イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

北大、抗がん剤の効果を抑制する免疫細胞由来の新規分子を同定

2012-08-02

抗がん剤耐性を誘導する免疫細胞由来の新規分子を同定



<研究成果のポイント>
 ・がん組織内の樹状細胞が有する自然免疫活性の抑制効果を介し,抗がん剤耐性が誘導されることを解明。
 ・樹状細胞由来の蛋白「TIM−3」が,がん細胞DNAへの自然免疫応答を抑制することで抗がん剤耐性を誘導することを解明。
 ・樹状細胞由来の「TIM−3」を標的とすることで,抗がん剤の奏功率を飛躍的に高める治療薬の開発に期待。


<研究成果の概要>
 強力な免疫活性細胞として知られる樹状細胞は,感染,発癌制御に重要な役割を果たすことが明らかとなっています。本研究では,樹状細胞が癌組織内において,「TIM−3」という蛋白発現を新たに獲得することを明らかにしました。DNAに対する自然免疫応答の活性化には,まず「HMGB1」蛋白とDNAの結合が必要ですが,TIM−3は,癌組織に高頻度に存在するHMGB1とDNAとの結合と競合することで,がん細胞から放出されるDNAを介した自然免疫活性を抑制することを見出しました。また,TIM−3阻害剤を介したDNAへの免疫応答活性が,抗がん剤によるがん治療効果を劇的に改善することを明らかにしました。
 以上の結果は,抗がん剤の治療応答性を規定する因子として,樹状細胞による免疫応答制御の分子メカニズムを,世界で初めて明らかにした点で重要な意義を有します。さらに,樹状細胞由来の「発癌促進因子」の制御に着目した新しいタイプの抗がん剤開発に繋がる点で画期的な成果です。


<論文発表の概要>

 研究論文名:
  Tumor−infiltrating DCs suppress nucleic acid−mediated innate immune responses through interactions between the receptor TIM−3 and the alarmin HMGB1.
  (腫瘍浸潤樹状細胞はTIM−3とHMGB1の相互作用を介して,核酸による自然免疫応答の抑制に寄与する)
 著者:氏名(所属)地主 将久(北海道大学遺伝子病制御研究所附属感染癌研究センター),他14名(北海道大学大学院医学研究科腫瘍内科学および病態医科学,順天堂大学医学研究科免疫学,香川大学医学部免疫病理学,アイオワ大学内科学との共同研究)
 公表雑誌:Nature Immunology(ネイチャー・イムノロジー)
 公表日:日本時間(現地時間)2012年7月30日(月)午前2時(英国時間7月29日 午後6時)


<研究成果の概要>

(背景)
 抗がん剤による治療への耐性発現は,がん患者の生命予後を決定する極めて重要な要因です。以上より抗がん剤耐性獲得に至るメカニズム解明が,がん根治を目指した治療法の開発に重要です。
 抗がん剤耐性の成因は,主にがん細胞自体の遺伝子変異に起因するとされていますが,最近になりがん細胞周囲に存在する血管細胞や免疫細胞の役割も報告されています。しかし,その詳細な分子メカニズムについてほとんど解明されていないのが現状です。よって,抗がん剤への応答性を調節する免疫制御因子を同定しその作用機序を解明することで,新たな制がん法の開発に繋げることが可能になると考えられます。

(研究手法)
 免疫活性を司る代表格であり,昨年度のノーベル医学・生理学賞の対象ともなった「樹状細胞」を対象として,がん組織に存在する樹状細胞の機能のうち,がん細胞から発せられる「警報」(センサー)を感知する免疫システム(自然免疫=こちらも昨年度のノーベル医学・生理学賞の受賞対象)の活性の変化に注目しました。特に,がん特異的に樹状細胞による自然免疫活性制御を司る因子の同定と,その因子が抗がん剤応答性に与える影響について検証しました。

(研究成果)
 通常はがん細胞の排除に働くと考えられている免疫活性細胞である樹状細胞が,がん組織中では自然免疫活性の抑制に関与することを発見しました。その免疫抑制に重要な役割を果たすのが,がん組織に存在する樹状細胞に特異的に高発現している「TIM−3」という分子であることを同定しました。主に抗がん剤刺激によりがん細胞より放出されるDNAは,自然免疫活性センサーとして重要な働きを果たしていますが,その活性には「HMGB1」という蛋白とDNAとの結合が重要であることは以前から知られていました。本研究では,「TIM−3」はHMGB1と競合的に結合することで,DNAによる有効な自然免疫活性を抑制する働きを有することを明らかにしました(図1参照)。さらに,TIM−3阻害剤ががん細胞由来のDNAに対する自然免疫活性能を回復することで,抗がん剤による大腸がん拒絶能が劇的に改善することを見出しました(図2参照)。
 以上より,本来はがん拒絶にはたらく樹状細胞が,TIM−3という分子を介することで,逆に抗がん剤の効果を抑制するという機能転換の仕組みを明らかとしました。これらは,今後のがん治療の改善を目指すうえで,大変重要な意義を有する成果と考えられます。

(今後への期待)
 がん組織中の樹状細胞に特異的に発現し,抗がん免疫活性の抑制に関与する分子の同定をさらに推し進め,その役割を検証することで,樹状細胞発現分子を標的とする新たなタイプの抗がん剤の開発が可能になると考えられます。これは既存の抗がん剤への感受性を高め,再発や転移など発がんの進行を抑止するうえで,極めて有力な武器になりうると考えられます。


※図1・2は、添付の関連資料「参考図」を参照

Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版