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群馬大、産総研などとヤヌスキューブの簡便な合成法を開発し結晶構造の解析に成功

2016-06-01

ヤヌスキューブの簡便な合成法を開発し、結晶構造の解析に成功
−2つの顔を持つケイ素と酸素からなる立方体−


■ポイント
 ・フッ素を含むケイ素化合物を新規に合成し、選択的に結合させる新しい合成法を開発
 ・きわめて簡便な合成法であり、さまざまなヤヌスキューブの合成が可能
 ・有機−無機ハイブリッド材料としてさまざまな分野での応用に期待


■概要
 国立大学法人 群馬大学【学長 平塚 浩士】(以下「群馬大学」という)大学院理工学府 海野 雅史 教授、武田 亘弘 准教授、江川 泰暢 博士、小栗 直己 修士らのグループは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)触媒化学融合研究センター(http://irc3.aist.go.jp/) 佐藤 一彦 研究センター長がプロジェクトリーダーを務める、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(研究テーマリーダー:産総研 触媒化学融合研究センター ヘテロ原子化学チーム 五十嵐 正安 主任研究員)の一環として、かご型構造を持つケイ素化合物に、異なる2種類の置換基を対面に配置した「ヤヌスキューブ」と呼ばれる物質の簡便な合成法を開発し、その結晶構造を初めて解析した。本化合物はエコタイヤの性能向上や建築材の高機能表面改質などを実現する有機−無機ハイブリッド材料として応用が期待される。

 今回、フッ素を含む新たなケイ素化合物を合成し、別のケイ素化合物のナトリウム塩とのあいだのカップリング反応によりヤヌスキューブを簡便に合成した。この成果の詳細は、Angewandte Chemie,International Editionに5月25日(ドイツ時間)に掲載され、同誌のCover Pictureとして中表紙を飾った。なお、今回の成果に関する特許は群馬大学と産総研で共同出願済みである。

 ※参考画像は添付の関連資料を参照


■研究の経緯
 群馬大学と産総研は高機能の有機ケイ素材料の開発を目指して、構造が高度に制御されたシロキサン化合物の合成に取り組んできた。ケイ素と酸素からなる立方体(キューブ)骨格の対面に異なる2種類の置換基をもつヤヌスキューブの合成は、20年以上に渡り挑戦的な課題として試みられてきた。ヤヌスキューブの合成についてはいくつか報告例があるが、いずれも、さまざまな不純物が副生成物として生成され、不純物からヤヌスキューブだけを分離することが困難であった。

 今回、合成プロセスを改善して、従来よりも収率を大幅に向上させるとともに、X線結晶構造解析によって、その詳細な構造を初めて明らかにした。本手法を用いればさまざまなヤヌスキューブを合成可能である。

 なお、本研究開発は、経済産業省「未来開拓研究プロジェクト/産業技術研究開発(革新的触媒による化学品製造プロセス技術開発プロジェクトのうち有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発)」(平成24〜25年度)とNEDO「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(平成26〜33年度)による支援を受けて行った。


■研究の内容
 今回開発した合成法のポイントは、フッ素を含むケイ素化合物(フルオロシロキサンと総称される)を新たに合成して原料とし、新しいカップリング反応を実現した点である。原料は図1に示したように、ヤヌスキューブを二つに割ったようなハーフキューブを用いている。いずれの化合物も市販の原料から1段階または3段階で合成でき、困難な分離精製は必要とせず簡便にヤヌスキューブを得ることができる。また、本手法によれば多彩な置換基を自由に導入したヤヌスキューブを合成することができる。

 これまでヤヌスキューブのようなシロキサンの合成には、ケイ素と塩素を含む化合物が主に用いられてきたが、ケイ素−塩素結合は水などによって比較的簡単に分解する。そのため、結合が切れたり、置換基の位置が入れ替わったりする問題があった。それに対してケイ素−フッ素結合は非常に安定で、水中でも分解しない。また、反応で発生する副生成物は、中性のフッ化ナトリウムであるため、分離精製が容易である。図2にX線結晶構造解析による分子構造を示す。異なる2種類の置換基が対面に配置しており、ヤヌスキューブであることが分かる。

 今回開発したヤヌスキューブは、有機−無機ハイブリッド材料をはじめとするさまざまな高機能材料の原料となることが期待できる。ヤヌスキューブに、イオウを含む置換基を導入すれば、分子レベルでシリカを分散させることできる。これにより、シリカ配合「混合物」として性能向上が試みられてきたエコタイヤを「均一物」として作成することができ、高い機能を示すことが期待できる。また、水酸基を置換基として導入すれば、シリカ、アルミナ、チタニアなどの金属酸化物や、金属と直接反応することができ、広く利用されているシランカップリング剤に代えて、接着性と耐熱性を一度に導入することも可能である。

 ※図1・2は添付の関連資料を参照


■今後の予定
 現在、反応性の置換基としてビニル基、あるいは水酸基を有するヤヌスキューブの合成を検討している。このような化合物は上述のように有用な化合物または、次世代シランカップリング剤としての応用が期待でき、重要な材料前駆体となりうる。さらに、今後は実用化へ向け、コストダウンや大量合成を検討する予定である。


■論文情報
 論文誌名:
  Angewandte Chemie International Edition

 題目とWeb掲載サイト:
  Janus Cube Octasilsesquioxane:Facile Synthesis and Structure Elucidation
  (論文)http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201602413/full
  (カバーピクチャー)http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201604248/epdf


■用語の説明
 ◆置換基
  有機化合物の水素原子を他の原子または原子団により置き換えた誘導体において、水素と置き換わった原子または原子団をさす一般的な呼称。

 ◆ヤヌスキューブ
  ケイ素と酸素からなる立方体(キューブ)骨格に、その対面に4つずつの異なる2種類の置換基をもつ化合物。2つの顔を持つローマ神話の神ヤヌスに因んで、米国ミシガン大学のR.Laine教授によって命名された。

 ◆有機−無機ハイブリッド材料
  有機材料の特性(柔軟性、耐衝撃性、軽量性、加工性など)と無機材料の特性(耐久性、耐熱性など)を合わせ持つ材料。有機成分と無機成分を分子〜ナノレベルで混合して得られる。

 ◆カップリング反応
  異なる化学物質を選択的に結合させる反応のこと。今回はケイ素化合物と、別のケイ素化合物のナトリウム塩との結合形成反応によってヤヌスキューブを合成した。

 ◆有機ケイ素材料
  分子内にケイ素−炭素結合を有するケイ素化合物の総称。

 ◆シロキサン化合物
  ケイ素−酸素結合をもつ化合物の総称。有機基をもちポリマー状になっているものはシリコーンとも呼ぶ。

 ◆シリカ
  二酸化ケイ素の通称。石英、クリストバライトなどの結晶性シリカとシリカゲル、ケイソウ土などの非晶質シリカに大別される。いずれもSiO4の四面体が酸素原子を共有して三次元的に連なった構造をもつ。シリカゲルは化学的・物理的安定性に優れ、表面積などの細孔特性を広範囲に制御できることから、乾燥剤、吸着剤、触媒担体、医薬品・食品添加など幅広い用途に使用されている。

 ◆アルミナ
  酸化アルミニウムのこと。組成式はAl2O3。

 ◆チタニア
  酸化チタンのこと。組成式はTiO2。

 ◆シランカップリング剤
  有機材料と無機材料を結合させるケイ素化合物のこと。



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