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東大、非小細胞肺がんに対するがんワクチン療法の多施設共同医師主導治験を開始
非小細胞肺がんに対するがんワクチン療法の多施設共同医師主導治験を開始
〜手術後の肺がんの再発予防に向けた臨床開発を推進〜
1.発表のポイント
◆大学発の新規がん治療用ワクチンの第2相医師主導治験を多施設共同で開始しました。
◆肺がんに対する新たな治療法の開発を進めます。
2.概要
東京大学医科学研究所附属病院(抗体・ワクチンセンター)、神奈川県立がんセンター(呼吸器外科)、国立がん研究センター東病院(呼吸器外科)の研究グループは、手術においてがんの完全切除がなされ、その後、術後補助化学療法が実施された非小細胞肺がん患者を対象に、大学発のがん治療用ワクチン(注1)の第2相医師主導治験(注2)を多施設共同で開始しました。今回の治験で用いられるがんワクチンは、肺がん細胞で高頻度に発現する複数の抗原を標的としています。これまでのがんワクチンの開発研究から、患者ごと、およびがん細胞ごとに抗原の発現パターンが異なるがんの不均一性(heterogeneity)や患者ごとに異なる各ペプチドに対する免疫応答が認識されており、複数の種類の抗原由来ペプチドを含むがんワクチンでは、より幅広い患者で効果を発揮することを目指しています。本治験は、3機関が下記の通り医師主導治験を実施し、肺がんに対する新たな治療法の開発を進めます。
【治験の概要】
主目的:無再発生存期間を指標として、プラセボ群との比較によりがんワクチンの有効性を評価する。
対象疾患:手術において外科的完全切除がなされ、その後、術後補助化学療法が実施された非小細胞肺がん。
投与方法:がんワクチン(治験薬)の皮下投与。
予定症例数:60例
実施施設:東京大学医科学研究所附属病院、神奈川県立がんセンター、国立がん研究センター東病院
試験時期:平成27年度〜平成29年度(登録期間:24か月を予定)
【本治験の背景】
厚生労働省の人口動態統計によれば、がんは1981年以来、日本における死亡原因の第1位であり、1960年代以降増え続け、最近では総死亡のおよそ3割を占めています。その中でも肺がんは、現在、がんによる死亡原因の1位となっていますが、その約8割を占めるのが非小細胞肺がんです。手術適応のある非小細胞肺がんに対し、完全切除後に術後補助化学療法を行った場合でも、再発を来たす場合があり、一旦、再発するとその後の治癒は困難であるのが現状です。そのため、がんの完全切除に引き続き、術後補助化学療法が行われた後、その後の再発率を低下させる補完的な治療の開発が求められており、本治験もその1つとして計画されました。
本治験では、東京大学での研究から開発されたがん治療用ワクチンについて、平成26〜27年度に文部科学省および日本医療研究開発機構「橋渡し研究加速ネットワークプログラム・シーズC」の開発支援を受けており、医薬品医療機器総合機構への治験届出が受理されています。この度、治験を先行していた東京大学医科学研究所附属病院が治験調整機関となり、新たに2つのがん診療連携拠点病院(神奈川県立がんセンター、国立がん研究センター東病院)を加えた多施設共同医師主導治験体制で治験薬の投与試験を開始することになりました。
3.用語解説:
(注1)がん治療用ワクチン:がん治療用ワクチンの一つであるがんペプチドワクチンは、細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導することにより抗腫瘍効果を発揮します。投与されたがんワクチン(腫瘍抗原分子のペプチド)が抗原提示細胞である樹状細胞に取り込まれ、その細胞表面で形成されたエピトープペプチドと主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子の複合体がCTLにより認識されることにより、その腫瘍抗原に特異的なCTLが誘導されます。誘導されたCTLは、同様にエピトープペプチドとMHCクラスIの複合体が細胞表面に提示されている標的腫瘍細胞に対して細胞傷害活性を示します。
(注2)医師主導治験:医師主導治験は、医師自らが治験を企画・立案し、治験計画届を提出して実施するもので平成15年の薬事法改正により、可能となりました。医師自らが治験を実施することを制度上可能とすることで、企業のみでは臨床開発が進みづらい医薬品や医療機器でも、薬事承認取得を目指すことが可能となりました。第2相試験とは、第1相試験で安全性が確認された投与量を用いて、比較的少数の患者を対象とし、主に被験薬の有効性および安全性を調べるための試験です。