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理研とJST、細胞死を司るカルシウム動態の制御機構を解明

2016-12-26

細胞死を司るカルシウム動態の制御機構を解明
〜アービットが小胞体−ミトコンドリア間のCa2+の移動を制御〜


 理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター 発生神経生物研究チームの御子柴 克彦 チームリーダー、ベンジャミン・ボノー 基礎科学特別研究員らの共同研究チーム(※1)は、細胞内カルシウムチャネル(注1)の制御因子「アービット(IRBIT)(注2)」が、小胞体(注3)からミトコンドリア(注4)へのカルシウムイオン(Ca2+)の流入量をコントロールすることで、「アポトーシス」を制御することを発見しました。
 アポトーシスはプログラムされた細胞死と呼ばれ、多細胞生物に見られる細胞の死に方の一つです。それは、不要になった細胞や損傷を受けた細胞が積極的に自滅することで、個体を健全な状態に保つために機能するメカニズムです。ストレス刺激などで細胞が損傷を受けると、エネルギー産生の場であるミトコンドリアへ過剰な量のCa2+が流入し、アポトーシスが誘導されます。このミトコンドリアへのCa2+流入は、細胞内のCa2+貯蔵庫である小胞体とミトコンドリアが接する場所である「小胞体−ミトコンドリア接触部位(注5)」で起こります。このCa2+の動きには、小胞体の膜上にあるイノシトール三リン酸受容体(IP3R)(注6)というカルシウムチャネルが重要な役割を果たしていますが、その制御メカニズムはよく分かっていませんでした。
 今回、共同研究チームは、ゲノム編集技術(注7)を利用してアービット(IRBIT)というタンパク質をコードする遺伝子を欠損したヒト細胞を作製・解析しました。その結果、アービット欠損細胞はアポトーシスが起こりにくいことが分かりました。また、小胞体−ミトコンドリア接触部位の構造に異常が見られ、小胞体からミトコンドリアへのCa2+の動きが阻害されていました。さらに「Bcl2l10(注8)」というタンパク質がIP3RのCa2+放出活性を阻害してアポトーシスを抑制すること、アービットがBcl2l10の抗アポトーシス作用を抑制することを見出しました。これらの結果は、アービットが小胞体−ミトコンドリア接触部位の形成、あるいは安定化を促進し、IP3Rを介したCa2+の動きを制御することにより、アポトーシスが誘導されることを示しています。
 アポトーシスがうまく機能しないと、例えばDNAに損傷を受けてがん化した細胞が死なずに増殖してしまうなど、疾患の原因になります。今後、アービットとBcl2l10による細胞内Ca2+動態の制御機構をさらに解析することは、アポトーシスの機能不全よって引き起こされる疾患の分子機構の解明へつながると期待できます。
 本研究成果は、英国の科学雑誌『eLife』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(2016年12月20日付け)に掲載されます。

 本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 国際共同研究(ICORP)「カルシウム振動プロジェクト」(代表研究者:御子柴 克彦)および発展研究(SORST)「カルシウム振動」(研究代表者:御子柴 克彦)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(S)の支援を受けて行われました。

 ※1)共同研究チーム
  理化学研究所 脳科学総合研究センター 発生神経生物研究チーム
   チームリーダー 御子柴 克彦(ミコシバ カツヒコ)
   基礎科学特別研究員 Benjamin Bonneau(ベンジャミン・ボノー)
   研究員 安東 英明(アンドウ ヒデアキ)
   研究員 河合 克宏(カワアイ カツヒロ)
  北海道大学 医学系研究科 医学専攻 解剖学講座
   准教授 岩永 ひろみ(イワナガ ヒロミ)

<研究の背景と経緯>
 「アポトーシス」はプログラムされた細胞死と呼ばれ、多細胞生物に見られる細胞の死に方の一つです。それは、不要になった細胞や損傷を受けた細胞が積極的に自滅することにより、個体を健全な状態に保つためのメカニズムです。アポトーシスがうまく機能しないと、本来は死滅すべき細胞、例えばDNAに損傷を受けてがん化した細胞が死なずに増殖してしまうなど、疾患の原因になります。
 アポトーシスは細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)によって制御されています。細胞が損傷を受けると、細胞内のカルシウム貯蔵庫となる細胞小器官である小胞体から、エネルギー生産の場であるミトコンドリアへCa2+が過剰に流入し、その結果アポトーシスが誘導されます。このミトコンドリアへのCa2+流入は、小胞体の膜とミトコンドリアの膜が接する場所(小胞体−ミトコンドリア接触部位)を介して行われます。小胞体からのCa2+の放出には、小胞体の膜上にあるイノシトール三リン酸受容体(IP3R)というタンパク質が重要な役割を果たしています。御子柴 克彦 チームリーダーらは、これまでにアービット(IRBIT)というタンパク質を発見し、アービットがIP3Rと結合し、その機能を制御していることを解明してきました(※2、3、4)。
 また、アポトーシスは、Bcl−2ファミリーというタンパク質群によっても制御されています。Bcl−2ファミリーには、アポトーシスを促進するグループと抑制するグループがあります。Bcl2l10というタンパク質アポトーシスを抑制するグループに属すことは分かっていますが、詳しい機能は分かっていませんでした。
 今回、共同研究チームは、アポトーシスの分子機構を明らかにするため、小胞体−ミトコンドリア間のCa2+の動きと、それを制御するアービットとBcl2l10の役割の解析を試みました。

 ※2)2006年6月13日プレスリリース「細胞内pHバランスの新たな制御機構の解明」
  http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2006/20060613_1/20060613_1.pdf
 ※3)2006年6月23日プレスリリース「細胞内のカルシウムチャネルに情報伝達を邪魔する“偽結合体”を発見」
  http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2006/20060623_1/20060623_1.pdf
 ※4)2015年4月14日プレスリリース「多動障害や社会行動の異常を抑える新しい分子機構を発見」
  http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150414_1/

 *研究手法と成果などリリース詳細は添付の関連資料を参照



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