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東大と東北大、大西洋の爆弾低気圧によって励起された脈動実体波を解明

2016-08-31

大西洋の爆弾低気圧によって励起された脈動実体波


1.発表者:
 西田 究(東京大学地震研究所 数理系研究部門 准教授)
 高木 涼太(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター 助教)

2.発表のポイント:
 ◆大西洋で発生した爆弾低気圧による海洋波浪が励起したP波・S波を日本の観測記録を使って検出した。震源情報を定量化することによって、その発生メカニズムを明らかにした。
 ◆嵐によってP波だけでなくS波が励起されていることを初めて検出した。
 ◆嵐によるP波・S波を利用することで、地震・観測点ともに存在しない、海洋地域を通過する嵐直下の地球内部構造を推定し、新たな地球科学的な知見を与える可能性がある。

3.発表概要:
 2014年12月9日爆弾低気圧が大西洋で発生しイギリスやアイルランドに被害をもたらした。その際に海洋波浪により発生したP波は地球深部を伝播し日本にまで到達した。観測されたP波の振幅は0.1μmと一見小さいが、同じ地域で起こったマグニチュード6の地震にも匹敵する。このような海洋波浪起源の地震波は、近年、地球内部構造を調べる上で注目されている。
 東京大学地震研究所の西田准教授、東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センターの高木涼太助教は、嵐による海洋波浪が励起する脈動S波(注1)を初めて検出し、観測データから嵐がどのように地震波(P波・S波などの実体波)を励起しているかを明らかにした。
 大西洋で発生した爆弾低気圧時の日本の地震計記録を解析し、爆弾低気圧によって励起された周期5−10秒のP波・S波を検出し、震源位置と強さを推定した。低気圧の移動にともない震源は海底の等深線に沿って移動している事が分かった。
 本研究は、遠く離れた嵐によって励起された地震波を使って嵐直下の地球内部構造が推定できる可能性を示している。地震、観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性を意味し、地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある。

4.発表内容:
<研究の背景>
 地震波を用いた構造探査手法は、全地球スケールの地球内部構造を知る上で大きな役割を果たしてきた。その解像度は地震分布の偏りに大きく制約されてきた。近年この問題点を解決すべく、海洋波浪によって励起された脈動を使い観測点間の構造を抽出する手法(注2、地震波干渉法)が発展しきてきた。実際に多くの地域で、地殻構造・上部マントル構造が決定されるようになってきた。しかしながら、地震波干渉法は地震分布の偏りを克服することには成功したが、なお構造推定は観測点の分布により制約されることとなる。また、海洋波浪起源の脈動には表面波が卓越しているため、地下深部構造の推定は原理的に難しい。
 しかし近年、遠方の嵐が励起した脈動の実体波成分が報告され注目され始めている。先行研究では数1000km以上離れた嵐が励起したP波が観測可能なことが示されており、励起源の空間分布が推定され議論されてきた。S波の存在も理論的には予測されていたが実際に観測されてはいなかった。実体波(P波・S波)は地球深部を伝播するため、地球の深部構造を推定するためには重要な波である。しかし、海洋波浪起源の表面波に比べ未解決な問題が多い。そこで、本研究では、日本列島の高密度の地震計観測網Hi−netのデータを使用し、脈動実体波の励起メカニズムを明らかにする事を目指した。

<研究内容>
 本研究では、大西洋で2014年12月9日に発生した爆弾低気圧時の地震計記録を解析した(図1)。解析期間は12月9−11日の期間、日本列島の高密度の地震計観測網Hi−netの地震計記録(3成分)を解析した所、爆弾低気圧によって励起された周期5−10秒のP波を(図2)を検出した。同時にSH波(水平方向に偏光したS波)とSV波(鉛直方向に偏光したS波)を検出した。S波の検出は初めての事である。特にSH波は理論的にはSV波に比べ桁で小さいと予測されていたため、驚きの観測結果である。
 地震波逆伝播法を用いて震源の位置を精密に推定した所、低気圧の移動にともない震源が移動している様子が明らかとなった(図3)。12時間かけて北東に移動し、次は南へ進路をかえ、さらに12時間後には東へと進路を変えた。海底地形と比べてみると、震源は等深線に沿って移動している様子が分かる。これは特定の水深で脈動実体波が共鳴して振幅が大きくなっている事を示している。またS波の震源はP波より若干西側の堆積層が厚い領域に推定された。これは堆積層内のS波速度が遅いため、S波がトラップされ、結果として振幅が強調されていると解釈できる。また、堆積層内で多重反射する際にSV波のエネルギーの一部がSH波に変換したと考えられる。P波・SH波・SV波にどの程度のエネルギーが分配されているかは、今後脈動の励起メカニズムを探る上で重要な観測量となるであろう。
 より定量的に理論を検証するため、海洋波浪モデル(WAVEWATCHIII)を使ってP波の理論的な予想値と比較した。震源位置・強さともに理論値と観測から推定した値と整合的であることが分かった。以上の結果を総合すると、P波の振幅はこれまでの理論でおおよそ説明可能であるが、S波について定量的な比較は未だ難しい。今後、理論の高度化が必要だろう。

<今後の展望>
 本研究では、嵐によって励起された脈動実体波成分が点震源で表現出来るという事を示した。これは地震に変わる新たな地球内部を照らす光を見つけ出した事を意味し、嵐直下の地球内部構造推定できる可能性を示した。言い換えると、地震、観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性を意味し、地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある。台風・ハリケーン・爆弾低気圧など局在化された強い気象擾乱は各地に存在する。今後これらの事例を集めカタログ化し、今後、地震がなく地震計がない地域(特に南半球)の地球内部構造推定を目指していく予定である。

5.発表雑誌:
 雑誌名:Science(2016年8月26日)
 論文タイトル:Teleseismic S− wave microseisms
 著者:Kiwamu Nishida*,Ryota Takagi
 DOI番号:10.1126/science.aaf7573

 ※用語解説・図1〜図3は添付の関連資料を参照




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