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東北大学など、光が有機物質を変える瞬間の超高速スナップショット観測に成功

2010-11-23

電子の氷を光で融かす一瞬を捉える
〜光が有機物質を変える瞬間の超高速スナップショット〜


<概 要>
 東北大学大学院理学研究科の岩井伸一郎教授、自然科学研究機構 分子科学研究所の米満賢治准教授、山本薫博士、東北大学金属材料研究所の佐々木孝彦教授らのグループは、光の照射によって、有機物質の色や電気伝導度が大きく変化する現象(光誘起相転移現象(注1))の、最初の瞬間を捉えることに成功しました。本研究成果は、平成22年12月3日(米国東部時間)発行(予定)の米国物理学会誌Physical Review Lettersに受理され、オンライン版で近日中に公開されます。


■背 景
 ごく最近、電荷秩序絶縁体(注2)と呼ばれる有機物質において、光誘起相転移をはじめとする、通常の半導体では見られない非線形な光、電場応答(光や電場の大きさを変化させたとき、その応答が、比例関係から予想されるよりも大きく増大すること)が相次いで報告されています。電荷秩序絶縁体は、電子間に働くクーロン反発(注3)によってその運動が凍結した、電子の結晶(ウィグナー結晶(注4))とも言うべきものです。光誘起相転移などの非線形現象は、このような“電子の氷”に特有の光応答であって、凍結した電子(=絶縁体、図1(a))が、光照射によって融解し、動きやすくなる(=金属、図1(b))ことが関係していると考えられています。“電子の氷”(=電荷秩序)は、わずかな温度や圧力の変化によって常伝導−超伝導転移や強誘電−常誘電転移などを起こすことが報告あるいは示唆されています。
 従って、その光融解は、絶縁体から金属への転移だけではなく、より機能的な物性の光制御を実現する可能性をも秘めています。しかし、この現象はあまりにも高速に起こるため、光がどのように電子状態を変化させ、相転移を引き起こすのか、という最も基本的な疑問が解かれていませんでした。


■研究内容
 光は、電場(と磁場)の振動であることが知られています。本研究では、その振動の3周期分に匹敵する極めて短いパルス光(波長1.5ミクロン、パルス幅12フェムト秒;1フェムト秒は、千兆分の一秒。図2;パルスの発生装置の概観)を用いたポンププローブ分光(注5)によって、二次元有機物質(α−(BEDT−TTF)2I3(*)、BEDT−TTF=ビスエチレンジシオテトラシアフルバレンの略)における電荷秩序の融解のダイナミクス、すなわち、“電子の氷”が光によってどのように解け、絶縁体から金属へと変化するのか?という問題を明らかにしました。

*「α−(BEDT−TTF)2I3」の正式な表記は添付の関連資料を参照

 絶縁体から金属への変化は、大きな反射率の増加を伴います。図3は、絶縁体から金属への転移を表す反射率変化の時間変化(図3(a))と、電子や原子の運動を反映する振動成分(図3(b))です。図4に示した振動成分のスペクトログラム(=振動数の時間経過に伴う変化)から、以下のように、電子の氷が光によって駆動された凍結電子の振動によって融解し始める様子がわかりました。

i)結晶格子を組み、凍結していた電子群は、光が電荷秩序状態(低温相)に照射された瞬間、一糸乱れぬ振動(コヒーレント振動)を開始します(図1(a)および図4(i))。この電子群のコヒーレントな振動によって、15フェムト秒という極めて短い時間の間に凍結していた電子は融解を始めます。

ii)この電子のコヒーレント振動は、約50フェムト秒後には、電子の数千倍重い原子にもその影響を及ぼし始めます。まず、BEDT−TTF分子内の炭素二重結合が一斉に伸縮振動を開始します(図4(ii))。

iii)その後、分子内のより多数の原子が同時に動くような他の振動も順次巻き込みながら電荷秩序の融解が進行します(図4(iii))。

 本研究では、このような電子による相転移現象を、“光の振動数のひとゆれ”にも迫る究極的短時間でスナップショット観測することに初めて成功しました。


■今後の展開
 本研究で観測された、光誘起相転移へとつながるコヒーレントな電子や原子の振動は、物質のより精密な操作への道を拓くと期待されます。分子の光化学反応が、コヒーレント制御(注6)と呼ばれる方法によって光操作されていることはよく知られています。
 この方法では、フェムト秒パルス列によって物質に生成された、電子や原子の振動を互いに干渉させることによって光化学反応の効率を制御できます。これまで、光誘起相転移のコヒーレント制御ができなかった理由は、初期過程が複雑かつ高速であるため、制御するべき電子や原子の振動数がわからなかったことにあります。本研究によって、光誘起相転移へとつながる電子や原子の振動数が明らかになった今、光誘起相転移のコヒーレント制御も可能になります。コヒーレント制御によって、超高速光スイッチングデバイスへの応用に向けた光転移効率の増大や、光誘起超伝導などの新規な光相転移の実現も期待できます。
 本成果は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」研究領域における研究課題「先端超短パルス光源による光誘起相転移現象の素過程の解明」(研究代表者:岩井 伸一郎)によって得られたものです。


※用語解説、参考図などは添付の関連資料を参照

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