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産総研など、素子内の電荷の振る舞いを分子レベルで計測することに成功

2012-08-21

発光している有機EL素子内部の状態を計測・評価
−動作中の封止された有機EL素子内の分子を初めて評価可能に−


<ポイント>
 ・有機EL素子を発光させながら素子内部の特定の有機層界面の情報を選択的に非破壊で測定
 ・先端計測技術であるレーザー分光測定法と有機EL素子の作製・評価技術を融合
 ・有機エレクトロニクスデバイスの特性向上や劣化解析のための非破壊分析にも応用


<概要>
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ナノシステム研究部門【研究部門長 八瀬 清志】ナノシステム計測グループ 宮前 孝行 主任研究員、フレキシブルエレクトロニクス研究センター【研究センター長 鎌田 俊英】印刷エレクトロニクスデバイスチーム 高田 徳幸 研究チーム長は、次世代化学材料評価技術研究組合【理事長 冨澤 龍一】(以下「CEREBA」という)と共同で、発光中の多層積層有機EL素子内部の有機層界面にある特定の分子の振る舞いを選択的に測定する手法を開発し、素子内の電荷の振る舞いを分子レベルで計測することに初めて成功した。

 この手法は最先端のレーザー分光計測法を駆使し、有機EL素子内にある特定の有機層界面の分子の振動スペクトルを計測するように改良したものである。さらに有機ELの測定では電場が集中する界面からの信号を増強する現象を利用することで、素子を破壊することなく発光している多層積層した有機EL素子内部の有機層の分子の状態を評価できる。産総研の先端計測の技術基盤と、CEREBAの実践的な有機EL素子作製・評価技術の融合から生み出された、世界初の成果である。

 今回開発した手法により、有機EL素子の長寿命化に必要な材料の劣化や素子の界面劣化について分子レベルの情報から解き明かすことが期待される。

 なお、この技術の詳細は、米国学術誌「Applied Physics Letters」の2012年8月15日(米国東部時間)にオンライン掲載される。また2012年9月11〜14日に愛媛大学および松山大学(愛媛県松山市)で開催される秋季第73回応用物理学会学術講演会、ならびに2012年9月18〜21日に東京大学(東京都文京区)で開催される第6回分子科学討論会でも発表される。


[発光している多層積層有機EL素子のレーザー分光測定の概念図]

 ※添付の関連資料「参考画像」を参照


<開発の社会的背景>
 近年、視野角が広く低電圧駆動が可能で、動画再生能力など優れた性能を持つ発光デバイスとして、有機EL(Organic Light Emitting Diode, OLED)の次世代の薄型テレビ、スマートフォン、照明などへの応用が注目されてきている。特に高輝度、長寿命の実用的な有機ELでは、異なる性質を持つ有機層を何層も積み重ねた多層積層有機EL素子が用いられている。それらの有機EL素子は劣化の大きな原因となる酸素や水の影響を排除するために、乾燥剤とともに厳重に封止されており、外部から有機EL素子本体にアクセスする道は素子につながる電極からの情報か、光を取り出す透明窓からしかない。しかし有機物が出す蛍光や素子動作時の強い発光に阻まれ、光を使った評価計測手法の多くは使用することが困難であり、実際の劣化挙動を調べるには、動作させて電気特性を調べてモデル解析するか、素子を壊して内部を分析するなどの間接的、限定的な手法しかなかった。特に破壊して分析する手法では素子を破壊する際の影響や不純物の混入を全て排除することができない問題があった。また、封止されていない素子を使用した場合、外部からの水などの影響による劣化も同時に進行するため、素子本来の劣化だけを分離して分子レベルで評価することは難しい。このため、長時間駆動させた際に起こる緩やかな劣化のメカニズムは現在の有機EL素子の構造が提案されて25年以上経てもなお、わかっていない。さらに実用レベルの多層積層有機EL素子では、複数の有機層からの情報が重なり合い、それらを分離できないため、個々の有機層の振る舞いを劣化と関連づけて評価することも極めて困難であった。有機ELの高詳細ディスプレイや照明などへの実用化の鍵となる多層積層有機EL素子の長寿命化のためには、長時間駆動の間にどの層で何が起こり、それがどのようにして素子の劣化を引き起こすのかを素子を破壊せずに実際の素子構造を用いて個別の有機層ごとの情報として知ることが急務であった。そのため、多層有機EL素子の個々の有機層の状態を素子が封止された状態で、さらに駆動中に非破壊で評価・計測できる技術が求められている。


<研究の経緯>
 産総研は、材料表面や界面の分子情報を選択的に計測・評価する手法として、和周波発生分光法(SFG分光法)を用いた有機物界面の評価・解析技術の研究開発を進めてきた。さらに有機エレクトロニクス材料や実デバイスの評価への応用を目指し、複雑な構造を持った有機デバイスの特定の有機物界面の情報を詳しくとらえるため、波長可変のレーザー光を使用した2色可変SFG分光法の技術開発と、有機エレクトロニクス素子の評価への応用を進めてきた。

 CEREBAは、次世代化学材料の評価・解析技術の開発と共有化を通じ、迅速な製品化に貢献する評価研究開発拠点として産総研内に設立され、有機エレクトロニクス材料、特に有機EL材料について、評価手法が確立していない実用レベルで使用される有機EL材料や素子本体の統一的な評価基準となる「基準素子」の設計・作製技術の確立とそれをベースとした評価・解析技術の開発を進めてきている。

 なお、本研究開発は、独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費補助金 基盤研究と、ならびに独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「次世代グリーン・イノベーション評価基盤技術開発プロジェクト(平成22〜27年度)」により行った。


※研究の内容などリリース詳細は、添付の関連資料を参照

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