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九大、混ざらない金属元素同士がナノ粒子化により均質に混じり合う謎を解明

2016-02-16

混ざらない金属元素同士がナノ粒子化により均質に混じり合う謎を解明
−新しい機能物質創製への展開に期待−


●概要
 九州大学稲盛フロンティア研究センターの古山通久教授、石元孝佳特任助教らの研究グループは、通常は混ざらない金属元素同士がナノ粒子化によって均質に混じり合うようになるしくみを理論的に解明することに成功しました。この研究成果は、混ざらない元素を混ぜることで新たな物質機能を創製しようとする元素間融合アプローチの基礎となる科学的新規性の発見に加え、燃料電池電極触媒や排ガス浄化触媒用の新物質創製のための実用的なアプローチとして今後の展開が期待されます。
 本研究成果は、2016年2月10日(水)午前0時(米国東部時間)にアメリカ化学会誌『Journal of Physical Chemistry Letters』のオンライン版に掲載されます。


■背景
 近年、水と油のように混ざり合わない金属同士を原子レベルで混ぜ合わせる「元素間融合」と呼ばれるアプローチが注目を集めています。例えばパラジウム(Pd)と白金(Pt)はバルク(※1)の状態では混ざることのない元素の組み合わせとして知られています。この混ざり合わないPdとPtのコアシェルナノ粒子(※2)を作成し水素処理を行うことで、PdとPtが原子レベルで均質に混じり合ったナノ粒子が合成されました。一方、燃料電池電極触媒として用いられている白金の使用量低減に向けてコアシェルナノ粒子が研究されていますが、動作中にPdとPtが均質に混じり合ったナノ粒子を形成して触媒能が低下するという問題があります。このように原子レベルで混ぜたい元素を混ぜ、混ぜたくないものは混ざらないようにするなど混合状態を制御出来れば、優れた特性を持つ触媒や全く新しい材料・機能を有する金属ナノ粒子を自在に作り出すことが可能です。しかし、なぜナノ粒子化することでPdとPtは混ざり合うようになるのか、特殊な条件下の合成や動作のもとで混ざり合うのかといった本質的なメカニズムは謎のままでした。


■内容
 本研究グループでは、密度汎関数理論(※3)に基づく計算と大規模計算機システム(※4)を活用し、PdPtナノ粒子の安定性の起源を解明することに成功しました。
 本研究では、711個の原子からなる粒径約3nm(ナノメートル)に相当するPdPtナノ粒子モデルを用いて、コアシェル構造を含む異なる混合状態の安定性を評価しました。実験環境に相当する温度の影響を考慮するために、振動と配置に由来するエントロピー(※5)の効果を取り込み、PdPtナノ粒子の過剰エネルギー(※6)を比較しました。その結果、均質に混合したPdPtナノ粒子はPdコア−Ptシェルのナノ粒子よりも安定な状態として存在することが示されました。

 *図1は添付の関連資料を参照

 その理由として、バルクでは不安定化に働く混合のエンタルピー(※7)がナノ粒子では表面の効果などにより熱力学が変化したことが挙げられます。加えて均質混合したナノ粒子では、原子がばらまかれる多様性の指標である配置のエントロピーの影響が大きく寄与していることがわかりました。さらに、同じ組成であっても混合状態により異なる電子状態を取っていることが明らかとなり、異なる活性が期待されることが示されました。以上の結果から実験的に報告されている均質混合したPdPtナノ粒子は、特殊環境下で存在する準安定の状態ではなく、熱力学的に安定して存在することが明らかとなりました。


■効果
 高い耐久性・触媒能や新しい機能を有する金属ナノ粒子は、自動車触媒、燃料電池触媒など様々な分野において求められています。本研究成果を活用することで、バルクでは混ざらない元素の組み合わせでもナノ粒子として安定に混合する組み合わせを密度汎関数理論に基づき予測することが可能になります。これまでほとんど試されていなかった混合しない元素の組み合わせの数は膨大であり、理論駆動により未知の新物質の探索を効率的に進めていくことが期待されます。加えて、混ぜたくないものが混ざらないようにするなど混合状態の自在制御のための戦略策定にも活用可能です。


■今後の展開
 今回の密度汎関数理論に基づく計算では粒径約3nmの金属ナノ粒子に着目し、PdPtナノ粒子の混合状態と安定性や電子状態の関係を明らかにしました。金属ナノ粒子はその用途により最適な粒径が異なり、動作環境によっては長期の運用中に粒径が肥大化します。また構成元素の種類や混合比によっても安定性や電子状態は異なります。今後、飛躍的に高い触媒活性や新規物性を有する金属ナノ粒子を、理論駆動で創製するための応用展開を進めます。

 *図2は添付の関連資料を参照


■本研究について
 本研究の計算機環境については九州大学情報基盤研究開発センター「先端的計算科学研究プロジェクト」の支援を受けて行われました。また科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CREST(Core Research for Evolutionary Science and Technology)「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」研究領域(研究総括:玉尾皓平 京都大学 名誉教授)における研究課題「元素間融合を基軸とする新機能性物質・材料の開発」(研究代表者:北川宏 京都大学 教授)の支援を受けて行われました。
 加えて稲盛フロンティア研究センターの研究活動は京セラ株式会社の支援を受けて行われました。


■掲載論文
 題目:Phase Stability and Electronic Structure of PdPt Nanoparticles
 著者:Takayoshi Ishimoto, Michihisa Koyama
 雑誌名:The Journal of Physical Chemistry Letters
 DOI:10.1021/acs.jpclett.5b02753


【用語解説】
 (※1)バルク:表面の原子数が内部の原子数よりも無視できるほどに十分に小さく物質本体の状態を意味する。
 (※2)コアシェルナノ粒子:内部と外側が異なる元素で構成されており、二重構造をしている粒径サイズがナノメートルの粒子。図2理論駆動による新規ナノ粒子創製へのアプローチM807(3.0nm)M1289(3.5nm)M2406(4.4nm)M405(2.3nm)安定性・粒径・形状・相・組成・温度多元系ナノ金属への応用
 (※3)密度汎関数理論:量子力学に基づいて対象とする系のエネルギーや電子状態を電子密度から計算する方法。
 (※4)大規模計算機システム:コンピュータの演算子を大量に結合して構成するコンピュータシステム。
 (※5)エントロピー:乱雑さの指標となる状態量。温度が高くなるとエントロピーは増大する。
 (※6)過剰エネルギー:ナノ粒子の混合状態の安定性を評価する指標。値が負であれば安定。
 (※7)エンタルピー:状態の変化に伴う発熱・吸熱挙動にかかわる状態量。エントロピーとは全く異なる物理量。



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