で初めて開発しました。さらに今回は、“人工塩基Ds”をDNAに組み込み、標的のタンパク質だけに結合する「DNAアプタマー」の作製に成功しました。このDNAアプタマー中には2〜3個のDsが含まれているだけですが、天然型塩基だけで構成される従来のDNAアプタマーと比較して、標的タンパク質との結合能力が100倍以上も向上しました。これにより、塩基の種類を増やすとDNAの機能が向上するという仮説を世界で初めて証明しました。この成果は、DNAなどの核酸を利用した診断技術や医薬品を開発する新たなバイオ技術を提供し、人工塩基対による次世代の遺伝子操作技術への道をひらきます。

 なお、本研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)「人工塩基対システムによる高機能核酸の創製」、文部科学省「ターゲットタンパク研究プログラム」またNEDOイノベーション推進事業「機能性人工塩基を導入した第二世代DNAアプタマーの開発」の支援を受けて行われました。本成果は、米国の科学雑誌『Nature Biotechnology』4月7日号に掲載されるに先立ち、オンライン版(4月7日付け:日本時間4月8日)に掲載されます。


<背景>
 遺伝子の本体であるDNAは、塩基、リン酸、糖で構成されている核酸です。全ての生物の遺伝情報は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の塩基を組み合わせた配列としてDNA上に記述されています。そして、AとT、GとCのそれぞれが塩基対を作ることにより、DNAは二重らせん構造を形成します。この相補的な塩基対を介してDNAは複製・増幅されます。塩基対の法則とDNAの構造は、1953年にジェームズ ワトソンとフランシス クリックによって発見されました。それから間もない1962年には、タンパク質合成に関わるtRNAの立体構造を初めて明らかにした米国のアレキサンダー リッチが、「もしDNAの塩基の種類を増やすことができれば、DNAの情報や機能を拡張できる可能性がある」という仮説を提唱しました。この可能性を証明するには、塩基の種類を増やしたDNAが正確に複製されるように第3の塩基対を人工的に作り出す必要があります。そして、1990年以降、幾つかの研究チームが先駆けて第3の塩基対(人工塩基対)の開発競争を始めました。

 この開発競争の中で、平尾チームリーダーらは2002年に最初の人工塩基対を開発し(Nature Biotechnology,20,177−182,2002)、2006年には世界初の複製で機能する人工塩基対の作製に成功しました(Nature Methods,3,729−735,2006、2006年8月24日プレスリリースhttp://www.riken.go.jp/~/media/riken/pr/press/2006/20060824_1/20060824_1.pdf))。さらに、2009年には試験管内でDNAを複製させるPCR[5]という手法で、天然型塩基対に近い精度で複製するDs−Px(ディーエス−ピーエックス)塩基対を作製しました(図1)。こうして6種類の塩基から成る複製可能なDNAを開発し、その後は、アレキサンダー リッチの提唱する「塩基の種類が増えるとDNAの機能は向上するのか?」が具体的な研究課題になりました。

 数十塩基から構成されるDNAを用いた抗体(DNAアプタマー)は、標的となる分子だけに結合する能力を持ち、短時間に化学合成が可能なうえ、作用機序が単純です。また、通常の抗体はタンパク質から合成されているため、体内に投与したときに異質な物質と認識され治療薬を排除する抗体が産生されることがあります。しかし、DNAアプタマーにはそのようなことがほとんどありません。このような利点から、DNAアプタマーは次世代の分子標的医薬として注目を集めています。DNAアプタマーを作製する従来のSELEX法[6]では、4種類の天然型塩基をランダムに配列させた10〜100兆種類のDNA断片群をライブラリーとして用い、この中から標的タンパク質に結合する断片を選別します。選別されたDNA断片をPCR法で増幅し、この選別とPCR増幅の作業を繰り返すことによりDNAアプタマーを得ます。標的タンパク質に対する結合能力や選択性を飛躍的に高めるために、従来の天然型塩基だけのDNAを用いる方法に加えて、天然型塩基を修飾する方法など、今日までさまざまに工夫されたSELEX法が報告されていますが、未だ実現には至っていませんでした。

 そこで共同研究グループは、DNAを用いた抗体(DNAアプタマー)に人工塩基を組み込み、塩基の種類を増やすことで、標的とするタンパク質との結合能力を飛躍的に向上させることに挑みました。


<研究手法と成果>
 DNAは水に溶けやすい(親水性)物質ですが、タンパク質は親水性の部分と疎水性の部分からなるため、天然型塩基だけで構成される従来のDNAアプタマーはタンパク質の疎水性の部分と結合しにくいという欠点があります。共同研究グループは、ランダム配列のDNA断片に疎水性の人工塩基Dsを組み込むことにより5種類の塩基からなるライブラリーを合成し、これを用いて標的タンパク質に結合するDNAアプタマーを作製する新たなSELEX法を開発しました(図2)。

 選別したDNA断片は、天然型塩基に人工塩基DsとPxを加えたPCR用の基質を用いてPCRで増幅しました。次に増幅した二本鎖DNAからDsが組み込まれた一本鎖DNAを単離して、選別・増幅を繰り返しました。得られたアプタマーの塩基配列は次世代シーケンサー[7]を用いて網羅的に解析し、アプタマー中のDsの位置も特定できるよう工夫しました。

 モデル実験として、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)やインターフェロン‐γを標的タンパク質として、新SELEX法でそれぞれのDNAアプタマーを作製しました。作製したDNAアプタマーは、天然型塩基だけで合成された従来のDNAアプタマーと比較して、標的タンパク質との結合能力が100倍以上向上していました。これらのDNAアプタマーは、40〜50塩基の長さを有していますが、その中の2カ所あるいは3カ所にだけ人工塩基Dsが組み込まれていました。また得られたDNAアプタマーの標的タンパク質に対する選択性も非常に高いことが分かりました。

 本研究結果は、新たな人工塩基を加えることにより、DNAの機能が飛躍的に向上することを世界で初めて示しました。高い結合能力を有したDNAアプタマーが得られた理由として、人工塩基Dsの疎水性が高いため標的タンパク質上の疎水性領域との結合能力が高まったことと、人工塩基DsをDNAライブラリーに組み込むことによりDNAの構造の多様性が増し、標的タンパク質との結合に適した立体構造を有するDNAアプタマーが得られたこと、が挙げられます。


<今後の期待>
 人工塩基を含むDNAアプタマーは、従来のDNAアプタマーやタンパク質抗体に比べ標的タンパク質との結合能力と選択性が非常に高いため、従来の抗体技術に代わって診断・検出・医薬品開発分野での応用が期待できます。さらに、今回、作製したDNAアプタマーはドラッグデリバリーシステム[8]や新規バイオマーカーの探索にも利用できると考えられます。また、この手法は、従来のDNAアプタマーの改良法と組み合わせて、核酸触媒の作製やDNAやRNAの新たな機能創出にも応用できます。一方で、本成果は、アプタマーなどの応用だけでなく、従来の組換え技術に代わる次世代の遺伝子操作技術としても、人工塩基対の今後の進展を期待させるものです。


<原論文情報>
 ・MichikoKimoto,Rie Yamashige,Ken−ichiro Matsunaga,Shigeyuki Yokoyama,and Ichiro Hirao‘Generation of high−affinity DNA aptamers using an expanded genetic alphabet’ Nature Biotechnology,2013 doi:10.1038/nbt.2556


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 ライフサイエンス技術基盤研究センター
 (http://www.riken.go.jp/research/labs/clst/)
 構造・合成生物学部門
 (http://www.riken.go.jp/research/labs/clst/struct_synth_biol/
 生命分子制御研究グループ
 (http://www.riken.go.jp/research/labs/clst/struct_synth_biol/bio_funct_mol_dev/
 合成分子生物学研究チーム
 (http://www.riken.go.jp/research/labs/clst/struct_synth_biol/bio_funct_mol_dev/synth_mol_biol/
 チームリーダー 平尾 一郎 (ひらお いちろう)


 ※補足説明と図1、2は添付の関連資料を参照


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