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慶大、ブンチョウが人間のことばの微妙な音声的ニュアンスを聞き分けていることを確認

2012-10-24

ブンチョウも人間の言語の微妙な音声的ニュアンスが分かる



 慶應義塾大学文学部の渡辺茂教授他は、文学部心理学専攻学生(実験当時)の直井望とともに、ブンチョウが人間のことばの微妙な音声的ニュアンスを聞き分けていることを実験で確かめました。
 人間の会話では、言葉の意味内容そのものも大切ですが、同時にそれがどのように話されるかで全く違う情報を伝えることができます。同じ内容でも「そうですか!」と賞賛の気持ちを伝えることもできますし、「そうですかあ?」と疑念の気持ちを伝えることもできます。この微妙な音声の違いは私たちが人間だから分かるのでしょうか?
 研究グループではブンチョウに同じ「そうですか」という文で賞賛の韻律情報(プロソディ)を持つものと疑念のプロソディを持つものを聞き分けさせる訓練をしました。ブンチョウはこれらを聞き分けるばかりでなく、訓練に使わなかった文「あなたですか」でもそれが賞賛のプロソディを持つものと疑念のプロソディを持つものとを聞き分けることができました。
 この実験は人間以外の動物が人間の言語のプロソディの違いを区別することを示した初めての研究です。この研究成果は米国科学誌 PLoS ONE オンライン版に10月18日(日本時間)に掲載されました。(http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0047446


1.研究成果
 慶應義塾大学の研究グループではこれまでもブンチョウ等の鳴禽の高次聴覚情報処理の研究を行ってきました。今回の研究ではブンチョウにプロソディという韻律的特徴が聞き分けられるかという実験を行いました。

<実験1>刺激は同じ「そうですか」という文ですが、賞賛のプロソディで発話されたもの、疑念のプロソディで発話されたものの2種類を用いました。ブンチョウは止まり木が2本ある実験箱で訓練されました。普段は一方の止まり木に止まっていますが、あるプロソディの音声が聞こえた時に止まり木を飛び移れば報酬として餌があたえられます。別のプロソディの時は飛び移っても餌はもらえません。この訓練によってブンチョウはプロソディの種類を聞き分けて飛び移るようになりました。その後、訓練に使わなかった「あなたですか」という文を、賞賛と疑念のプロソディで発話したものをそれぞれ聞かせるテストをしました。ブンチョウは新しい文でもプロソディを聞き分けることができました。また、あるプロソディでの文の前半部分と別のプロソディでの文の後半部分をつなぎ合わせた刺激を聞かせると、ブンチョウは前半を使って聞き分けていることが分かりました。

<実験2>次の実験では異なる文、「そうですか」と「あなたですか」が同じプロソディで話されたものの聞き分けを訓練しました。ブンチョウはこの聞き分けも学習しましたが、プロソディを変えると区別ができなくなりました。これは同じ文で異なるプロソディのものは別のものとして聞いていることを示します。

 なお、この研究では音声刺激を国立国語研究所の前川喜久雄教授から提供していただき、音韻解析については国際基督教大学の日比谷潤子学長・教授のアドバイスを受けました。


2.意義と背景
 言語はヒトを他の動物と隔てる特徴のひとつです。実際、ヒトの音声言語は他の動物の音声コミュニケーションと比較にならないほど進化したものです。しかし、複雑な音声コミュニケーションを持つ動物がいないわけではありません。鳴禽の歌は、文法に似た構造があること、学習しなくてはならないこと、方言があること、脳の片半球に歌の中枢が局在していることなど、ヒト言語に類似の性質を持っています。
 慶應義塾大学の研究グループはこれまでにブンチョウ等の鳴禽が音楽を聞き分けたり、特定の音楽に好みを示したりするばかりでなく、協和音と不協和音を聞き分けたり、中国語と英語を聞き分けることもできることを報告してきました。これらのことは鳴禽が高度の聴覚情報処理を行っていることを示します。
 今回の実験ではプロソディの聞き分けを取り上げました。文の内容ではなくプロソディから相手の本当の意図を理解するのは、人間の高度な社会的認知といえます。実験結果はブンチョウもまたこの微妙な韻律的な相違を聞き分けられることを示しました。もちろん、この結果はブンチョウがプロソディから疑念や賞賛を聞き取るという意味ではありませんが、疑念のプロソディ、賞賛のプロソディをそれぞれ別のカテゴリーの聴覚刺激として聞き分けられること、言い換えるとプロソディの聴覚的区別ができることを示したものです。


3.今後の展開
 2つの展開が考えられます。このような微妙な韻律的特徴の区別が鳴禽以外の動物でもできるのか、という研究です。本研究グループでは鳴禽がこのような高次聴覚認知ができるのは複雑な聴覚コミュニケーション(歌)を持っているからだと考えています。複雑な聴覚コミュニケーションを持っている動物だけでプロソディの区別ができるなら、この考え方が支持されることになります。
 もうひとつは脳内機構の解明です。文そのものの認知とプロソディの認知は脳のどのような場所が処理しているのか、という問題です。人間の脳機能研究では、文の言語的な意味内容は左半球優位に、また文のプロソディの側面は右半球優位に処理されることが知られています。鳴禽の場合はどうなるのか。もし、人間と鳴禽でプロソディ認知の脳内機構が異なっていたらそれはなにを反映しているのか。本研究グループでは今後もこれらの研究の展開を目指す予定です。


注)論文筆頭著者について

直井望
 2001−2002年の実験当時、慶應義塾大学文学部心理学専攻に在籍。
 2004年 慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了。
 2007年 同 博士課程 単位取得退学。
 2010年以降、現在まで「JST ERATO 岡ノ谷情動情報プロジェクト」博士研究員で京都大学に所属。


※下記資料は、添付の関連資料を参照
 ・図1 上の図は「そうですか!」という賞賛、下の図は「そうですかぁ」という疑念のプロソディ。
 ・図2 鳥がスピーカーからの音声に応じて止まり木AからBに飛び移ると餌がトレイに出される。

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