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近畿工業と産総研、使用済みHDDからネオジム磁石を回収する技術を開発

2011-05-26

使用済みハードディスクドライブからネオジム磁石を回収

−脱磁せずに磁石を打ち抜き、効率的に回収するリサイクル装置を試作−


ポイント 
 ネオジム磁石を含むボイスコイルモーターの位置を非破壊で瞬時に検知できる 
 1時間あたりハードディスクドライブ約200台の処理が可能で、破砕機内の磁着トラブルも解消 
 ネオジムなど希土類(レアアース)の安定的な原料確保への貢献が期待される 


概要 
 近畿工業株式会社【代表取締役 和田 直哉】(以下「近畿工業」という)は、独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)環境管理技術研究部門【研究部門長 田尾 博明】リサイクル基盤技術研究グループ 大木 達也 研究グループ長と共同で、使用済みハードディスクドライブ(以下、「HDD」という)から、ネオジムやジスプロシウムなどの希土類(レアアース)を含有するネオジム磁石を、脱磁せずに物理選別する技術を開発した。

 この技術は、HDD内のネオジム磁石を含むボイスコイルモーターの位置を非破壊で検知し、非磁性鋼製の打ち抜き刃により、HDDを脱磁することなくネオジム磁石部位だけを回収する物理選別技術である。磁気センサーと位置センサーを組み合わせることにより、HDDの製造年やメーカー、あるいは投入の向きや裏表にかかわらず、ネオジム磁石の格納部分を瞬時に検知できる。今回開発した試作機は3.5インチHDD専用であるが、将来的には2.5インチHDDや、他の磁石含有製品にも適用できる可能性があり、広くネオジム磁石のリサイクルに貢献することが期待される。 

 なお、本技術を用いた試作機(HDDカッティングセパレーター)を、2011年5月24〜27日に東京ビックサイトで開催されるNew環境展にて展示される。 

 HDDカッティングセパレーター試作機 

開発の社会的背景 
 ネオジムやジスプロシウムなどレアアースを多く使用するネオジム磁石は、HDD、モバイル機器から家電、ハイブリッド車、電気自動車など、大小さまざまなモーターなどに使用され、我が国のハイテク機器製造に欠かすことができない。これまでレアアースは輸入に強く依存してきたが、安定的な原料確保のため、有望な国内供給源として使用済み製品からのリサイクルを望む声が高まっている。 

 ネオジム磁石は製品のごく一部分としてしか使用されておらず、リサイクルの中間処理工程で物理的に濃縮することが不可欠である。しかし、通常の破砕工程を施せば、その強力な磁力によって破砕機内に強固に磁着して運転トラブルの原因となってしまう。また、破砕機から排出されたとしても、他の鉄片などと強固に磁着して十分に濃縮できない。 

 解決法の1つは事前に脱磁することである。ネオジム磁石はキュリー点が比較的低いため、300〜350 ℃程度に加熱すれば磁力を失う。しかし、例えば、HDDに重量割合でわずか1〜3 %しか含まれない磁石を脱磁するのに、HDD全体を加熱するのはエネルギー的に効率が悪い。強力な磁場に置いて非加熱脱磁する方法もあるが、装置が高価であるなど汎用性に課題がある。このような背景から、現状では手作業による解体が現実的な回収方法となっている。そのため、経済性や生産性に優れた実用的な機械化技術が求められていた。

研究の経緯 
 産総研では、センシング・ソーティング技術、選択粉砕技術、高度選別技術を駆使した、使用済み製品から希少金属を回収する物理選別技術の開発を行っている。HDDを対象としたネオジム磁石の回収に対しては、特殊な2段階の破砕(図1)によって純度95 %以上のネオジム磁石を粉末状で回収できることを突き止めている。その1段階目の破砕では、非磁性鋼製の破砕機によりHDDを脱磁せずに破砕して、磁石部位を10倍程度に濃縮する。その後、濃縮して10分の1の量となった磁石部位だけを脱磁(加熱脱磁を想定)し、2段階目の選択破砕・選別プロセスを経て純度95 %以上にできることをラボスケールで確認している。 

 
 図1 2段階破砕の全体フローと今般開発した1段階目の破砕装置の位置づけ 
  ※ 関連資料参照

 しかし、1段階目について、単に通常の破砕機を非磁性鋼製に変えただけでは、破砕機内の磁着は防げるが鉄片との磁着は抑制できず、磁石はせいぜい3倍程度にしか濃縮することができない。そのため、脱磁しなくても鉄片との磁気凝集を防止できる、工業的に利用が可能な第1段目の破砕技術の開発を行った。 

研究の内容 
 図2はHDDの表面(図1右)と表面の漏洩磁気を検出(図1左)した結果である。ハードディスクを回転させるスピンドルモーター部分で0.5〜1 mT(ミリテスラ)、アクチュエーターを作動させるボイスコイルモーター部分で0.5〜3 mTの漏洩磁気を検出することができた。これらの位置情報から、HDDケース内部の構造を類推できる。特に、扇形のヨークにネオジム磁石を挟んだ構造のボイスコイルモーターが、HDDケース内のどの場所にあるかが判れば、余分な部分を破砕せずにピンポイントで磁石部分だけを切り取ることが可能となり、鉄片との磁気凝集を防止できる。今回開発した試作機は、2個の位置センサーと4個の磁気センサーにより、瞬時に簡便にボイスコイルモーターの位置を検知できる。その後、検知したボイスコイルモーター部位を非磁性鋼製のポンチ(試作機では円形)の直下に搬送し、切り抜くことにより、1台あたり15〜20秒程度でネオジム磁石部分を回収する。 

 図2 HDDケース(右)と表面の漏洩磁場分布(左) 
   ※ 関連資料参照 

 図3(右)は、試作機によって切り抜かれた円盤状のボイスコイルモーター部分である。ネオジム磁石はほぼ全量がこの円盤の内部にあり、円盤の重量は全HDD重量の約10分の1であり、10倍程度に濃縮されたことになる。この磁石を含む円盤は前述の2段階目以降の工程でさらに濃縮される。また、この技術のもう1つの特徴は、切り抜かれた磁石部分以外のディスクなどがほぼ無傷で残る点にある。また、スピンドルモーター部分もその位置が検知可能であるので、スピンドルモーターの軸抜きなど、多様なリサイクル工程の自動化にも対応できる。

 図3 切り抜かれた円盤状のボイスコイルモーター部分 
  ※ 関連資料参照

今後の予定 
 2012 年頃までに本機を実用化する予定である。また、2 段目の破砕工程はラボスケールでは確立しているが、工業利用ができる技術への開発を並行して進める予定である。今回開発した試作機は、HDD 中のネオジム磁石の回収に特化した装置であるが、見えない対象物を検知して、ピンポイントで切り取る本技術は、各種のモーターなど、多様な磁石含有製品に応用することが期待できる。



※ 用語の説明・図説は、関連資料参照

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