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産総研と大和製罐、高い酸素ガスバリア性を持つ透明フィルムを開発
微小な傷なら自己修復する酸素ガスバリアフィルム
−粘土を用いた食品包装材の実用化へ−
<ポイント>
●粘土とプラスチックからなるガスバリア層を塗布した透明フィルム
●柔軟で自己修復性も持つため、くしゃくしゃにしても酸素ガスバリア性を従来品よりも長く維持
●袋状に加工したり表面に文字を印刷したりすることが容易で、食品包装用フィルムなどに有望
<概要>
独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)コンパクト化学システム研究センター【研究センター長 花岡 隆昌】先進機能材料チーム 蛯名 武雄 研究チーム長らは、大和製罐株式会社【代表取締役社長 山口 久一】(以下「大和製罐」という)と共同で、高い酸素ガスバリア性を持つ透明フィルムを開発した。
産総研では従来、粘土を主成分とする膜材料「クレースト(R)」を研究開発しており、実用化に取り組んでいる。今回、親水性の粘土と水溶性のプラスチックの混合ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに薄く塗布することで、高い酸素ガスバリア性を持つ透明フィルムを作製した。このフィルムは、ガスバリア層が柔軟であることに加え、変形などによって生じたガスバリア層のピンホールも大気中の水蒸気を吸収して膨潤することで自己修復するため、くしゃくしゃにしても酸素ガスバリア性が従来品よりも容易には劣化しないことが特長である。
さらに、印刷技術を用いてペーストを高速にフィルム上に塗布する技術を確立し、幅50cmのロール品生産の製造にも成功した。開発したフィルム上にさらにポリプロピレン層を形成することで、袋状に加工したり、表面に文字を印刷したりすることが容易となり、食品包装用フィルムなどとして有望である(図1)。
なお、この技術の詳細は、2011年10月13日、14日に茨城県つくば市で開催される産総研オープンラボ2011で紹介する。
【図1 今回開発した酸素ガスバリアフィルムの断面構造(左)とガスバリア層の拡大図(中)、食品包装材の試作品(右)】
※添付の関連資料を参照
<開発の社会的背景>
食品包装用フィルムには、食品の劣化を防ぐために、酸素や水蒸気を通しにくいガスバリア性が求められている。現在、ダイオキシン発生の懸念から塩素を含むフィルムの使用は避けられており、シリカやアルミナなどの無機層を蒸着したフィルムが一般的に用いられている。これらのフィルムは、食品包装材に十分使用できる酸素ガスバリア性と水蒸気バリア性を持つが、折り曲げたりくしゃくしゃにしたりすると、蒸着した層が損傷して、酸素ガスバリア性が劣化するなどの問題があった。また、損傷を受けて劣化した酸素ガスバリア性を回復させることができなかった。
産総研が開発した粘土膜「クレースト(R)」は、柔軟でありながら、高い酸素ガスバリア性や水蒸気バリア性、透明性を持つため、食品・医薬品包装材料などへの利用が期待されている。しかし、ロール品としての連続製造が難しい、膜が脆く取り扱い性に劣るなどの課題があった。また、製膜後の乾燥に時間がかかるため製造コストが高く、食品包装材としての実用化が難しかった。
<研究の経緯>
産総研は、粘土膜「クレースト(R)」の開発(2004年8月11日産総研プレス発表)以来、大学などの研究機関や民間企業との共同研究によって、実用化に取り組んできた。2010年5月には産総研コンソーシアム「Clayteam」を設立し、産学官連携をさらに推進し、開発を加速・展開している(2010年9月13日産総研プレス発表)。大和製罐は、従来の包装容器製品に加え、軟包材などへの展開を行う上で、産総研の粘土膜技術に注目し、共同研究を開始した。
今回、ガスバリア層に用いる粘土やプラスチックの種類、それらの混合比、塗布厚み、塗布方法や条件などを検討し、さらに、ガスバリア層の自己修復性という新しい現象を見いだして、食品包装用フィルムの開発に至った。
※「研究の内容」など詳細は、添付の関連資料を参照