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理研など、SARSウイルスの巧みな戦略を発見

2016-11-28

SARSウイルスの巧みな戦略
−プロテアーゼの特殊な基質認識−


■要旨
 理化学研究所(理研)構造生物学研究室の村松知成研究員と横山茂之上席研究員らの研究チーム(※)は、「重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス[1]」の主要なペプチド結合加水分解酵素「3CLプロテアーゼ[2]」が基質(酵素が作用する物質)を認識する際に示す新たなアミノ酸配列特異性を発見しました。

 SARSコロナウイルスはヒトの細胞に感染すると、自己複製のために必要なさまざまなタンパク質を合成します。その中には2種類の巨大なポリタンパク質があり、それぞれ1本のポリペプチド鎖(アミノ酸がペプチド結合でつながったもの)の中に複数のさまざまな酵素類を含んでいます。それら酵素の一つ、プロテアーゼ[2]はペプチド結合(−NH−CO−)の切断を通じて、さまざまなタンパク質のN末端[3]やC末端[3]を正しく形成する重要な働きをしています。この反応に関わる主要な3CLプロテアーゼはポリタンパク質の一部のため、自己の持つ酵素活性により切り出されて成熟型(活性型)となります。この作用を「自己プロセシング」と呼びます。自己プロセシングを機能させるために、3CLプロテアーゼは基質のポリタンパク質の中で自己のN末端側とC末端側の切断点付近のアミノ酸配列を厳密に認識しています。これまでの研究から、3CLプロテアーゼの基質認識メカニズムは全ての基質に対して同じであり、N末端側の切断部位の解析結果で、全てのメカニズムが説明できると考えられていました。

 今回、研究チームはX線結晶構造解析[4]により、3CLプロテアーゼが自己プロセシングでC末端側を切断する際に、これまでと異なる認識様式で、他の切断部位ではみられないアミノ酸配列の特異性を利用していることを発見しました。さらに、C末端側で3CLプロテアーゼが認識するアミノ酸配列を、通常のN末端側で認識するアミノ酸配列に置き換えたところ、成熟型3CLプロテアーゼの活性が1/2に低下することが分かりました。つまり、C末端側での特殊な認識様式は生成する成熟型3CLプロテアーゼの活性にも有利であることを示しています。今回発見した特殊な認識様式と認識配列は、自己プロセシングの効率を低下させず、生成される成熟型3CLプロテアーゼのC末端領域の自己阻害活性を抑制する“SARSウイルスの巧みな戦略”であると考えられます。これを逆手にとれば、この自己プロセシングのみに用いられるメカニズムをターゲットとする極めて特異性の高い創薬の開発が期待できます。

 成果は、米国の科学雑誌『Proceedings of National Academy of Science USA (PNAS)』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(10月31日付け:日本時間11月1日)に掲載されました。

 本研究は、文部科学省タンパク3000プロジェクト、文部科学省ターゲットタンパク研究プログラム、文部科学省及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)、JSPS科研費JP20570115の支援により行われました。

※研究チーム
理化学研究所
 横山構造生物学研究室
  上席研究員 横山 茂之(よこやま しげゆき)
  研究員 村松 知成(むらまつ ともなり)
  研究員 西井 亘(にしい わたる)
  研究員 寺田 貴帆(てらだ たかほ)

 ライフサイエンス技術基盤研究センター 構造・合成生物学部門
  タンパク質機能・構造研究チーム
  チームリーダー 白水 美香子(しろうず みかこ)
  副チームリーダー 竹本 千重(たけもと ちえ)

 生命分子システム基盤研究領域(研究当時)
  研究員(研究当時) Yong−Tae Kim(ヨンテ・キム)
  研究員(研究当時) Hongfei Wang(ホン・フェイ・ワン)

 *リリース詳細は添付の関連資料を参照






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