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埼玉医科大学と理化学研究所、アミロイド前駆体タンパク質の新規のアミロイド非産生経路を発見

2011-07-28

アルツハイマー病の発症に関わるアミロイド前駆体タンパク質の新しい代謝経路を発見
−副作用の少ないアルツハイマー病治療薬の開発につながる可能性−


本研究成果のポイント
 ○アミロイド前駆体タンパク質の新規のアミロイド非産生経路を発見
 ○新規の代謝経路はアミロイド前駆体タンパク質の脱リン酸化によって抑制されない
 ○リン酸化抑制はアルツハイマー病治療薬の新たな創薬の標的となる


 埼玉医科大学(山内俊雄学長)と理化学研究所(野依良治理事長)は、アルツハイマー病の発症に関わるアミロイド前駆体タンパク質(APP)(※1)が、既知のセクレターゼ(※2)による代謝経路とは異なる経路で代謝されることを明らかにしました。これは、埼玉医科大学医学部(別所正美医学部長)薬理学教室の丸山敬教授、浅井将助教と、東京大学の石浦章一教授、■下聡介大学院生(現在 理化学研究所 研究員)、理化学研究所の西道隆臣チームリーダー、岩田修永副チームリーダー(現在 理化学研究所 客員研究員)との共同研究による成果です。
 アルツハイマー病は、老人性認知症の中でも最も多い原因疾患で、脳内にβアミロイド(Aβ)(※3)が沈着することを発して、異常にリン酸化したタウが蓄積し、最終的に神経細胞が死滅することによって発症すると考えられています。Aβの前駆体であるAPPは、αまたはβセクレターゼによって代謝を受けてC末端断片(CTF)となり、CTFがγセクレターゼによって代謝を受けて最終的にAβやAPP細胞内領域(AICD)になります。これまで、塩化アンモニウムなどの薬物によって、γセクレターゼの基質(CTF)と生成物(AICD)が同時に溜まることはわかっていましたが、この現象についての詳細な研究はありませんでした。
 今回研究グループは、このγセクレターゼの矛盾する不可解な現象には、CTFとAICDの分解酵素が存在するからではないかと仮定し、塩化アンモニウムなどで阻害されるプロテアーゼに注目して解析を進めました。その結果、これまで考えられていたセクレターゼによる代謝経路とは別に、リソソーム(※4)などに多く存在するカテプシンB(※5)によってCTFとAICDが分解されることを特異的な阻害剤CA−074Meを用いて明らかにしました。また、CTFの分解ではγセクレターゼと競合しないこと、γセクレターゼはリン酸化されたCTFを優先的に代謝することを明らかにしました。これらの結果は、APPの細胞内動態や機能についての理解を深めることにつながる可能性があります。また、APPのリン酸化阻害剤や脱リン酸化促進剤は、副作用の少ないアルツハイマー病治療薬の標的になりうることを示唆しています。
 本研究は、科学研究費補助金、財団法人島原振興財団、および文部科学省地域イノベーションクラスタープログラム(都市エリア型)の助成を受けて行われたもので、科学雑誌「The FASEB Journal」オンライン版(7月11日付け:日本時間7月12日)に掲載されました。

※■印の正式表記は、添付の関連資料を参照


1.背景
 アルツハイマー病は、老人性認知症の中でも最も多い原因疾患で、脳内にβアミロイド(Aβ)が沈着することを発して、異常にリン酸化したタウが蓄積し、最終的に神経細胞が死滅することによって発症すると考えられています。Aβの前駆体タンパク質であるAPPの代謝を解明することは、アルツハイマー病の発症機構を明らかにし、治療薬の開発につながることから、精力的に研究が行われてきました。これまでの研究で、細胞膜を1回貫通したタンパク質であるAPPは、αまたはβセクレターゼによって切断を受け、残ったC末端断片(CTF)がγセクレターゼによって切断されて、最終的にAβやAPP細胞内領域(AICD)になるという代謝経路をたどることがわかっていました(図1)。しかし、リソソームを阻害する塩化アンモニウムなどの薬物によって、γセクレターゼの基質(CTF)と生成物(AICD)が同時に溜まることも知られていましたが、この現象についての詳細な研究はありませんでした。


2.研究手法と成果

(1)カテプシンBによるAPPの新しい代謝経路
 今回研究グループは、γセクレターゼ活性が完全に欠損しているマウス胎児線維芽細胞(※6)を用いて、塩化アンモニウム処理によってAPPのCTFが蓄積することを明らかにしました(図2A)。そこで、CTFとAICDの検出がしやすいように、APPが過剰発現するヒト・ニューログリオーマ由来培養細胞を用いて同様の実験を行ったところ、CTFとAICDが同時に蓄積しました(図2B)。
 そこで、どのプロテアーゼが関与しているのかを明らかにするために、塩化アンモニウムで阻害されるリソソーム系のカテプシン群に注目し、各カテプシン阻害剤を用いて調べました。その結果、システインプロテアーゼ阻害剤E−64dとカテプシンB特異的阻害剤CA−074Meのみに効果があることがわかりました(図3)。
 また、CA−074Me処理したとき、α、βおよびγセクレターゼの活性に変化は認められませんでした(図4)。このことから、既存のセクレターゼに依存しないカテプシンBを介したCTFとAICDの代謝経路があることがわかりました。

(2)カテプシンBとγセクレターゼの関係
 CTFはγセクレターゼとカテプシンBの基質になることがわかりましたが、両者の関係を調べるために、それぞれの阻害剤を用いて実験を行いました。その結果、CA−074Me単独処理群と比較して、CA−074Meとγセクレターゼ阻害剤を併用した処理群では、有意にCTFが蓄積することがわかりました(図5A、B)。また、このときにAβ産生には影響がなかったことから(図5C)、両者はCTFを競合していないと考えられました。さらに、γセクレターゼの重要な基質の一つであるNotch(※7)に対して調べたところ、CA−074Me処理はNotchの代謝に全く影響を及ぼしませんでした(図6)。このことから、カテプシンBはAPPのみに作用することがわかりました。

(3)γセクレターゼとリン酸化CTFの関係
 カテプシンBとγセクレターゼがどのように区別してCTFを代謝しているのかを明らかにするために、CTFのリン酸化部位に変異を入れたAPPを細胞に遺伝子導入し、CTFの蓄積を解析しました。その結果、カテプシンB阻害ではリン酸化部位の変異による変化はありませんでしたが、γセクレターゼ阻害では変異があることによってCTFの蓄積度が減少することがわかりました(図7A、B)。さらに、リン酸化を特異的に認識する抗体を用いた解析によっても、γセクレターゼ阻害でリン酸化CTFとCTFの割合が増加することがわかりました(図7C、D)。

3.今後の期待
 今回、これまで見過ごされていたCTFとAICDを代謝する酵素の存在が明らかになりました。アルツハイマー病の原因物質と考えられているAβと同じように、CTFやAICDの毒性も報告されています。カテプシンBの活性調節によって、これらの毒性が軽減される可能性があることを示唆しています。また、依然として不明な点が多いAPPの細胞内動態や機能についての理解を深めることにつながる可能性があります。
 さらに、γセクレターゼがリン酸化したCTFを優先的に代謝していることが判明しました。γセクレターゼ阻害剤はアルツハイマー病治療薬の有力な候補でしたが、昨年臨床試験が中止となりました。低濃度ではAβを増加させ、高濃度では別の基質(Notchなど)の代謝も阻害してしまうという、適用可能な濃度範囲が非常に限られていることが原因かもしれません。一方、CTFのリン酸化阻害を標的とした薬剤の場合、γセクレターゼの他の基質には影響を及ぼさないのでAPPに限られ副作用が少ないことが予想されると同時に、APPのリン酸化を担う酵素は神経原線維変化の構成成分であるタウもリン酸化するので、タウのリン酸化も阻害するという相乗的な効果が期待されます。


※「補足説明」・下記資料は、添付の関連資料を参照

 ・図1 セクレターゼによるAPP代謝とカテプシンBによる新しい代謝経路
 ・図2 塩化アンモニウムによるγセクレターゼの基質(CTF)と生成物(AICD)の蓄積
 ・図3 システインプロテアーゼ阻害剤E−64dとカテプシンB特異的阻害剤CA−074MeによるCTFとAICDの蓄積
 ・図4 CA−074MeによるカテプシンB阻害時の各セクレターゼ活性に対する影響
 ・図5 カテプシンBとγセクレターゼは基質としてCTFを競合しない
 ・図6 カテプシンB阻害はNotchの代謝に影響を与えない
 ・図7 カテプシンB阻害はNotchの代謝に影響を与えない

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