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東京商工リサーチ、2011年「円高」関連倒産動向の調査結果を発表
2011年「円高」関連倒産動向
〜 高水準の円高が続くなか、前年比24.6%減の58件 〜
2011年の外国為替市場は、10月31日に円相場が1ドル=75円32銭の戦後最高値を更新するなど、歴史的な円高が続いた。中小企業への影響が懸念されるなか、2011年の「円高」関連倒産は、前年比19件減(24.6%減)の58件となった。
減少要因としては、徹底したコスト削減やセーフティネット保証(5号)など政策支援、さらに金融ADR制度(金融分野における裁判外紛争解決制度)などの利用増加が影響したとみられる。
ただし、高止まりした円高が続き、企業の自助努力も限界に近づくなか、2011年10月(9件)、11月(10件)と件数を伸ばしたことから、今後の推移が注目される。
〔円高関連倒産/円高関連倒産の月次推移〕
*表・グラフ資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
<1993年〜1996年の円高時と似た倒産水準>
歴史的な円高水準が続くなか、今回の「円高」関連倒産は、セーフティネット保証(5号)など政策支援や金融ADR制度の利用、取引銀行の資金繰り支援などもあって前年を下回っている。
ただし過去の円高時と比べると、「円高」関連倒産が年間600件を超えた1986年(623件)と1987年(624件)には及ばないものの、1993年(44件)、1994年(57件)、1995年(105件)、1996年(48件)の期間と似た水準にある。
〔過去の「円高」関連倒産〕
*表・グラフ資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
<産業別卸売業が最多>
58件の産業別では、卸売業が37件(構成比63.7%)で最多となった。次に製造業が18件(同31.0%)、小売業・運輸業・サービス業他が各1件だった。
さらに細かな業種別では、機械器具卸売業が13件、繊維・衣服等卸売業が8件、飲食料品卸売業が6件、その他の卸売業が4件となった。
形態別では、破産が38件(同65.5%)と最多。次に民事再生法が14件(同24.1%)、銀行取引停止が5件(同8.6%)、内整理1件と続く。
<「円高」関連倒産の減少背景金融ADR制度の利用増加>
2010年の「円高」関連倒産は、前年比3.5倍の77件に急増した。この急増要因には、「通貨デリバティブ損失」倒産が26件発生したことがある。急速な円高進行で通貨デリバティブ(金融派生商品)を契約した企業が多額の損失を被り、対応できないまま資金繰りに行き詰まったケースが続出し、この問題は国会でも取り上げられた。
これに対し、2011年の「円高」関連倒産のうち「通貨デリバティブ損失」倒産が23件にとどまった。歴史的な円高水準が続くなか、今年の「通貨デリバティブ損失」倒産が増えない背景の一つには、金融ADR制度(金融分野における裁判外紛争解決制度)の利用による企業の救済申請の急増が大きい。
金融庁によると、2011年9月までの1年間で申請件数が1,320件にのぼった。さらに大手銀行を中心にして、為替系デリバティブ取引で損失を被った企業には経営実態に合わせ、決済資金や融資等の資金繰り支援に積極的に対応していることも効果を発揮しているとみられる。
東京商工リサーチ調べで、東証1部、2部に上場するメーカー90社(3月本決算企業)の約9割が2011年10月以降の想定為替レートを1ドル=70円台に変更した。しかし、中小企業では為替レートを見直す余力が乏しい。さらに国内下請け企業は、取引先からの値引き要請やコスト削減策への対応も限界に近づきつつある。2011年10月以降の「円高関連」倒産がジワリ増加していることは、こうした状況を反映したものともみられる。
円高が高止まりで推移すれば、国内メーカーに生産拠点の海外移転を促し、労働力や部品などの海外現地調達、現地生産という「産業の空洞化」も加速させていく。今後の円高動向を十分注視する必要がある。
〔産業別 倒産件数構成比/業種分類別 ランキング〕
*グラフ資料は添付の関連資料「添付資料」を参照